「アイデア出ないね、お茶でも行こうか」のスタンスで|クリエイティブユニット『TENT』治田将之・青木亮作
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「アイデア出ないね、お茶でも行こうか」のスタンスで|クリエイティブユニット『TENT』治田将之・青木亮作

美濃加茂茶舗

こんにちは。美濃加茂茶舗です。
このマガジンは、「違いを面白がる人」や「本物をわかろうとする人」を大事にしているわたしたちが、読者のみなさんと一緒に「本物」を考えていくメディアです。

第三弾の今回は、数々のプロダクトを世に送り出してきたクリエイティブユニット、TENTのお二人にお話を伺いました。

〈今回の「本物を知る人」〉画像1

TENT
2011年に青木亮作さん(左)と治田将之さん(右)により結成されたクリエイティブユニット。 高層ビルのような固定された強さではなく、テントのように自由で風通しの良い強さを目指して創作活動を行っている。最新作にZOJIRUSHI『STAN.』シリーズ、フライパン『JIU』シリーズなど。

〈聞く人〉画像2

伊藤尚哉
1991年生まれ。24歳のときに急須で淹れる日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。2018年に日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)したことを機に、お茶の淹れ方講座や和菓子とのペアリングイベントなどを企画。2019年「美濃加茂茶舗」店長に就任。


正解のない課題に対して、デザインという独自の感性を元に応えていかなければならないのが、デザイナーのお仕事。

良いものを世に生み出すためにお二人が大事にしていることは、「がんばりすぎ」な私たちが見落としていることばかりなのかもしれません。

そして、TENTさんのものづくりが「お茶でも行きますか」のひとことから生まれていることに、なんだかほっとしてしまいました。

「思ったように打てる」境地に達するときがくるんです

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青木さん(以下、青木):今回のこの「お店の人がインタビューする」企画って、どういう背景ではじまったんですか?

伊藤:スタッフで話し合っていたときに、美濃加茂茶舗を届けたい相手は「違いがわかる人」ではなく「わかろうとしている人」だよね、と。

だったら「わかっている人」の話を聞きに行きたいなと思ってこの企画がスタートしたんです。

青木:へぇ〜。いや、美濃加茂茶舗さんという、いわばお店さんがこういうインタビューをやっているというのが新鮮で、ナイスなアイデアだなあと思って。

伊藤:「良いものや本質を知りたい」と思いはじめるのって、30代が迫ってきた20代後半くらいからだと思うんです。ちょうど僕がいま28歳なのですが。

なので、そんな風に悩む時期を越えたように見える、ちょっと上の世代の人たちにお話を聞いてみたいと思って。

青木:なるほど、「インタビューをチャンスにして、あったことのない年上に話を聞いちゃおう!」ってことですね。

伊藤:はい(笑)。いろんな世代のいろんな方にお会いすることで、僕も店長として成長したいなと思っていて。

今日はものづくりに長年携わってきたお二人に、良いものを生み出すための「軸」みたいなものについて教えていただきたいんです。

青木:ふむふむ、確かに28歳の頃は、自分の軸みたいなものは、まだなかったかもなぁ。

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治田さん(以下、治田):28歳の頃は、フリーのデザイナーとして独立するために必死でしたねぇ。

30歳までに独立したかったので、それまではまさに修行みたいな気持ちで「いかにノウハウを身につけるか」ばっかり考えていたなぁ。

伊藤:僕、軸でいったらまだまだ不安定で、どんどん筋トレしてしっかり軸を立てたくて、今はいろいろチャレンジしているんですが…

お二人は「自分らしい軸ができてきたな」と思った年齢ってありましたか?

治田:なんかこれ、青木さんとTENTを立ち上げたときになんとなく話したことを思い出しますね。

当時僕は一人でやり始めて10年くらい経ってて、30代後半くらいだったかな。下積み時代を経ていろんな経験をした結果、ようやく「思った通りに打てる」感覚になっていたんですよ。

青木:治田さんはもともと僕の前職時代に外部のデザイナーとしてサポートしてくれていた大先輩なんですが、その時は「この人何を野球選手みたいなこと言ってるんだろう?」って思いました(笑)。

治田:その5年後くらいかな、青木さんも「その境地に達した」って言ってましたよね。

青木:35歳くらいの頃ですかね。当時治田さんの言っていた「狙って打てる」の意味について、自分もなんとなく分かるようになってきたんですよね。

「あ、この玉は知ってるぞ」「この玉は知らないけど多分こう打てばいけるぞ」みたいに筋道が見えて、それって力まなくても、打つとスコーンと飛んでいくんですよ。

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伊藤:…そうなんですね。

治田:その境地になったのは、30代後半くらいだったからなぁ。

青木:「あ、力を入れなくても良いんだ」みたいなね。

だけど、それまでに力みすぎたり、自分には合わない場所で無理にもがいたり、そういう沢山の失敗をしないと、これは分からないと思うんです。

伊藤:じゃあ、僕にとっても今は経験をする時期なのかなぁ。

先ほど治田さんが「修行するみたいに」とおっしゃってましたが、それってどんな風にしていたんでしょうか?

治田:フリーランスになりたてのころは特に、プロダクトデザイナーという自分の肩書きにこだわらずに、もらえる仕事はとにかく何でもやることにしていましたね。

最終的には今みたいに自分たちがメーカーになりたいと思っていたので、そのために役立つ情報が身についていったらいいかなと。

大きな目標があって、それに向けての小さな目標とかも決めていましたけど、真面目にはやってなかったですね。

青木:僕がフリーになりたての頃に治田さんから言われたアドバイスは「サボれるところまでサボれ。落ちれるとことまで落ちろ。」それで大量の漫画を貸してくれましたもんね。

治田:そうそう。休める時はしっかり休まないとね。

「すごいの出さなきゃ!」が案外自分の首を締めている。いいんじゃないかな、ベタで。

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伊藤:お二人のように、いつか「思ったように打てる」ようになるためにはどうしたらいいんでしょう?

青木:それこそ28歳だった自分に言いたいんですけど、変な言い方ではありますけど「どうでもいいや!」って思っちゃうのが一番ですよ。

僕、28歳の頃に吾妻光良さんというミュージシャンのライブに行って衝撃を受けて。ライブ中に「足つった!!」とか言うんですね。「イテテテ…演奏やめろ!」って演奏止めちゃう。そして「健康第一!音楽は二の次だ!!」って。

「ああそうだ。デザインとか二の次だな」って。そこから、ものすごくラクになったんですよね。

「打てるようになった」っていうのも、依頼をもらうと「あー!すごいアイデア出さなきゃ!」って思っていたんですけど、「とりあえず散歩いこ」という気持ちになりはじめたらフッと出るようになって。

それは二人でやってるおかげでもあるんですけどね。「まあ自分がすごいの出なくても、治田さんがすごいの出すでしょ」みたいにお互いリラックスできてる気がします。

治田:「アイデア、出ないですねぇ。まぁお茶でもいきますか」ってカフェ行って、二人で'お茶して「いやー、出ないね」って言っているうちにいい案が出るんですよね。

だから、頑張りすぎないのが良かったりしますよ。

青木:うん。ラクにしていても出来ちゃうのが、多分プロなんだと最近思っていて。

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伊藤:ちなみにお二人は、すごいアイデアってどんな時に思いつくんですか?

青木:デザインの仕事で言うと、打ち合わせ帰りの時点でまずは一個、すごいベタな誰にでも思いつくようなデザインをいっぺん作っちゃうようにしてます。

ひとまず何かしら提出はできる状態にすれば安心できるから、「よし、あとは楽しいのやっちゃおうよ!」って思えるんです。で、そこから本当のアイデア出しがはじまるというか。

でも、28歳の頃は、最初っから「すごいの出さなきゃ」って思い込んでいたんですよね。

「これはベタだからやるべきじゃない」とか自分で勝手に決めちゃってた。でもいいんじゃないかな。ベタで。ベタをきちんとやってから発見できることって沢山ありますから。

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伊藤:そんな風に「いいんじゃないかな」と落ち着いて物事を捉えられるようになったときは、自分の中で「レベルアップした」という感覚なんでしょうか?

青木:「ズル」ができるようになったのに近いかな。アップはしてなくて、「自分ずるいなぁ~」って(笑)。

自分をうまく扱えるようになった「自分ハック」というか。成長はしてないんですよ多分。でも、「どうもこの方法だと自分は楽しい気分で仕事ができるっぽいぞ」と。

「レベルアップ」とか「キャリアアップ」とか、みんな「アップ」したがりますけどね。

アップは無理ですよ、多分。中学生くらいで人間のほとんどの成長なんて止まっちゃってるんじゃないかな(笑)。

治田:上がることばかり考えるんじゃなく、まずはできないことを明確にしていったほうが良い気がします。

すごいアイデアだけで突破するのではなく、小さな積み重ねこそ丁寧に。

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伊藤:じゃあ、良いアウトプットをするために大事なことってなんでしょう?

治田:そうだなぁ。TENTが作るものって「道具」なので、製品化するまでのプロセスが長いのはもちろんなんですけど、発売後に、買った人が使っていく時間のほうがめちゃくちゃ長いんですよね。毎日それを見るし。

だからプロダクトが出来るまでにちょっと妥協したことが、ずーっと胸に残り続けたりするんです。それを何回か経験して後悔しているので、妥協しないことは大事にしています。

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青木:クライアントワークだと当初のデザインと全く別になるような設計変更も多くて、その都度ベストをすり合わせていくのを1年くらいかけてずっとやっているので、ずっと力を入れていると息切れしちゃうんですよね。

だから、最初のすごいアイデアだけで一気に突破するのではなく、小さな積み重ねこそ丁寧に続けたほうが、結果として良いものになるというか。

治田:完成して振り返ってみると、初期のデザインはまだまだ荒削りだったんだなと気づくことって多いですよね。

出来上がるまでのプロセスを振り返って「いいものになったなぁ」と思うときは幸せです。

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青木:ちょうど窓際に植物がありますけど、室内の観葉植物って、ただ窓際に置きっぱなしにしていても、良い形に育たないじゃないですか。

毎朝ちょっと向きを変えて、また次の日も変えて…そういう積み重ねでいい形ってできていくと思うんですよね。

プロダクトデザインのプロセスって、意外とそういうイメージです。まあ、それですら思った通り伸びないこともありますけど。

治田:すごい、それ新説ですね。あそこに植物を置いておいてよかった(笑)。

AかBの選択で悩むうちは、きっとまだベストじゃない

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伊藤:デザインをしていく上で、自分の感性と向き合わなければいけないことも多いと思うんです。

特にTENTさんは二人でやっているからこそ、ひとつのモノを作るときにお互いの理想が若干違ったりすることもあるんじゃないかなって。

そのときって、「自分のセンスをどこまで信じてやっていくか」みたいな葛藤などはないのでしょうか?

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治田:あまり語弊がないように言いたいんですが、あんまり信じてなくて。自分のこと。

よくあるんですけど、二人でそれぞれアイデアを出した後に持ち帰って一晩考えたら「青木さんの出したアイデアの方が良いな」と思って、それを言うじゃないですか。

そしたら青木さんは「治田さんのアイデアの方が良い」って言うんですよ(笑)。

それくらい、その時思ったことと、一晩考えたことは違うんですよね。そんなことの積み重ねでモノはできていくと思うから、その場の判断はあんまり信じてないんです。

青木:即決はできるけど、明日はきっと意見が変わるよ?みたいなね(笑)。

治田:あと、二択で悩んでたけど、3日目にどちらも超越した違う案が出てくる、みたいなこともあるんですよね。そしたらふたりとも「これだ!」みたいな。

伊藤:A案とB案の良いところを兼ね備えたというより、全然別のC案が出てくる感じなんですか?

青木:全然違うときが多いですね。逆に「足した」場合って、その近辺のアイデアでしかなくて。

治田:「突破した」やつではないことが多いですよね。

伊藤:僕の場合は美濃加茂茶舗の新メニューを試作しているとき、AとBがあったとしてAを「Aプラス」にしようとしちゃうんですよね。

他にアイデアが出てこないから、どうやったらプラスになるかで悩むときがあるんですけど…。

そんなときこそ落ち着いて、良い意味で諦めるのも大切かもしれないですね。

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青木:選択肢になっちゃってる時点で、きっと本当に良いものじゃないんですよね。

これまで経験してきて思うんですけど、本当に良いときはみんな納得するんですよ。
だから、意見が割れてるときはまだまだ掘り下げる見込みがあるはずなんです。

治田:ある程度掘り下げられたら一回手放して、ゼロベースでもう一回考えてみたら良いものが出せることって多いですよね。

伊藤:いやぁ…勉強になります。

青木:ちなみに伊藤さんは「自分たちのお茶をこんな風にしたい」とかあるのですか?

伊藤:毎日の中で一段落ついたり、それこそアイデアが出ないときに「お茶でも飲みますか」みたいな位置になれたら良いなと思っています。
コーヒーがONの要素だとしたら、お茶はOFFというか。

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青木:おーそうなんだ。実は最近アイデア出しのときにコーヒーを飲むの辞めていて。
コーヒーだと、なんだかONになりすぎちゃって力が抜けないんですよね。

伊藤:じゃあ、ぜひ今度茶葉をお送りさせてください。

治田:良いですねぇ。たのしみ。

[取材・文]山越栞/[編集]とみこ/[撮影]川島彩水


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