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★ 話の缶詰 ★

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ちょっと読めて楽しめる、肩の凝らない、そんなお話を詰め合わせてみました。 まずはお試しにいかがですか?
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#記憶

秘密のメッセージは知らない世界への入口

秘密のメッセージは知らない世界への入口

 今はもう、無いのだろうな。
 昔、新聞の三面(テレビ欄が載ってるページの裏面、いわゆる社会面)の下方に、時おり「たずね人」や「探しています」「お知らせ」という四角い小さな囲みの伝言が載ることがあった。

 個人情報がこれだけうるさい昨今では、不特定多数が見るメディアに、個人的な情報を載せるなんて、と思われるだろう。
 だが、まさに、その不特定多数に向けて発信していたのが、この欄である。
 すなわ

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記憶を売る店

記憶を売る店

 古い市場の中を歩いていた。シャッターが閉まったままの店舗が増えて、寂しい感じがするが、再来年には創設100周年を迎えるという長い年月を経てきた市場だ。
 乾物屋やお惣菜屋、魚屋、漬物店などが元気に営業中だ。

 ふと、見慣れない店があるのに気がついた。古いガラスケースや木製の古い棚にごちゃごちゃと色んな物が置かれている。
 最近できたのかな?アンティーク、というよりはガラクタに近い商品の数々。

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SとTの海物語

SとTの海物語

「海へ行こうか」
「海に行こう」
「間に合うかな」
「今は午後0時15分だから干潮が始まってる頃だ」
「それだったらちょうどいい」
「今から河を下っていけばちょうど砂浜が見られる」
「蟹がいるかな」
「エビもいるよ」
「ヤドカリはあわてて砂にもぐるよ」
「楽しみだな」
「楽しみだ」
「ところであの古い市場の魚屋の裏に海があるのは知ってたかい」
「海があるのかい」
「小さな海なんだ。魚屋の裏手に駐車

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