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壊れることのない記憶の箱

わたしは、ある理由で幼少期から10代にかけての記憶の大部分が欠けています。
だからなのか、わたしはこの先一体どれだけのことを忘れてしまい、どれだけのことを覚えていられるんだろうとよく思います。

根無草のような二十代初期の頃に比べて、人との関わりが通り風のようだと思っていたものが、段々もう少し欲張りになってきたようです。

この先もしも何かあってわたしがいなくなったら、あなたが覚えているわたしはどんなひとだった?

わたしそんな風に思うようになってきたんです。
ひとはひとのほんの一面しか知ることができないことは分かっています。
けれどわたしは、自分にとって自分がどんな人間であったとしても、他人から見た自分が真実だと思っているので、実質この世界にわたしが存在するのは、あなたがわたしを知っているからに他ならないんです。
誰もわたしを知らず、誰もがわたしを忘れてしまったら、わたしは存在していないことと同じですから。

孤独をどんなに愛していても、ひとをこの世界に繋ぎとめるのは記憶でしかないのです。

あなたの記憶の中のわたしは、どんなひととして存在しているのでしょうか。

そう考えると、わたし、あなたに命をもらっていますね。

わたしも、あなたに命を与えたいです。
わたしの大切な場所に、あなたの記憶を保存します。
あなたの存在をこの世界になるべく美しく記録することが、わたしに許された愛する手段なのだと思います。

もうひとつね、今更だけど気がついたことがあるんです。
生きていくということは、会いたいと思うひとに会えなくなる日が必ずくるということなんだって。

生きている限りいつか必ず訪れるその日はわたしを引き裂くのでしょう。
これまでにも、何度か、そんな風に引き裂かれたことがありました。

だけどね、あなたの記憶だけは、壊れることのない箱の中へしまっておきますから。

わたしもいつか同じ箱へ入れてくれますか。


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