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とある専門商社の社員の1日

 前回の記事では専門商社と総合商社の違い、専門商社への就職に関するメリットを説明した。
興味のある方はどうぞ。

じゃあ具体的に専門商社ではどういう仕事をするのか?1日はどのように進むのかを書いていきたいと思う。

とある専門商社若手の一日

朝8:00 始業の1時間以上前にオフィスに出社。
 まだ上司は出社していない。他の部署もポツポツと出社している人がいる程度の事務所に三年目のA君は出社した。若手が早い時間の出社を強制されている、というわけではない。総合商社も専門商社も、とかく商社には雑務が多い。また、始業時間を過ぎると取引先からの電話や社内での依頼ごとが多くなるため、メールチェックや業界誌の新聞に目を通すのには早い時間の出社が都合が良かったりする。A君の場合はこの時間を前日の夜に入ったメールチェックやタスク整理に充てている。

AM 9:15 始業時間。
 メール処理をこなした後はアシスタントの女性と軽く打ち合わせ。お客様からの注文に対し、メーカーの在庫があるかどうか、希望の納期通りに手配できるかを確認。そうこうしている内にお客様から電話があり、製品のスペックに関する問い合わせを受ける。

AM 10:00 課内ミーティング
 案件の進捗状況やスケジュールについて課長以下のミーティングで報告。

AM 11:00 来客。
 取引先の二次流通*の担当者が来社し、打ち合わせ。販売状況や取組中の案件の進捗を協議。
*特にBtoBの商社では、メーカー→商社→お客様(また別のメーカー)という流れの商売が基本だが、取引先は実際に物を使う(メーカー)人だけでなくまた別の商社であったり、卸業者もいる。直接販売したくてもできない場合がある。
お客様の中には自社が購買する資材や原料と、代金をやり取りする商社を限定しているケースがあるため。一方でこうした二次商社は仕入れ先であるメーカーから直接買えない場合があり、これを解決するために【メーカー】→【メーカーの一次商社】→【二次商社】→【お客様】という商流でモノを販売する事は珍しくない。

PM 12:00 ランチ
 部署内で揃って外に食べに行く人もいれば、弁当を買ってきて食べる人もいる。

PM13:00 会社から外出、メーカーの担当者と打ち合わせ
 仕入れ先であるメーカーの担当者との打ち合わせのため、外出。新商品の説明を受けたり、お客様の状況や見通しを報告。ライバルメーカーの動向の情報を提供し、新たに販売を広げるお客様を決定。

PM15:00 帰社。
 会社に戻った後は打ち合わせ内容を報告書にまとめる。レポート作成後にはメーカーとの打ち合わせで決めた販売先への新規取り組みを進めるため、早速お客様へのアポイントを取るべく電話をかける。

PM 18:00 製品トラブル対応
 終業後にお客様から急遽電話あり。今日納入された製品の調子があまり良くない為、製品の状態についてメーカーに連絡してほしいと依頼を受ける。まずはどんな状態なのか、どのような事で困っているのか状況をヒアリングした後、仕入れ先へメールで連絡。

PM 19:00
 仕事を終え、社内の飲み会に参加。飲み会は多くの場合は会社から歩いていける店に行くことが多い。他部署の人がどんな仕事をしているのかを聞ける良い機会になっている。

仕入れ先とユーザーの橋渡し

 ここまで読んで頂いてわかると思うが、商社の仕事の多くは「仕入れ先」と「ユーザー」の間に立つことで成立している。想像以上に地味だという感想を持たれた方も多いと思うが、かつて商社は「机と電話と人だけで動く」とまで言われたのが商社であり、地道な仕事がほとんどである。
 今時オンラインショッピングでも物が買えるのに、商社を通してものを買うことに意味があるのか?という素朴な疑問もあるかもしれない。
 特にBtoBのメーカーから見ると、販売できる窓口を集約する為に商社の存在というのは重要でもある。大口のお客様から小さい単位でしか購入しないお客様まで、いちいち対応するのは労力がかかる。商社に窓口を限定することで、その分メーカーも営業担当者を減らすことができる。また、財務上健全な商社に販売することはメリットがあると言える。与信機能については別途解説したい。
 メーカーの中には特定の商品に関して商社・専門商社を「総代理店」として指定し、「この会社から買ってください」「製品の説明も商社から聞いてください」という所まで機能を持たせているケースもある。自分で製造していない製品であっても、商社はメーカーの分身として販売に従事する事が求められる。

専門商社のやりがいとは?

 商社の仕事そのものは地味に思えるかもしれないが、多くのやりがいに満ちた仕事と言える。商社無くしては成り立たない仕事が少なからず存在する。例を挙げるとメーカーとユーザーの意見は多くの場合合致しない。
ある製品を売る側と買う側では考えることは真逆だからだ。
メーカー:製造するコストを抑え、高い値段で販売したい。
ユーザー:出来るだけ安い値段でいいものを買いたい。

このような異なる考えを持った者たち同士では、お互いの考えは一致せず、上手くまとまらないことが多い。
 購買している製品の値段を下げてほしい、という価格交渉をユーザーは仕掛けてくることがあるが、こうした場でも互いの考えが平行線になる。

購買担当A「お宅の部品だけどあまりにも高すぎる。このままじゃ買い続けることは難しい。値下げを考えてもらえないか」

メーカー担当B「おっしゃる事はわかりますが弊社も色々なコストアップを自社で飲み続けています。購入し続けてくださっている御社には申し訳ないのですが値下げというわけには」

購買担当A「苦しいのはこちらも一緒だ!そんなことを言うなら他の会社から見積もりを取らせてもらうぞ!」

メーカー担当B「これまで御社への供給を優先してきたのに、そのような言い方は無いでしょう!それなら来月からの御社向けの注文はお受けできませんね」

…とこのように作り手と買い手は直接的に言葉を交えると平行線をたどりがちである。
ここに商社が入ることでお互いの言い分を聞きつつ、両者の関係を保ちつつ解決案に導くといったことが求められる。到底解決できないように思えたトラブルや交渉を、イニシアチブを持って主導し解決できた時のやりがいがとても大きい。
 商社はお客様に製品を右から左に販売したり、言われたことを繋ぐだけの役割ではなく、そこに双方の視点から考えた意見や行動に付加価値があると言える。
 先ほどの値下げのやりとりにしても、まずは商社が入るとどうなるかというと、以下のようになる。

購買担当者A「Cさん、御社から売ってもらってるB社の製品なんだけど、値段が高い。何とか値下げをしてもらえないか?」

専門商社担当C「日頃ご購入頂いているAさんのお願いは何とかしたいと思うのですが、B社もかなり値段に関しては厳しいですからね…今回のご要請には何かご事情がおありなんでしょうか?」

購買担当者A「正直なところここだけの話だが業績見通しが芳しく無い中でコストダウンが役員から話が来ているんだよ。このままじゃ競合のD社に見積もりを取らないといけなくなるかもしれないんだが。」

専門商社担当C「Aさんのお立場も苦しいとお察し致します。D社に関してですが実はうちの掴んでいる情報では近々大規模な値上げに踏み切るそうなんですよ」

購買担当者A「値上げ?本当か。それならA社も値上げしてくる可能性があるのか?」

専門商社担当C「A社に関しては今の所そういう気配はなさそうですが、彼らも懐事情が苦しい中でユーザーの事を考えているようですね。A社さんにも御社のご意向は耳に入れておきます。ところで、コストダウンをするのであればウチで取り扱っているこんな商品がありまして、今のA社の部品とは違うものになりますが、よろしければお時間をいただけませんか?」

購買担当者A「色々情報を頂けて助かった。その提案はぜひ聞かせてほしい。」

 この商社の担当者はユーザーから相談のあった値下げについてメーカーや競合の情報を踏まえ、仕入れ先と自社の利益を守りつつ、新しい商売のチャンスを広げる方向に展開する事ができている。こうしたやり取りは一例だが、こうした機能発揮はお客様からも仕入先からも非常に重宝されるだろう。

まとめ

 今回は専門商社社員の1日を解説した。
・仕入先と販売先の間に立つ仕事が多い。
・単なるメッセンジャーやモノを右から左に売るのではなく、付加価値をつける事が重要。

Twitterアカウント:@minami10g
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