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2.【連載小説】 rencontre -いつもの失恋-


1.


『正直いつのまにか好きじゃなくなってた。
別れよう。 』


意を決して3週間ぶりにかけた電話にやっと出た彼があっさりそう言い放った。
またこれか。
"いつのまにか好きじゃなくなってた"
昔から振られるときにいつも言われてきた言葉だ。
私にとっては聞き慣れた言葉と言っても過言ではないけど、この言葉に慣れることなんて多分一生ないと思う。
むしろ言われる度に恐怖感が増したのは年齢という数字が大きくなったせいだろうか。
年の功なんて嘘っぱちだ。

人よりも空気を読むのが得意なのはきっと私の長所ではない。
別れの前兆をいち早く察知して"この恋"の結末をある程度予想して臨むのに、いつもしっかり突き落とされる。
ビクビクしながら過ごした今日までの数週間がまったく無駄だったということになるからだ。

良い女で終わるシミュレーションは何度もした。
今この場でなんて言ったら正解なのかももう知っている。
けれど頭の中に浮かぶ年齢よりも少し幼く見える彼のはにかんだ笑顔が、大人の私の邪魔をする。


「 もう、見込みないの?
悪いところがあるなら直すから
せめてもう一回会えない? 」


食い下がったら惨めな自分に傷付くだけ。
そう何度も学んできたはずなのに、結局私は言ってしまうのだ。


『そういうところが無理。
サバサバしてるように振る舞ってるけど
実は結構重いよね?
付き合っててしんどい。
これ以上、お前のこと嫌いにさせないで。 』


結局、私は誰かのいちばんにはなれない女なのだ。

その後のシナリオもいつもとなんら変わりはない。
私は彼に思いつく限りの怒りをぶつけて、私と別れることを後悔するような復讐を余裕のない小さな頭で必死に考える。
でもやっぱりまだ彼が好きだから、電話の向こうでため息をついている彼にすがって泣いて惨めな自分を散々晒した。
その姿にいよいよ嫌気が差した彼は指一本であっけなく私との関係に終止符を打つ。

私があなたへの想いを全て言い切る前に。

好きなの。
ほんとにそれだけ。
なのになんでいつもこんなふうになっちゃうんだろう。
いつから私のことを好きじゃなくなったの?
もう二度と電話に出てもらえない恐怖に泣くことしかできない。
枕に顔を埋めてこのまま消えたいと願った。

もういい。
どうせ私は幸せにはなれない。

どうして私は失敗から学ぶことができないんだろう。
私は、私が私であることにいつも絶望する。
明日からどうやって息をすればいい?


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