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3.【連載小説】 rencontre -いつもの失恋-


2.


小さい頃から何でも器用に熟せる方だと思う。
それゆえに今日まで総合的に見れば、私の人生は良い方に転んできた。

そう。
恋愛以外は。

平凡だけど優しい両親のもとに生まれた私は何不自由なく育ち、ありふれた幸せの中で穏やかに過ごしてきた。
大きなトラブルに巻き込まれたこともないし、自分のルーツに不満なんて一つもない。

"唯一苦手なもの"を除けば。

物心がついた頃から、自分とは性別が違う"男の人"と接するのが好きではなかった。
血の繋がる父や祖父、そして従兄弟は私のことをすごく大切にしてくれるのに、同年代の男子は荒っぽくて、女の私には想像もつかないような品のない言葉を口にする。
その荒々しい男子たちはいつも私にちょっかいを出す。
話したこともないのに馴れ馴れしく"ユリ"って両親が付けてくれた大切な名前を我が物顔で呼び捨てにする。
加えて、女子からはいつも冷たい目で見られる。


『本当は嬉しいんでしょ。 』


何も悪いことをしていないのに周りから宙に浮いているような、あの独特な雰囲気が本当に苦手だった。
凛とした表情でいつも飄々としていたけれど、心の中ではいつも怯えていた。

"なぜ私ばかりこんな思いをするのだろう"
この問いに答えが出たのは中学生のときだ。
その頃になると、もうすっかり男子ことが苦手になっていた私は地元から電車で1時間ほど離れた女子校に通っていた。
女子校という同性しかいない快適な空間は私の人生を大きく開いた。
私をからかう男子は一人もいない。
女子ばかりだと冷たくされることもない。
こんなに居心地が良い環境があるのかと入学早々感動したのを覚えている。

それと同時に、男子と距離を置くことで今まで見えなかったものが見えてきたのもその頃からだ。


『友里ちゃんって綺麗だよね。』


あぁ、そうか。
そういうことだったんだ。
男子に構われる理由と女子に嫉妬される理由を、中学生になってようやく理解した。

それからの私は、女子に嫌われない振る舞い方を意識して身に付けた。
もう二度と孤独な思いをしないために必要なのは、異性の関心ではなく私と同じ性の味方。
この先の大切な人生を誰にも邪魔されないためには、男性とは必要以上に関わらないようにすることだと中学生で悟ったのだ。

現状が嫌だったら環境を変えれば良い。
環境を変えるために自分で努力をすれば良い。
努力をした分、必要だと思うものを選択すれば良い。
年齢を重ねることは自由が増えることだと知った。

そこから約15年、男性と女性が交わる空間では意識して控えめに振る舞い、常に隅っこで存在を消してきた。
ずっとずっと男性を遠ざけてきたのに ——— 。

なのに、いつから男性が欲しくなったんだろう。


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