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映画・ドラマのレビュー

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映画・ドラマ・ドキュメンタリーなど鑑賞した映像のレビューと、作品から感じたことを綴ります。(ネタバレあります)
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#映画レビュー

映画『スウィング・キッズ』ーそして自由の価値を知る

昨年公開になった韓国映画「スウィング・キッズ」をようやく鑑賞。 映画「フラガール」的な展開になるのかと思いきや、着地点は全く別の場所だった。 2時間を優に超えるこの作品の鑑賞後、なんとも言葉にできない感情が渦巻き、いつもはブチっと切ってしまうエンドロールまで観終えてもなお、余韻に浸っていた。 1.映画「スウィング・キッズ」の背景にあるもの物語は1951年朝鮮戦争下、捕虜を収容した韓国巨済島捕虜収容所を舞台に繰り広げられる。そこに収容されているのはアメリカ的自由主義思想に染

私は私であることから逃げられない-映画『私をくいとめて』

昨年末に観損ねた「私をくいとめて」が早くもAmazon Primeにやってきた。 主人公、黒田みつ子は31歳・恋人なしの一人暮らし。 気楽なおひとりさま生活を楽しんでいるが、脳内にいるもう一人の自分「A」との会話が心の支え。「A」はみつ子の精神安定剤的な役割を果たしている。 そんなみつ子が近所に住む取引先の年下男に恋をする。 恋人は欲しいけど、今の生活もそこそこ快適。 ゆらゆら揺れる三十路女の心情が、脳内「A」との会話と共に、コミカルに描かれるのがこの作品。 1. 誰か

自分の道は自分で切り開くー映画『あのこは貴族』

映画「あのこは貴族」を鑑賞した。 東京松濤で暮らすお嬢様華子と、上京し苦労しながら生きる美紀。 「あのこは貴族」は、この二人の人生を軸に展開する静かな物語だ。 1. 華子 ー 求めていたのは壁の内側で生きることではなかった箱入り娘の華子は東京で生まれ育ちながら、ある意味東京を知らない。 なぜなら彼女の生きている世界はとても狭く、まさに箱の中だから。 華子は親や家族の言いつけを守り、良き伴侶を見つけ結婚することこそが人生の幸せだと信じている。周りの友人も同じような価値観の人

「誰にも私の未来はわからない。私にさえも」ー映画『野球少女』

映画「野球少女」を観た。 女性の社会進出において「ガラスの天井」というたとえがよく使われる。 この物語はまさにその天井を突き破ろうと進む少女の話だ。 また、諦めないことの意味と力について考えさせられる作品でもあった。 私はと言えば、主人公チュ・スイン(イ・ジュヨン)にどっぷり感情移入してしまい、映画を見ながら涙が止まらなかった。 1. 誰であろうと私の未来はわからない前例のないことに挑むのは勇気がいる。 人に理解されないだけでなく、ひどい時には笑われたり馬鹿にされたり、

生きていくためには居場所がなければー映画『すばらしき世界』

西川美和監督の「すばらしき世界」を鑑賞。 鑑賞後なんとも言葉にできない感情が胸の中に渦巻き、気持ちの整理がつかなかった。 とにかく、心揺さぶるすごい作品なのだ。 この心の揺れを忘れないうちに映画を観て感じたことを綴っておきたいと思う。 1. 不寛容な社会と生きるための居場所について 「人生のレールを踏み外した男が見た世界とは」 このキャッチフレーズ通り、レールを踏み外した男「三上正夫」が見た世界と、挫折を味わいながらも懸命にもがき生きる彼の姿を描いたのがこの作品。

台湾映画はゆるやかに心を揺さぶる@Netflix配信3選 『弱くて強い女たち』他

「愛の不時着」以来、韓国コンテンツ沼をさまよう私。 韓国ドラマはもちろんだけど、韓国映画もなかなかの沼だと思う。 でもそれは最近のこと。 アジア映画好きな私にとって、韓国映画よりも馴染みがあるのは香港映画や台湾映画。 台湾映画で言えば、侯孝賢監督の「悲情城市」は何度も観たし、「ヤンヤン 夏の想い出」「恐怖分子」などエドワード・ヤン監督の作品も大好きだ。 さて先日、気になっていた台湾映画「弱くて強い女たち」がNetflix で配信されていることを知った。 せっかくなのでこ

恋っていつか必ず過去形になってしまう 『花束みたいな恋をした』

映画「花束みたいな恋をした」を観た。 前評判がとても良かったので楽しみにしていたけど、期待しすぎると往々にして肩透かしを食らうので、気持ちを落ち着けつつ映画館に向かった。 結果、多くの人が賞賛するわけがわかったし、私自身、観てよかったと心から思えた作品でもあった。 1. 「恋」が上り坂な時間の尊さを噛みしめるこの映画は大学生の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)との5年間の恋を描いた物語。 二人は趣味嗜好が驚くほど似ていて、お互いを知れば知るほど惹かれ合い、恋に落ち、最終的

脚本は設計図 韓国ドラマ『シグナル』から学ぶ2つの世界の描き方

今年2作目の完走ドラマは「シグナル」。 日本バージョンではなくオリジナルである韓国バージョンを鑑賞。 「ハイエナ」のキム・ヘス繋がりで観始めたこの作品、刑事ドラマというカテゴリーでは収まらないヒューマンドラマだ。 このドラマは、過去と現在の刑事が謎の無線機を通じて交信し未解決事件を追うという設定で、彼らの行動によって過去や現在が変わって行く複雑な構成を見事に描き切っている。 2つの世界を描くドラマは多々あるがこの作品は秀逸。 そして脚本を勉強する身としては学ぶことが多か

40歳、迷走の先には光が見える 『チャンシルさんには福が多いね』

絶対観ようと心に決めていた作品「チャンシルさんには福が多いね」。 なんだかめでたいタイトルも気に入った。 この物語の主人公であるチャンシルさんは、映画プロデューサーとして仕事に人生を捧げてき40歳、独身、恋人なしの中年女。 ある日、一緒に仕事をしていきた監督が急死し突然失業することに。 それだけではない。自分は映画製作に欠かせない重要な役割を担ってきたと自負していたのに、他人の評価はそうでないことを知りショックを受ける。 おまけに生活苦。 仕方なく、妹のように可愛がっ

心揺さぶられた映画で振り返る2020年

先日、2020年に鑑賞したドラマの総括をしたので、本日は映画について語りたい。 今年は100本越えの映画を鑑賞した。 これほど映画を観た年が今まであっただろうか。 それもこれも「巣篭もり生活」という特異な状況がもたらした結果。この生活を乗り切れたのはひとえに映画とドラマのおかげである。 たくさんの愛すべき作品群に助けられた一年だったと心から思う。 そんな2020年も残りわずか。 総括として、今年鑑賞した映画で気に入った作品、または強く印象に残った作品を記録しておきたい。

『アルハンブラ宮殿の思い出』 2周目にして思うこと

「アルハンブラ宮殿の思い出」2周目を完走。 この作品はARの世界と現実の世界が交錯する複雑な物語。 とてもチャレンジングな作品だ。 加えて、ヒョンビン演じる主人公が輝かしい場所から転げ落ちていく過程が描かれること、またハッピーエンドではないところも、これまで見てきた彼の主演ドラマとは一線を画している。 それが観了後の余韻になるとも言えるし、消化不良になるとも言える。 つまるところ、人によって感じ方が大きく分かれるドラマだと思う。 ここでは、「アルハンブラ宮殿の思い出

「リ・ジョンヒョクへの想い」半年後の熟成度ー『愛の不時着』

「愛の不時着」に出会ってから、もう直ぐ半年が経とうとしている。 このドラマを完走してからしばらくは、ほぼ毎日欠かさずリ・ジョンヒョクに会いに行っていた私。 そこから韓国ドラマの世界へ足を踏み入れ、たくさんのドラマを鑑賞した。 そして原点に帰るべく、先日久々に通しで「愛の不時着」を鑑賞してみた。 ここでは、そこで感じたリ・ジョンヒョクへの想いを綴ってみる。 1. なぜ リ・ジョンヒョクに何度も会いたくなるのか以前「なぜ リ・ジョンヒョクに何度も会いたくなるのか」というタ

K-POPの世界を覗くーNetflixオリジナル『BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ』

すごいものを観てしまった。 Netflixで配信中の、韓国人気ガールズ・グループBLACKPINKのドキュメンタリー映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」を鑑賞。 数ヶ月前にやっと韓国ドラマデビューを果たした私にとって、K-POPは未知の世界。昨今巷で話題になっているのは知っていたが、あえて聴いてみようとは思わず、つまりこのドキュメンタリーが私にとっての(ほぼ初)K-POP体験となった。 まず驚いたのが彼女たちのパフォーマンスの完成度の高さ。 彼女たちが歌

配られたカードで勝負するしかないー『ミセン-未生』からみる組織と人

U-Nextで韓国ドラマ「ミセン-未生」を完走。 会社員経験のある人なら誰もが共感するエピソードがふんだんに盛り込まれた物語だ。たとえば、社内不正、パワハラ、セクハラ、非正規雇用、社内政治、社内派閥、出世競争など様々な問題や出来事が描かれる。 また、主人公である新入社員チャン・グレの苦悩と奮闘、上司オ・サンシクの中間管理職としての戦い、チャン・グレの同期たちそれぞれの悩み・葛藤には感情移入せずにはいられない。 ところで「ミセン」は日本のドラマかと見紛うほど、韓国ドラマで