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エッセイ

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記事一覧

【エッセイ】書く快感

【エッセイ】書く快感

文章を書くときは、感情が散らばっている。

形のないものを、ひとつずつ、言葉に落とし込む。
整えるんだけれど、整えない。

私の内側にあるものを、伝わるように整えるんだけれど、
見目麗しく、正しくは整えない。

削ぎ落とすような、混沌を磨くような。
言葉の溢れる世界で、言葉にならないものを、言葉にしようと足掻くような。
圧倒的に言葉にはできないものに出会った、その震えを言葉にするような。

そうし

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【エッセイ】「ダダミ」の思い出

【エッセイ】「ダダミ」の思い出

子どもの頃、タラの白子が食べられなかった。

地元で「ダダミ」と呼ばれていたそれは、わが家ではみそ汁の具材であり、
魚の香りが漂う薄味の汁に、ぷかりと浮いている、もにょもにょした白さと、
噛み切るときの、ぷちりとした歯ごたえが、どうにも嫌いだったのだ。

「ダダミ」は全国的には「白子」と呼ばれるのだということも、
臭みの少ない、ぷりっと大きな白子は、親戚の家業ゆえに食べられた、
それなりの贅沢品だ

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【エッセイ】不規則を許す

【エッセイ】不規則を許す

年末年始は、イレギュラーな予定が増える。
いつもと同じことを、同じようにしようとすると、どこかで時間の帳尻を合わせなければならない。

どんなに効率化をもってしても、やるべきことがゼロにはならず、
もっとも調整しやすいのは、睡眠時間であることが多い。

休日は、多少寝るのが遅くとも、翌朝のんびり起きればよいのだから、
睡眠時間そのものを削る必要は、まったくない。
ただ、ずらせばいいだけだ。

それ

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【エッセイ】終わらないかもしれない

【エッセイ】終わらないかもしれない

私は、現実想像問わず、血の流れる怖い話が苦手である。

殺人事件のドラマが点いていると、目と耳を塞いで逃げるし、
お化け屋敷では、目を閉じたまま、手を繋いでもらって脱出する子どもだった。

大人になった今でも、凄惨なニュースは見られないし、
ホラーやスプラッタ、血の気の多いミステリなどは嗜まない。

京極夏彦さんや、森博嗣さんは、美しさが怖さを上回るので、
読むけれども、自宅には置いておけない。

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【エッセイ】もうひとふんばりの希望

【エッセイ】もうひとふんばりの希望

いちばん最初のnoteに、こんなことを書きました。

“自分がつらいとき苦しいとき、救われたのは本だったから。
私も同じように、見知らぬ誰かに対して、
「私はここにいるよ」
「ひとりじゃないよ」
「大丈夫だよ」
って伝えたかったんだろうな、って。

会ったこともない人の言葉や物語に、自分が救われたように、
私の言葉が、世界のどこかでギリギリ踏ん張っている誰かに届いて、
私がここにいることで、誰かを

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【エッセイ】Simple

【エッセイ】Simple

私が何かを“作る”とき。

“引き算”を楽しめるようになったとき、
“余白”を味わえるようになったとき、

作るのが、好きになる。
作るのが、うまくいく。

尊敬しているアーティストの方が、こう言っていたのだ。
「作った時の感覚の言語化をしてみると
自分の上手くいくパターンが見えてくるような気がします」

そこで、作るときの感覚を思い返してみると、
私はどうやら、“磨く”“削ぎ落とす”ことに、美と

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【エッセイ】サンタクロースの秘密

【エッセイ】サンタクロースの秘密

ついに今日、小学生の息子に打ち明けたのだ。
「お母さんは、実は、サンタ組合の組合員なんだ…」と。

「世界には、すごくお金持ちの人もいれば、今日食べるものに困っている人もいるでしょ。
だけど、世界中の子どもたちに、サンタさんが来てほしいから。
そんな思いの大人たちが、サンタ組合に入って、みんなでお金を出し合って、
できるだけたくさんの子どもたちに、プレゼントが届くようにしているんだ」

そう。

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【エッセイ】ぐうたら

【エッセイ】ぐうたら

先週末は、ゴロゴロと過ごしていた。

ここ1ヶ月ぐらい、時間が飛ぶように過ぎる感覚で。
ふっと気力が途切れたのか、
「今日は、なんにもしたくない」
と、クダを巻いていたのである。

けれど、未来の自分が大変なのも、嫌なのだ。
家族分の洗い物を、溜めて明日に回したりなどしたら…
間違いなく、明日の゙私の心が折れる。

逡巡しながら、それでもゴロゴロを貫いていたところ。
私がなんにもしないぶん、娘が部

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【エッセイ】新米母さんだった、昔の私へ

【エッセイ】新米母さんだった、昔の私へ

「子どもには、自身で育つ力がある」とは言うけれど。

知覚過敏で、とにかく偏食、
野菜をほとんど食べないわが子のことが、心配だったし。

学校に行きづらくなってから数年、まずは安心する環境作りが最優先で、
まったく勉強していないわが子のことも、心配だった。

「本人のペースを尊重する」
「必要だと感じたら、自発的にするようになる」

私は、口ではそのように言っていたし、実際にそう思ってもいたけれど

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【エッセイ】いたいのいたいの、とんでけ

【エッセイ】いたいのいたいの、とんでけ

急いでいて、ドアに頭をぶつけた。

時間がないときに限って、そういうことがよくあるので、
「痛っ! もう!」と、イライラしがちなのだけれど。
そうっと、やさしく、なでてみた。

昔、子どもに「いたいのいたいの、とんでけー」をしたように、
自分にもしてあげたら、ほんのちょっぴり、やわらいだ気がした。
自分であれ他人であれ、やさしく労ってあげるのは、確かに大事なことなのだ。

昔、息子が転んで泣いたと

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【エッセイ】勇気よ、どうか我が胸に

【エッセイ】勇気よ、どうか我が胸に

朝起きて、窓を開けるとき、勇気がいる。

私は、田舎住まいでありながら、極度の虫嫌いのため、
できる限り、彼らとは顔を合わせたくないのである。

カーテンを開けて、窓の外に、その姿が「こんにちは」と現れると、再びカーテンを閉めたくなる。
窓ガラスに張りついて、腹部を見せつけられた日には、
そのまま回れ右で、なかったことにしたい。
今の季節、網戸の内側にまで入り込んでくる種族にいたっては、もはや憎悪

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【エッセイ】共有

【エッセイ】共有

今さらではあるけれど、SNSはシェアリングの世界なのだな、と実感している。

私がSNSを開くと、
「虹が出ていたよ!」
「このスイーツ、おいしい!」
「誰々さんと会えたよ!」
と、その人の“好き”や“楽しい”が伝わるものが、たくさん上がってくる。

noteのように、言葉や写真といった作品で感性に触れたり、
より学びが深まるような情報があったりもする。

もちろん、耳触りのいいことばかりではない

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【エッセイ】息子的配慮

【エッセイ】息子的配慮

小学6年生の息子が、私にハンデをくれるようになった。

Nintendo Switchのゲームで遊ぶとき、一緒に走るとき、腕相撲するとき。
私のほうができないものは、そこそこ対等な勝負になるように、調整してくれている。

幼いころは、負けると盛大に泣き、怒り、拗ね…のフルコースで、
“ひとつひとつの気持ちを受け止め、子どもが現実を受け入れられる土台を作る”
余裕など、正直なところ、私にはなかった。

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【エッセイ】そのように生きる

【エッセイ】そのように生きる

私の車の前を、タンクローリーが走っていた。
ぴかぴかに磨き上げられた、銀色のタンクに、周りの風景が映り込んでいる。

流れるように、飛ぶように過ぎてゆく景色は、映画に似ている。

移り変わる世界の中で、私の車だけは、真ん中にあり続ける。
ひととき、世界の主人公になった気分を味わえる。

電車の窓から眺める世界に、ガラスに映った自分の顔が重なるのと、同じ感覚だ。

私は世界の片隅に生きていて、淡々と

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