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山口祐加『自分のために料理を作る』 〜自分を知る入り口〜


自分に聞いてみる。
「今日は何が食べたい?」

そんな前向きな元気もなかったら、こういう聞き方でもいいと山口さんは言う。
「何は食べたくない?」

自分のために料理を作るということ。
それは”心の中に『深夜食堂』の店主と『孤独のグルメ』の井之頭五郎を住まわせ”るようなこと。

客が本当に望んでいるものを、しれっと差し出す店主。
勘で選んだ店の料理を大いに楽しみつつ、自己との対話を深めていく客。

料理をすれば、その両方の役割ができる。作り終わった後も、フィードバックが始まる。「どうやったらもっと美味しくなるんだろう?」「本当は もっとしょっぱいものが食べたかった? 」そうしてできあがるのが、”世界でたった一人のオーダーメイド料理人”である。

いつの日か、

”今日の仕事はうまくいかなかったが、自分の飯は今日もうまい”

と思えたら、もうこれ以上のセーフティネットはないのではないかという気がする。

物を大きく減らしたときも似たようなことが起こってた。本当に好きな物2つが目の前にある。でもどうしても1つにしたい。
「本当の本当に好きなのは、一体どっち?」
こんな対話を何千回も、自分と繰り返してきた。

そうして、ようやく自分の価値観がはっきりしてきた。
世間とはズレていくことも多かったが、自分と対話を繰り返してきて、出力されたものは揺るぎがない。

“自分が食べたいものを知り、それを自分で作るというのは、したいことをするトレーニングにもなるのではないか”

物を減らすことも、料理も、他に何千、何万とある「自分を知る」という入り口のひとつなのだと思う。

料理家としての山口祐加さんはとてもカジュアルで、押し付けがましくない。この本には、料理教室での様子がライブのようにたくさん収録されている。あれでもいい、こっちのやり方でもいい、と本当に自由なスタイル。

だって、究極的には家で作る料理なんて美味しくなくたっていいから。(とても忙しいお母さんが作ってくれた大雑把な料理は、山口さんにとって味より思い出になっている)。

料理以外でもそうだが、自分で作った完成度が低く、隙間のあるようなものはなんとも言えないかわいらしさがある。

“料理の美味しさの9割は安心感”

食べ慣れれば、愛着も湧いてくる。もし美味しくなかったとしたって、フィードバックが始まって自分との対話も深まる。

350ページを超えるボリュームのある書籍だが、その中でちょこちょこ出てくる料理のコツのようなものも面白い。

・料理はいきなり完成させなくてもいい。完成した料理の形を目指さずに、何にでも使えるような形で、野菜を切っておいておいたっていい。パソコンやスマホに向かうのも飽きたら、ただ野菜を切るのはいい気分転換になりそう。

・山口さんはまずサラダを作って、小腹を満たしておいてから何を作るか考えることもあるらしい。料理は「定食」のように一気に完成させなくてもいい。「小料理屋」のように小出しにしてもいい。

物を減らしたら、家事が簡単になったので、嫌いだった掃除も洗濯も大好きになった。ただ料理は後回し。いつも同じものばかり作っていた。

ここはひとつ山口さんを師と仰ぎ、やってみようかという気になっている。


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