マガジンのカバー画像

短編小説作品集1

52
初期の短編小説集。物語の中の日常を伝えられますように。
運営しているクリエイター

#思い出

『茜空に待っているのは君のこと。』(4)完

『茜空に待っているのは君のこと。』(4)完

あの夏から10年経って、あの時の少女に再会するなんて、思ってもみなかった。

再会したあの日から、僕が店の手伝いに入るようになった水曜日、
会社帰りの朱莉が店にやって来る。

というよりは、僕が彼女に会いたくて、母に店のシフトに入れてくれと頼んだのだから、僕の方がやって来ているのかもしれない。

風が少し涼しくなった頃、秋桜(コスモス)の切り花が店に並んでいた。
それを見た朱莉は、僕が中学を転校し

もっとみる
『茜空に待っているのは君のこと。』(3)

『茜空に待っているのは君のこと。』(3)

帰り際、少女に名前を尋ねられた。

僕は、名字をなんて言ったら良いのか決めかねて、「章大(あきひろ)。」とだけ答えた。

ここは、自然公園と名前はついていても、森の中も同然だ。

「じゃあね、テラシマ アカリさん。気をつけて帰ってね。」
そう声をかけて、僕は家路を急いだ。

少し駆け足で進んでいると、後方から「ありがとう!」と少女の言葉が聞こえた。

くるりと振り返ると、
「僕こそありがとう。」の

もっとみる
『茜空に待っているのは君のこと。』(2)

『茜空に待っているのは君のこと。』(2)

あの夏のあの日、あまりの暑さに、近所のコンビニエンスストアまでアイスを買いに行き、
帰りは自然公園を通り、近道をすることにした。

その道中、道端のベンチの上に立ち、背伸びをしながら腕を伸ばしている少女がいた。

風が吹いたら、見てはいけないものを見てしまう気がして、地面に目を逸らす。

さっさと通り過ぎてしまおうかと思ったが、
白いワンピースを着て、麦わら帽子を被っている後ろ姿を見て、
僕は妹を

もっとみる