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映画・ドラマのレビュー

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映画・ドラマ・ドキュメンタリーなど鑑賞した映像のレビューと、作品から感じたことを綴ります。(ネタバレあります)
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「誰にも私の未来はわからない。私にさえも」ー映画『野球少女』

映画「野球少女」を観た。 女性の社会進出において「ガラスの天井」というたとえがよく使われる。 この物語はまさにその天井を突き破ろうと進む少女の話だ。 また、諦めないことの意味と力について考えさせられる作品でもあった。 私はと言えば、主人公チュ・スイン(イ・ジュヨン)にどっぷり感情移入してしまい、映画を見ながら涙が止まらなかった。 1. 誰であろうと私の未来はわからない前例のないことに挑むのは勇気がいる。 人に理解されないだけでなく、ひどい時には笑われたり馬鹿にされたり、

生きていくためには居場所がなければー映画『すばらしき世界』

西川美和監督の「すばらしき世界」を鑑賞。 鑑賞後なんとも言葉にできない感情が胸の中に渦巻き、気持ちの整理がつかなかった。 とにかく、心揺さぶるすごい作品なのだ。 この心の揺れを忘れないうちに映画を観て感じたことを綴っておきたいと思う。 1. 不寛容な社会と生きるための居場所について 「人生のレールを踏み外した男が見た世界とは」 このキャッチフレーズ通り、レールを踏み外した男「三上正夫」が見た世界と、挫折を味わいながらも懸命にもがき生きる彼の姿を描いたのがこの作品。

生き方を見失うのは、目を閉じていたからなのだと思う-韓国ドラマ『SKYキャッスル』

韓国ドラマ「SKYキャッスル」を観た。 お受験ママバトルを描いたドラマかと思いきや、超高学歴社会である韓国の社会問題「受験戦争」に切り込んだ見応えのあるドラマだった。 つまりは良い意味で期待を裏切られた。 登場人物たちの欲望のぶつかり合いとサスペンス要素が視聴者の感情を激しく揺さぶるあたり、韓国ドラマの王道的物語でもある。一方で、ドラマの後半には多くの教訓が盛り込まれていて諸々考えさせられた。 鑑賞を終えてまず考えたのは、「人の期待に応える生き方の不条理」についてだった

男の未練の行方と女の自分探しについての考察-韓国ドラマ『都会の男女の恋愛法』

韓国ドラマ「都会の男女の恋愛法」は、チ・チャンウク演じるパク・ジェウォンとキム・ジウォン演じるイ・ウノを含む男女6人の恋愛が描かれるドラマだ。 「別れたら思い出の品はどうする?」「別れた人と偶然再会したら?」「望ましい別れ方はある?」など、恋愛に関する質問に登場人物たちが答えていくインタビュー形式で物語が展開する。 個人的には、タイトルが示す「都会の〜」的な洗礼された恋愛ではなく、主人公ジェウォンのウノへの「未練」がコテコテに演歌調なのが気に入った。 ここでは、ジェウォ

恋っていつか必ず過去形になってしまう 『花束みたいな恋をした』

映画「花束みたいな恋をした」を観た。 前評判がとても良かったので楽しみにしていたけど、期待しすぎると往々にして肩透かしを食らうので、気持ちを落ち着けつつ映画館に向かった。 結果、多くの人が賞賛するわけがわかったし、私自身、観てよかったと心から思えた作品でもあった。 1. 「恋」が上り坂な時間の尊さを噛みしめるこの映画は大学生の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)との5年間の恋を描いた物語。 二人は趣味嗜好が驚くほど似ていて、お互いを知れば知るほど惹かれ合い、恋に落ち、最終的

脚本は設計図 韓国ドラマ『シグナル』から学ぶ2つの世界の描き方

今年2作目の完走ドラマは「シグナル」。 日本バージョンではなくオリジナルである韓国バージョンを鑑賞。 「ハイエナ」のキム・ヘス繋がりで観始めたこの作品、刑事ドラマというカテゴリーでは収まらないヒューマンドラマだ。 このドラマは、過去と現在の刑事が謎の無線機を通じて交信し未解決事件を追うという設定で、彼らの行動によって過去や現在が変わって行く複雑な構成を見事に描き切っている。 2つの世界を描くドラマは多々あるがこの作品は秀逸。 そして脚本を勉強する身としては学ぶことが多か

守る女と壊す女 『ザ・クラウン - シーズン4』

最近は韓国ドラマに夢中な私だが、「愛の不時着」に出会う以前、海外ドラマといえば NETFLIXオリジナルシリーズ「ザ・クラウン」が一番のお気に入りだった。 その「ザ・クラウン」のシーズン4が、昨日11月15日(日)ついに配信された。 韓国ドラマの長さに慣れてしまった私にとって、1話1時間、10エピソードの「ザ・クラウン」はある意味楽勝。昨日と今日で早々に観了してしまった。 さて、この物語は現英国君主であるエリザベス2 世とその家族の人生、そして人間模様を描いた壮大な歴史ド

チャン・デヒあってこその『梨泰院クラス』ー悪役がドラマの質を左右する

韓国ドラマ「梨泰院クラス」を完走したのは8月半ば。 夏真っ只中だったあの頃から早2ヶ月。 季節は変わり、秋の夜長に「梨泰院クラス」を再観することに。 そして、ドラマ2周目にしてつくづく感じたのが悪役の方々(長家の親子)の演技の素晴らしさ。 前回はオ・スアを中心にドラマの感想をnoteに書いたが、今回は長家の会長であるチャン・デヒとその息子チャン・グンウォンに焦点を当ててみたい。 1. チャン・デヒという男について長家の会長チャン・デヒは、一代で会社を国内外食産業トップに

『ミッドナイトスワン』 なりたい自分との距離が生む苦悩

2020年/日本 監督:内田英治  出演:草彅剛・服部樹咲 「ミッドナイトスワン」 哀しみと希望、そしてせつなさが入り混じる作品だった。 あらすじは以下のとおり。 トランスジェンダーの凪沙はニューハーフクラブで働きながら孤独に生きている。そんなある日、従姉妹に虐待されて育った彼女の娘「一果」を一時的に預かることになる。はじめは相容れない二人だが、バレエに興味を示す一果とそれを支える凪沙の間に、信頼関係と温かな感情が芽生え始める。 社会的マイノリティという孤独凪沙(草彅

外見と内面、人はそのどちらを愛するのか 『ビューティー・インサイド』

2015年/韓国 原題:The Beauty Inside 監督:ペク 「主人公キム・ウジンは、眠りから覚めるたびに外見が変わる」 この設定だけを見るとコメディ映画と勘違いしそうだが、全くもってそうではない。むしろシリアスな純愛映画だ。 この作品は「もし、眠りから目覚める度に外見が変わったら?」という仮定の元、「外見か内面か」というある意味「普遍の問い」に挑んでいる作品だと言える。 そしてこの実験的作品にすんなり感情移入できるのは、追及するテーマがはっきりしているから

「記憶」の非対称性が生む苦悩が感情を揺さぶるー『トッケビ』脚本構成についての考察

韓国ドラマ「トッケビ」は最高視聴率20%超えの人気作品。 「愛の不時着」にその記録を塗り替えられるまでは、tvNチャネル歴代視聴率1位の座に君臨していたドラマだ。 この作品は俳優陣が素晴らしいだけでなく、何より脚本が面白い。また、制作にすごくお金がかかっていると思われ、ファンタジードラマにありがちな陳腐さがない。というか、むしろ壮大だ。 この「陳腐さがない」というのは現実離れしたストーリーの場合非常に重要で、それにはよく練られた脚本が欠かせない。事実、ファンタジーが苦手な私

40歳医師たちの誠実で優しい日常が心地よい 『賢い医師生活』

こんなにも働く大人の「日常」を心地よく表現したドラマはあっただろうか。 韓国ドラマ「賢い医師生活」は秀逸な作品だ。 劇的な展開があるわけでもなく、激しい感情のぶつかり合いもない。 40代医師たちの年齢相応の日常が、丁寧に描かれているだけ。 でも観始めたら最後、彼らに会いたくて、続きが観たくてあっと言うまに完走してしまった。 1. まずはあらすじ・登場人物をまずは簡単なあらすじを。 大学の医学部同期である5人は20年来の親友。彼らは「ユルジェ病院」で医師として働いている

去る者と残される者 それぞれの苦しみについて 『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』

2017年/韓国 原題:One Day 監督 イ・ユンギ 「ワン・デイ 悲しみが消えるまで」はいわゆるファンタジー映画。 今まで観てきたイ・ユンギ監督の作品(「愛してる、愛してない」「男と女」)が、現実の男女の心の揺れを描いたものだったのでちょっと意外だった。 この物語は、闘病の末自殺した妻の死後、すっかり無気力になっているガンスと、事故で昏睡状態の視覚障害者ミソ(幽体離脱している)との交流が、現実とファンタジーの世界を交錯しながら描かれる。 ここでは、ファンタジーや

『シュガーマン 奇跡に愛された男』 人生はだから面白い

2012年/スウェーデン・イギリス合作 原題:Searching for Sugar Man 監督:マリク・ベンジェルール 伝説のシンガーソングライター、ロドリゲスのドキュメンタリー映画。 1970年代、ロドリゲスは類希な才能を認められアメリカでレコードデビューを果たす。が、曲はまったく売れず。 しかし、地球の裏側で奇跡が起きていた。 アメリカで誰に知られることもなかったロドリゲスの曲が、遥か彼方、アパルトヘイト下の南アフリカで絶大な支持を得ていたのだ