連作短編集。喋るのが苦手な少年や、音楽の才能はあるのにプロにはならないと決めた先生や、ことば以外の方法で表現するのが得意な少女、そんなひとびとのゆるやかな繋がりの話です。
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2020年7月の記事一覧
【小説】4 植物観察のしかた
天気雨の中で、傘も差さずに佇んでいる。
むせ返るような緑の匂いと、濡れた路面の匂いが混じる。夏の匂いだ。雲の隙間からやわらかい橙色の光が差し込んで、空中で水滴に反射してきらめく。とめどなく降る雨は強く地面を叩く。ばらばらと音が響く。私は西の空を見上げる。顔に雨粒が当たるが不思議と痛くはない。上空をすごい速さで雲が流れていくのが見える。体ごと振り返って東の空を見る。不気味なほど黒い雲を背にして、