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名前が3つある女

認知症グループホームに入居している人の中には、介護職員を通して家族を見ている人がある。
私には、懐かしい時や悲しかった時などを思い出しているように見える。

若いころの娘と思ってる

「○○ちゃん?」
「それ娘さん?
私な、よう間違えられるねん。
なんか似てるみたいやなぁ。」
「○○ちゃんと、違うの?」
「うん、よく似てるって言われるけど。」
「○○ちゃんかと…。」

入居している人の中には、何度も何度も、私のことを娘と間違える人がある。
実際、その人に会って話したこともあるけど、上品な感じの人が多い。
私みたいにはしゃいだり、笑ったり泣いたり、怒ったりするようなタイプには見えない。
で、今の彼女の容姿と私は違ってたりする。

多分、娘の子ども時代か若い頃のことを、私を通して見てるのかなぁ、と。
だから「違う」ってわかると、少し残念そうな表情をする。

手を握って涙する

「〇子~!」
と私の顔を見た瞬間から、手を握って涙を流してしまう人もある。

はて、弱った。
私の顔を見るたびに涙する。
呼ぶ名はもちろん、娘の名。

介護経験が長い職員は「信頼されている証拠」って、そういう経験を誇らしげに話す人もある。
でも会って3日目くらいから、ずぅ~っとやで。
それ、ちゃうやろ。

「似てるって、よく間違われるねん。」
「違うんか?あんた誰や?」
で、本名を名乗るけど、信じてもらえない。
「〇子違うんか?」

仕方がないので、正面向いて話しを聞く。
聞けば聴くほど情緒不安定。
泣いたりわめいたり、ぐずったり。

そんな時、他の職員が助けてくれることもある。
「ココア作ったけど、飲まへんかぁ?」
「ココア?」
「○○さん、ココア好きやろ。」
「(リビング)行く~!」

仲間がいるって、ありがたい。

別名を同時に呼ばれると

そんなある日、洗い物をしていると1人が「○子ぉ~」と涙しながら娘の名前で私を呼ぶ。
で、続いて「○○ちゃん」ともう1人が娘の名前で私を呼ぶ。

えぇ~、2人同時かい。
どないしよっかなぁ、と考えていたら入居している人同士で話し始めた。
「この子は○○ちゃんよ。」
「いや!〇子やよ。」と。

「私な、○○さんにも〇子さんにも、よく間違えられるねん。
どっちの娘さんにも会うたことあるけど、めっちゃべっぴんさんやったわ。
そんな人に間違われるなんて、嬉しいわぁ。」
「え?違うの??」
「ほんまに違うの?」
「娘さん同士、似てるんちゃうか?」

で、なんか納得したみたい。



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