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2023年わたしの5冊


2023年に読んだ本のベスト5です。
(ネタバレあり、です。ご注意ください)

・はたちの時代 60年代と私(重信房子、太田出版)
・うちなー世 書を捨て、まちに出た高校生たち(吉岡攻、インパクト出版会)
・ハンチバック(市川紗央、文藝春秋2023年9月号)
・春画の穴 (春画ール、新潮社)
・ごんぎつね 二次創作アンソロジー(鰊パイ互助会)

※順不同

コロナ禍も一段落かと思ったら、冬本番を迎えてまた増え始めている。インフルエンザも例年より早く警報が出て、マスク・手洗い・うがいで予防に努める2023年の暮れ。

不支持率7割超えで有権者から不信任を突きつけられている増税メガネは、保険証廃止、武器輸出解禁、ポンコツ老ぼれ原発再稼働、辺野古基地工事で地方自治破壊の代執行……とやりたい放題。自民党はパーティー券収入で私腹を肥やす裏金作りを党ぐるみで行なっていたことが発覚し党幹部が検察特捜部の聴取を受けている。自民党には口を開けば日本の先住民族や外国人に対するヘイトを吐くロクデナシがいるが、党は放置し、ネトウヨは無知性丸出しで喝采を浴びせている。

こんな日本でいいんですか? 今こそ声を上げて日本の劣化を食い止めなければいけないのではないんですか。
昔の日本人は、老いも若きも大いに声を上げて、元気にプロテストしていましたよ。

はたちの時代 60年代と私】は元日本赤軍幹部の重信房子氏が学生運動を振り返った自叙伝。
彼女の活動を通して1960年代末から70年代の新左翼学生運動がどう始まり、盛り上がり、衰退していったかが概観できる。
「過激派」「武装闘争」というと怖いイメージしかないが、本書を読むとゲバ棒、火炎瓶、爆弾と武装化がエスカレートしていったそもそもの原因は、機動隊の過剰警備、過剰武装、過剰暴力にあることがわかる。
軍拡が軍拡を呼ぶ。国家対立だけのことじゃない。倍返し、十倍返しとエスカレーションしていくのは愚にもつかないこの世の習いなんですね。

こんな記述がある。
「この日、共に闘った一人の学生が殺されたことは、大きな衝撃になりました。『命を賭けなければ、もはや闘えない時代なんだなあ……』社学同の昼間部の友人が、現思研の部屋に来てため息をついてそう言いました。理屈抜きに、もう後に引けない新しい段階へと闘いが転じたのを、誰も実感していました」

彼女は大学に通い、銀座のバーで働きながら、サークルの部室でビラを刷り、電話番をし、デモ現場では救護班、救援対策班として走り回る。闘争の日々を「楽しく」活動する様子はまさに青春ストーリー。
学生運動が自滅していった過程もきっちり押さえ、なぜそうなったのかを分析している。彼女が飛び込んだパレスチナ闘争との比較から、運動の誤りを認めている。その上で、あのころの自分と友達に呼びかける。
「経験の大切さこそ訴えたい……はたちの時代には自分の生活圏を出て、新しい出会いをどんどん作っていってほしい」
Z世代にも響く書。

最近観た映画「メイキング・オブ・モータウン」(2019)でスティービー・ワンダーが言っていた。
「強い信念を持つものは魂で感じる。今が声を上げる時と。壁を突破しろ、世界を変えろ、と」
声を上げ行動し、ブルシットな現状を変えた実例はいくらでもあるのです。

同じ時代、沖縄では高校生が声を上げ、行動に出ていた。
うちなー世 書を捨て、まちに出た高校生たち】はカメラマンの吉岡攻氏が、沖縄復帰前後に現地で撮影した写真に写っていた高校生たちを50年後に訪ね、来し方を語り合う。

戦略爆撃機B52墜落爆発、その現場近くの弾薬庫にある核兵器、致死性毒ガス漏出事故、米兵による女子高生刺傷・主婦轢(れき)殺……頻発する米軍基地由来の事故・犯罪、米軍基地が返還されない騙し討ち的返還の実態に膨れ上がる怒りと恐怖。その果てに起きた米軍車両焼き討ち(コザ騒動)。

大きく揺れる沖縄で、多くの高校生が考えに考える。
『ですから、「基地のない島にするには自分たちで勝ち取らないと。他の県の人が助けましょうということは絶対ないと思ったんですね……」
だから集会にもデモにも参加した』

平和憲法を持ち、基本的人権を保障する日本だと思ったから返還運動にも力を入れた「強い信念を持つ」ウチナーンチュは、50年後の今も失望している、怒っている。
『生まれたときはもうすでに基地があったわけで、軍用道路一号線には戦車が走ってましたからね。しかし、当時は幼いですからなぜなのかは分からない。そしてそのまま考えないようにすれば楽ですよね。僕は考え込んでしまうんです。頭の中にはずっと爆音があるし……悩むんですよ。ところがそんなことを捨ててしまえば楽ですよ。考えないということは楽ですよ』

異民族支配が大和民族支配に変わっただけで、基地も、民意を無視する政治も、あのころと大して変わっていない。

本書は松村久美氏「片想いのシャッター 私の沖縄10年の記録」(1983、現代書館)と並んで私の本棚に収まりました。

マジョリティーがノホホンと暮らし、己の言動が他者を差別し傷つけているかもしれないことに考えも及ばない。そんなノー天気にガツンと一発かましてくれたのが、市川紗央氏の芥川賞受賞作。
ハンチバック】は、「私が紙の本に感じる憎しみもそうだ。」から始まる39行が圧巻。
自分の、想像力の欠如、ひとりよがり、無知・無意識に潜む差別性……をぶっ叩いてくれました。
「日本では社会に障害者はいないことになっている…こちらは紙の本を1冊読むたび少しずつ背骨が潰れていく気がするというのに、紙の匂いが好き、とかページをめくる感触が好き、などと宣(のたま)い、電子書籍を貶める健常者は呑気でいい。…左手の中で減っていく残ページの緊張感が、などと文化的な香りのする言い回しを燻らせていれば済む健常者は呑気でいい」

この一文は人ごとではない。
「女のエロい喘ぎ声を文字で表現することは不可能だと断言したい」
私も官能小説を書いている。「あん、あん」だの、「いい、いい」だの、「うふん、あはん」だの、母音系の喘ぎを多用している身としては、大いに共感しました。

ちなみにアメリカのポルノ小説も、小鷹信光氏の「和英ポルノ用語辞典」(1990、講談社)によると、「Aaaaah」「Ummm」「Ohhh」「Oooh」といった母音系が主流のようです。
中国語の黄色小説(エロ小説)を読むと、
「啊嗯、啊嗯」(あん、あん)「唔、唔、嗯」(ん、ん、うーん)「噫噫噫噫噫噫」(いいいいいぃ)「咕、咕、誒、誒」(くぅ、くぅ、うぅ、うぅ)「哈、哈、呼、呼」(はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ)とあり、同じ漢字文化圏ということで、英語よりも断然に劣情を刺激します。

なお、官能小説研究の大家、永田守弘先生の「官能小説絶頂用語用例辞典」(2008、河出文庫)を読むと、不可能に挑んだ先人の「喘ぎ声」があふれています。
「ふっ、うん」「くひぃ、くうぅ」「アワワ……ワッン」「きゃおぅ!」「おぉん、んぉふっ」「んいぃ、んうぅ」「うあん、うおん」「はぁううううーっ」「ひぎぃ!うひぃ!はひぃ」などなど。日本語表現の豊穣さ、奥深さを改めて確認できます。

頭の中がほどよく黄色になったところで、
春画の穴】をどうぞ。
ときどき本屋で入手する新潮社の「波」に連載(21年11月号から22年12月号)されていた。エロく、おもしろく、ためになる。単行本化され、即、購入した。

目次には、「人のマスターベーションを笑うな」「女学生とエロスの関係」「看護婦が白衣の下に穿いていたのは」「オンナの性器は第二の顔」「ファンタジーと現実の関係」など刺激的な文字が並ぶ。
そそられるでしょ。
知らなかった世界を覗き見せてくれます。興奮に胸が高鳴りますでしょ。

本書のエピソードの中で、一番「へえぇ〜」ってなったのが、「三途の川で待ち合わせする相手は……」。
女性は三瀬川(三途の川)を渡る際、現世で初めて交わった男性に背負われる、という伝承を取り上げている。
『三途の川くらい自分の足で渡りたいものです。このことを周囲に話したところ、『ぜっったい!いや!!」という心からの叫びが多すぎて、みんな初体験に何か思うところがあるんだなあ……なんて逆に興味深かった」
ぜひ、そこのところの男女の心情も掘り下げていただきたいと思った次第。

「春画は浮世絵芸術として語られることが多く、ジェンダーを絡めた語りはほとんどありません。そしてジェンダー史や女性史の側面から春画が史料として取り上げられた書籍や論文を探しても見つけられない」(筆者あとがき)。
本書も、前著「春画にハマりまして。」も、この年末に出たばかりの「春画で読むエロティック日本」も、彼女の仕事は確実にその隙間を埋めています。
「波」では白黒で小さかった図画がカラーで大きく再現されております。電車やオフィスでは読みにくい。夜、ふとんにくるまり、しっぽり気分でお読みください。

すっかり黄色く染まっってしまった大人の自分にも、純真無垢な真っ白な小学生時代があった。
国語の授業で読んだ新美南吉の「ごんぎつね」。大人になったあなたなら、その続きをどう書きますか? 「物語に書かれていない部分を自由に想像して書きましょう」という同人サークル、鰊パイ互助会さんの呼びかけに応じたもの書きさんによるアンソロジーが、
ごんぎつね 二次創作アンソロジー】です。
鰊パイ互助会さんは、コロナ禍で働く女性たちの心象風景を記録した「令和勤労婦人詩集」(2020年)という優れた本を出版されており、かねて注目していた同人サークルです。
一読驚嘆。「ごんぎつね」から24人がつぐむ物語の多様なこと。こんな設定ありか、こんな展開ありか。各執筆者の発想のすごさに目をみはります。
本書は同人誌であり、一般書店では手に入りません。私は文学フリマで買えなかったため、ネット通販「BOOTH」で購入しました。

以上、今年のマイベストブックスでした。今年も素敵な本に出会えました。

以下は、泣く泣く選から外した本のリストです。

・エモい古語辞典(堀越英美、朝日出版社)
「恋蛍」(恋したう気持ちをホタルの光にたとえた言葉)、「思い寝」(好きな人を思いながら寝ること)など、素敵な言葉のオンパレード。
・リメンバリングオキナワ 沖縄島定点探訪(岡本尚文・當間早志、トゥーヴァージンズ)
写真集。かつてあった沖縄と今ある沖縄を見開きで紹介。おしなべて昔の方が建物のデザインも街の雰囲気も良いのはなんでだろう。
・放送メディア研究 特集: 沖縄「復帰」50年 何が伝えられ、何が伝えられなかったか(NHK放送文化研究所)
「復帰」報道を巡るテレビ、新聞、出版、アート、ネット言説を概観。誰もが発信できるネットの酷さは、この国の品性、知性の劣化を映す鏡ですね。
・日本沈没 上・下(小松左京、さいとう・プロ、リイド社)
漫画。小説、映画(1973年版)は傑作。自民党の底なしの腐敗堕落、ヘイト・ネトウヨが跋扈する日本。いっそ沈没してくれたらどんなに清々するかしら、としばし空想。
・はだしのゲン 1・2巻(中沢啓治、集英社ジャンプリミックス)
小学生の時に読んで以来の再会。続刊を期待したが、3巻以降はなぜか出なかった。が、口だけ核廃絶の増税メガネのお膝元(広島市)で、「ゲン」が小中学校、高校の平和教材から放逐される信じられない状況下での再販には意義がある。
・ハヤカワミステリマガジン2023年11月号(早川書房)
ポケミス創刊70周年記念特大号。1953年から2023年までの全作品総解説目録は永久保存版。ロス・マクドナルド、ダシェル・ハメット、ミッキー・スピレイン、イアン・フレミング、エド・マクベイン、レイモンド・チャンドラー、ディック・フランシス、(まだまだいるけど思い出せない)を読んで大人になりました。
・フナバシストーリー(北井一夫、船橋市教育委員会)
市所蔵作品展(2023年12月6日〜24日)の図録。カメラマンの北井氏が1963年から86年にかけて船橋市の街や人を撮影。北井氏の作品に私の大好きなものがある。三里塚闘争の写真。「少年行動隊」(1970年)。

5/2/2015、東京新聞より

団結小屋の前に勢ぞろいする小学生たち。そのあどけなく、屈託のない笑顔を見ていると、涙が滲んでくるのです。子どもに闘うことを余儀なくさせる権力の横暴、無慈悲に、何もできない己の不甲斐なさに……。彼、彼女らも今は還暦過ぎ。その後の人生が幸多きものであってほしいと、見るたびに思う。この写真を収録している「写真家の記憶の抽斗」(2017、日本カメラ社)は会場で購入した。

番外
・みつきの微笑みがえし(花島南、R18)
・短い、早い、すぐ終わる タニグマー小説集1(同、タニグマーはウチナーグチで「短小」です。すみません)
いずれも拙著。
note、pixivに発表してきた作品を初めて本にしました。11月11日開催の文学フリマ東京37に初出品。
正直、あまり売れなかったです(行き帰りの荷物の重さがそんなに変わらなかった……)。2024年5月開催の同38(抽選待ち)で捲土重来を期します。在庫処分(?) にご協力ください!
(了)

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