福島出身者がFukushima50を見た感想
私は福島県浜通り出身だ。といっても、地元・相馬市は原発から40kmの距離(都庁から八王子ぐらい)にあって、事故の避難対象外だったので、映画で描かれたようなまさに原発立地町に住んでいた方とは、抱く感想に温度差があると思う。
福島県は広い。相馬市と檜枝岐村ほど離れていても同じ福島県(相馬を中心とした円でいうと、桧枝岐と同じ距離にあるのは、岩手県陸前高田市や、茨城県水戸市など)だ。以下の内容が福島県民の総意ではないことをご了承ください。
と、言い訳したところで、肝心の感想を一言で表すと「綺麗にまとめすぎ」だ。以下、ネタバレだらけ。(っていうか感想まとめるのに時間かかり過ぎて二番煎じ感がある点、大いにごめんなさい)
●英雄化は映画だからしかたない。
初めに、事故当時のことを知らなかったor忘れていた方は「映画で描かれた事柄が全ての事実ではない」ことをよく心に留めてほしい。あくまであれは事実を元にしたフィクションだ。フィクションとしてなら、事故を風化させないためのキッカケとしてなら、大いに評価したい。(以下、この映画はフィクションだという前提で書き進めます)
さて、内容。冒頭から涙を堪えながら見続けた。残念ながら結末は決まっている。1,3,4号機の建屋は爆発するし、周辺20km圏内の人々は生活の一切を失う。私にとってそれは既に最悪の事態で、負け戦を見る気分だった。が、映画では東日本壊滅(半径250km、東京も含む国民5000万人に影響)の危機を回避したという描き方をされている。
この点は別に構わない。実際、そうだと思うし。当時の現場の方々の、本当に死と隣り合わせの勇敢な行動があったから、被害は甚大だけども国家の危機を免れた、というのは間違いない。
映画だから、それをヒロイックに描くのは当然だろうし文句はない。特に、作中のベント作業で、あと一歩でバルブを開けられるのに警報が鳴って引き返してきた二人(演・小倉久寛、石井正則)が「すいません」と連呼する場面。決死の覚悟とそれを果たせなかった無念さがこもっていて、もう謝らなくていいと言ってしまいたかった。(あの日の作業員さん、本当にありがとう)
だけど……
●終わらせ方には、違和感があった。
なんかトモダチ作戦で救われたっぽい演出だけど、現場は何も救われてない。作中、米軍は偶然避難所にいた作業員を労っただけ。もちろん、支援物資を届けてくれたことは感謝すべきことだけども、問題の本質には全く関わっていない。(米軍の登場時から、収束に関して何かしたっけ?出す意味ある?と思ってた)
また、避難所で伊崎(演・佐藤浩市)が避難者に対して頭を下げる場面が、どうもあと一歩惜しい。無言で向けられる冷たい視線も十分辛いんだけど、たった一言でいいからアンチの声、例えば「家を返せ」とか「どうしてくれるんだ」という非難の声を、呟き程度でいいから入れてほしかった。
いや私だって、現場の方を責めたい訳じゃない。むしろ緊急対応には感謝したいし、あなた方(現場作業員)のせいではないと言いたい。だけど、どうせフィクションならば(避難所で謝罪すること自体フィクションめいているのだし)擁護する前に非難があってほしかった。演出として、の話です。
で、これ以上に、最後の、吉田(演・渡辺謙)のモノローグ「自然を舐めていた」という表現にとにかくガッカリ。
「いやそういうことじゃない」というのが直感的感想。
ご本人を知るわけじゃないけど、吉田元所長が生きてたらそうは言わないと思う。(個人的見解です。書面上でしか吉田さんのことは知りません)あのセリフのせいで、私にとってこの映画は謙さんの無駄遣いになってしまった。相馬流れ山を歌う場面なんてフィクションに決まってるけど嬉しかったのに、本当に残念でならない。
確かに想定外の自然災害に負けた部分は大きい。けども。当日も、それ以前にも、もっとできたことがあると思うんだよ……と勘ぐってしまうのは、東京電力さんの情報公開の不透明さによるもの。未だに私は東京電力さん(の、特に上層部)を信頼してはいない。
(今年2月の地震の時さえ、情報小出し後出し、なんだか残念)
(この記事を書いた後の16日、追い打ちをかけるように柏崎刈羽原発のテロ対策不備の報道。頼むよ東電さんマジで本気で真剣に)
((日々の電力供給については感謝してます))
あと、ついでに書いとくと……
●総理大臣の印象の悪さが過剰。
私も菅直人さんそんなに好きじゃなかったけど(劇中では菅さんかどうか不明確)、あれは露骨すぎ。私はフィクションとして見てるけど、ドキュメンタリーだと思って見た方々は、これが真実だと断定しないでほしいと思います。その点はこちら↓の記事で詳しく書かれていますので、興味がある方はご覧ください。(ただし官邸寄りの記述っぽいので、あくまで参考に。私も絶対正解だとは思ってません)
(民主党時代を振り返ると、良くも悪くも何も起きないのが自民党だなって今は思います。野党第一党もっとがんばって。与党の揚げ足取り以外の、政策で勝負してよ)
と、ここまでネガティブなことばかり書いてしまったけど……
●泣きポイントもあった。【重要!!】
泣きたいと言ったら全ての場面で泣きたかったけど、ずっと涙を堪えて鑑賞していた私が、耐えきれず頬を濡らした場面はここ。
伊崎の回想
幼い伊崎少年は、父・耕造と共に大規模工事中の海岸を見つめている。父は「これからは発電所で働くことになる」「もう出稼ぎに行かなくていい」と語る。伊崎少年は「正月も一緒にいられる」と大喜びする。
この場面だけは、そうだ、そうなんだよと、声に出して(夫に向かって)強く頷いた。
原発立地以前の福島県浜通りでは、農閑期は出稼ぎのために男衆が家族の元を離れなければいけない、そういう時代があった。でも、原発は、貧しい農村地に、雇用を創出した。明るい未来を、与えてくれた。
明るい未来のはずだった。
それがどうしても哀しくて、これ書いてる今も鼻水すすってます。すみません感傷的になっちゃって。
次の場面も、もう自分を重ねちゃって、直視できませんでした。
伊崎の回想2
学生服に身を包む伊崎少年。学校行事で原発関連施設を見学している。案内係の女性は「低コストで大きなエネルギーを生み出せる」「二酸化炭素を放出しない」「まさに未来のエネルギー」と説明する。
ちょっと脱線します。以下「思い出補正」「私かわいそう節」が炸裂するので、興味ない人は飛ばしてまとめの項を読んでください。
●私は原発に入ったことがある。
伊崎と同じ説明を、学生時代、私も聞きました。見学に行ったんです、私も。あ、でも「聞いたはず」というのが正確。第一原発だったのか第二原発だったのかも覚えてなければ、何号機を見たのか、どんな説明を受けたのか、全くと言っていいほど覚えてないから。
思い出せるのは、安全靴の重さと、使用済燃料が眠るプールの透明さぐらい。
水深は何mと言われただろうか、分厚い水の壁が、放射性物質を閉じ込める役割をする、と言っていた気がする。水はものすごく透き通っていて、整然と並ぶ黒い物体が、ずっと奥底にあるはずなのに、ハッキリと見えた。
▼これがその時の写真。The見学記念って感じ。
建屋内かな、線量計は毎時0.001ミリシーベルトを示している。いま風にいうと1マイクロシーベルト? 原子力関連施設としては標準なのかな? いずれにしても、私はマスクも防護服も無い状態で施設内を見学できた。
▼もう一枚あった。
一番左が私(足太いな……)。後ろに見えるのが原子炉の一部なのか、関連設備なのかも思い出せないけど、私達は、あの場所で、笑って過ごせていた。たぶん「夏休みなのにダルい」とか「早く帰ってゲームしたい」とか、原子力すげーとは到底かけ離れたガキンチョの会話を繰り広げていた。
そこが、自分達にとっては既に歴史上の出来事となっているチェルノブイリ原発事故と同じ、最悪レベルの深刻な事故現場になるなんて、誰一人だって思わなかったよ。
だって安全対策に安全対策を重ねているって、言われて育ってきたんだもの。大きな地震がある度に、ニュースキャスターは「福島第一・第二原子力発電所に異常はありません」と言うことが当たり前で、わざわざ言わなくていいのにと思ってたぐらいなんだもの。
なんか、すっげー悔しい。
と、こんなことを伊崎の回想シーンを見て思い出し、泣いてしまいましたとさ。
●まとめると。
・フィクション映画として、事故を風化させないための手立てとしてなら評価したい。
・「俺達は何か間違ったのか」の結論を「自然を舐めていた」で片付けたのは不満。
・「事実を元にした」という割には東電擁護・官邸批判の演出が強く中立な視点とは言い難い。
・原発に未来を託した地元住民の期待と失望と葛藤は、よく描かれていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
いろいろ書きましたが、一見の価値はある映画です。一回でいいけど。
特に、福島から遠い土地に住んでいる人、福島に興味のない人、あるいは原発事故って何?な世代には見てほしい。事実を元にしたフィクションだよという前提で、ですけど、こういう事故があって懸命に作業した人がいたこと、今も廃炉作業は継続中であることを知ってほしいです。
そしてコロロ関連の緊急事態宣言が発出されたり解除されたりする一方で、あの事故の時に出された緊急事態宣言は、まだ解除されていないことも、あわせて心に留めてほしいとひっそり願います。
2011年の被災者の方々には、積極的に勧めません。見なくても、このつらさは知ってるだろうから。
ずっと見なくてもいいし、見る余裕ができたら、見たいと思えた時に見てください。
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●まとめられなかった、こぼれ感想。
・大森(演・火野正平)のベテランオッチャン加減がとても良い。それだけに、結果の分かっている作業行程が見ていてつらい。
・爆発シーンはFCTから本物借りられなかったんだね。
・前田(演・吉岡秀隆)の我が子を思う気持ちと、爆発後の絶望感・悲壮感の対比がつらい。
・ラストシーンは、ひと目でわかった、夜の森(よのもり)桜! 富岡町の名所。コロロが落ち着いたら、ぜひ来てほしい。
・あとね、フィクションの最たるものは、双葉町にあるはずの看板(原子力 明るい未来の エネルギー)を富岡町に合成してるとこだよ。
・ちなみにそのラストシーン、方角的に、右側に写り込んでる高い建造物はたぶん広野火力発電所。……と、投稿当時書いたけど福島第二原発だと思う。3/19訂正。
・夫の鑑賞視点は「芸人が意外と多い」だそうな。そこじゃねえべよ…
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感想追記(3月18日)
伊崎のモデルとなった方は双葉町ご出身だとか。作中でも富岡町出身にするより双葉町もしくは大熊町出身とすべきだったのではないか。最後の桜を使いたかっただけで設定したなら安易。でも第一原発のある双葉・大熊だけでなく第二原発のある富岡の名前も広く知ってほしいという意図なら賛成。後者であってほしい。(じゃあ楢葉町もいれてくれよって思うけど)
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ぜひ読んでほしい記事
追記(3月19日)
事故当時富岡町にお住まいだったkumachooooonさんの記事です。ご本人と連絡がとれたので掲載します。
私なんかよりずっと当事者で、生身で感じた方のご感想。多くの人に読んでほしいです。とにかく読んでください。
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さいごに。
トップ画像は常磐自動車道から車のガラス越しに撮った福島県双葉郡大熊町の一部です。(撮影は2020年夏)
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おしまい
応援してくださるそのお気持ちだけで、十分ありがたいのです^_^