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【④ギリシア人の闘争】ぼくたちは古代ギリシア人と友だちになれるか

【③トロイア戦争 補論】ぼくたちは古代ギリシア人と友だちになれるか、の続きになります。

古代ギリシア社会の闘争

ここまで古代ギリシア人の神話と伝説について論じてきた。
ぼくは本勉強会の冒頭、神話と伝説は異なるものを描いていると書いた。

神話は神を描き、伝説は人を描く。

しかしそれだけではない。
古代ギリシア人にとって神話とは自然環境や運命を表現したものであり、伝説は自分たちの形作っていた古代ギリシア社会の投影でもあった。

だが、やはりどちらも古代ギリシア人の精神世界の中から創造されたことも確かである。
つまり、相違点のみならず共通点もまた抽出せねばならない。

では、神話と伝説の共通点とは何か。

改めて古代ギリシア人の神話と伝説を概観すると、常にそこには闘争があった。
神話においては、女性的なものとの闘争があり、また語ることができなかったが、神々はいつも戦っていた。
伝説でもそれは同様であった。いや、伝説はほぼすべてにおいて闘争を描いていた。

神話と伝説の描く闘争は、現実の古代ギリシア世界と無関係ではない。
特に戦争という闘争は、古代ギリシアのポリス国家間では常に起こっていた。
なにせ4年に一度オリンピックを開催することで無理やり休戦に持ち込むことが常態化していたのだから。

また、前回書いたことだが、伝説「トロイア戦争」は紀元前500年に勃発したペルシア戦争と重ね合わされて認識されていた。
ペルシア戦争は常に戦争をしていた古代ギリシア世界でも未曾有の大戦争であった。

このペルシア戦争のインパクトは、次回の勉強会で解説する。
なにせ古代ギリシア世界は、ペルシア戦争を契機に大きくその性格を変えていくことになるのだ。

また古代ギリシア人の闘争は戦争だけではなかった。
この点が古代ギリシア世界が他の文明とは大きく異なるユニークな点ではなかろうか。

まずは言わずと知れたオリンピックである。
古代ギリシアのオリンピックは、現代とは趣きが大きく異なるとはいえ、競技による順位付けを行なうことには変わりない。

また、ポリス国家アテネでは年に数回、神々に奉納する演劇作品のコンテストが存在した。
このコンテストのおかげで、至高のギリシア悲劇やギリシア喜劇が現代まで遺っているのだ。

古代ギリシア世界は戦争のみならず、スポーツや演劇といった文化においても闘争が行われていた。
この事実は、現代では当たり前の光景になっているので分かりづらいのだが、古代世界においてはかなり特異的なことである。

なぜこのような特徴が古代ギリシアに特異的に発現しているのかはよく分からない。
しかし、この闘争の精神は確実に神話と伝説に刻印されていることは疑い得ないのだ。

そして、この古代ギリシア人の闘争の精神は、彼らの発言に集約されている。

友には甘く敵には苦くあらしめよ

ソロン断片

シモニデスは、友には善いことをして、敵には悪いことをすることが正義だといっているわけだね

プラトン「国家」

この闘争の精神は、20世紀の政治哲学者C.シュミットの「友敵理論」に通じる、非常にファナティックなものを感じざるを得ない。

友と敵の明確化こそが、古代ギリシア人の精神世界を、または正義の概念を体現していた。

また、これはある意味逆説的に、常に敵を作り出すことで友を浮上させることでもある。

本勉強会でもたびたび言及してきたことだが、この過度な友と敵の明確化は、古代ギリシア社会内部にも適応され、その最たる例として女性(的なもの)を仮想敵にするまでに至っている。

この古代ギリシアの特異性は、ぼくにはかなり歪なものに感じる。
社会の基層に実体のない虚像が埋め込まれ、土台はいつもグラグラと揺れている。
そして、その上に社会を構成する色々なものを積み上げている。

なんとかバランスを取りつつも、いつ崩れてもおかしくない。
そんなイメージが古代ギリシア社会ではなかったか。

実際、古代ギリシア世界の黄金期は、その文明度の高さに比して短命で終わっている。
その原因は、まさにこのような歪な社会が人間の自然状態とはるかに乖離していたためではないだろうか。

しかし同時に考えてしまうことがある。
古代ギリシア世界は、近代以降の社会の多くの構成要素の起源を生み出している。
それは後世の人間による多分にフィクショナルな意味付けが行われたことは否めないが、きっとそれだけではない。

近代以降の社会が、古代ギリシア社会と同じように、ある種の歪さを抱えているからこそ、このような共鳴が起こっているのではないか。

実際、資本主義が世界の隅々まで行き渡った社会にぼくたちは生きている。
資本主義の基本理念は、明らかに闘争である。
ぼくたちは、古代ギリシア人と似たような歪さを抱えて生きているのではないだろうか。

続く


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