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Netflixオリジナル 『ザ・クラウン』 王女の孤独 心の叫びがせつない

ザ・クラウン THE CROWN Season3-10 心の叫び
原作・制作:ピーター・モーガン 2019年 ドラマ( Netflix )


Netflixオリジナルの中で一番好きなドラマが「ザ・クラウン」。

英国王室を舞台に、女王エリザベス2世とロイヤルファミリーの人生を描いたこのドラマは、Season3からキャストを刷新。

在位中の女王をはじめ、現在活躍しているロイヤルファミリーをこうも忖度なしにドラマ化するのは日本の感覚から考えると驚きだが、王室の人々の内面を描く秀逸なヒューマンドラマ。「ハウス・オブ・ウィンザー」として積み重ねた歴史が背景にあることで、全てのエピソードに深みと重みが加わっている。

とにかく、一度観ただけでは飽き足らず、なんども繰り返しみたくなるのがこの作品。昨夜はSeason3のラストエピソード「心の叫び」を鑑賞した。

このエピソードの主役は女王の妹マーガレット王女。

彼女とその夫である民間出身の写真家アンソニーの婚姻関係は破綻している。
彼には不倫相手がおり、マーガレットの心は荒れている。自分も当てつけのように若い男と浮気をするが、それがパパラッチにすっぱ抜かれて新聞の一面を飾ってしまう。少なくともこのような不祥事が公になってしまうことは、当時の王室の人間としては許されることではない。

追い詰められた彼女は大量の薬を服用し、一時危険な状態に陥る。
命は取り留めたものの、これがアンソニーとの別れへとつながっていく。
この、よくある男と女の破綻物語は、彼女が王室の人間であるという特別な事情によって別の色を帯びている。

マーガレットの初恋相手は父親であるジョージ6世の侍従武官ピーター・タウンゼントだった。離婚歴のあった彼とは結ばれることを許されず、彼女は悲嘆にくれる。破天荒で自由に生きた印象のある彼女だが、その後も男運には恵まれていたとは言い難い。

このエピソードのタイトルである「心の叫び」でも表現されていたように、彼女はいつも寂しかったのだと思う。年の離れたタウンゼントに惹かれたのも、父のように自分溺愛してくれることを男性に求めていたのかもしれない。 

自分を王族として特別扱いしないアンソニーに惹かれた一方で、大切にされないことに苦しむマーガレット。不器用で寂しがりやで、でも王女としてのプライドを棄てることもできず、結局のところ「孤独」だったのだと思う。
だからこそ彼女の「心の叫び」が痛かった。

ところで、このドラマでマーガレットを演じているヘレナ・ボナム・カーターは、「英国王のスピーチ」ではジョージ6世を支える妻で王妃(エリザベス女王とマーガレット王女の母)を演じている。
こちらの映画では、愛を与えられることを切望するマーガレット王女とは対照的に、大切な人に存分に愛を与えることができる心の広い女性を演じている。

同じ人物が演じた2人の女性を見るにつけ、人は求めるよりも与えることで、幸福感を得ことができるのだとつくづく思う。
でも、与えることを自然にできる人以外には、それは決して簡単なことではない。求めること(与えられること・愛されること)に執着すれば、心に傷を負って苦しむことになるとわかりながら、やめらない。結局はその傷を自分で癒し、与える側の境地にたどり着くしかないのだ。

そうは言っても「心の叫び」を抱えた人生を否定するわけではない。苦悩はあれど、それはひとつの生き方だ。求めつづけることも個性のひとつだし、そのような生き方が人々の心に何かを残すのもまた事実なのだから。



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