ウィトゲンシュタインの存在『〈実存哲学〉の系譜』の紹介⑤
1889年、ウィトゲンシュタインはウイーンの裕福な家庭に生まれました。「論考」期の彼の生の思考は、彼の生い立ちにみることができるといいます。
彼の哲学にはその背後に彼の生の思考、自分自身の生き方をめぐる思考がいつも伴っていました。それは、彼が誠実さを志向する人間だったという現れであり、言い換えると、壮大な宮殿のような哲学理論を構築しながら、自分は、その隣の小屋に住んでいられるような人間ではなかったといえます。
「論考」という壮大な宮殿を建てたとき、彼はやはり壮大な宮殿に生きていたのです。
これはどういうことなのでしょうか。
「この生の思考は、誰から影響を受けたものか、わかる者はいるか」
「はい!」青年たちの中から一人、手があがりました。
「トルストイです。1916年にノートに書いてある通りです」
「そのとお~り!」
「そこを読んでみてくれたまえ」
*『〈実存哲学〉の系譜』(著)鈴木祐丞(Suzuki Yusuke)
「ありがとう。第Ⅲ部に書かれているが、自分が入りやすい場所から入ることも必要だということだ」
この本の表紙には、こうある。
「このことが何を意味しているのか、考えてみることが大事なんだ」
そこに聞こえてきたのは
「桃はいらんかね~」桃の箱を持ったカメバ―さんです。
「みんな、若いからお腹が空いてるだろうと思ってね。ほら、桃を持ってきたよ~まぁ~みんな、いい顔しているね~」
桃色の笑顔で青年たちを見渡しています。
「そのとお~り♪」
青年たちの返事が返ってきました。
(終わり)