mina

小話、詩、短歌 言葉に関するあれこれ

mina

小話、詩、短歌 言葉に関するあれこれ

最近の記事

【詩】波

決して口にはしないけど 思い合ってる二人とか 幼いころから心に秘めたまま ついに叶わなかった夢とか 形になることはなく でも消えることのない そんな つめたい炎みたいに ゆらゆらと揺れる熱がある 照りつける夏の暑さが ぼやけた思い出に輪郭を縁取った もう会えない それも愛だねと ある人は歌った

    • 【エッセイ】騙されたと思って食べてみて

      実家に帰ると、母が料理をしてくれる。食卓いっぱいに並んだ料理を食べながら、つい話に夢中になっていると話を遮って母が言う。 「ねぇこれ食べてみて」 うん、わかっている。次に食べようと思っていた。こっちはこっちのペースで食べるつもりだから、せかさないでほしい。「わかった、わかった」と言いながら母の勧めるおかずに箸をつけ、再びくだらない話を始めたりテレビに夢中になったりしながら、ゆるゆると食事が進む。しかし母は家族の箸の進み具合が気になっているようで、こちらとしてはその気配が若干プ

      • 【エッセイ】パセリの森と咲かないバラ

        これは我が家の地味な畑観察日記である。 昨年の秋に引っ越しをした。新しい家は築50年の昭和感が漂う平屋。交通の便は悪いが、縁側と庭があるところが気に入って急いで契約を決めた。憧れの平屋にやっと住める。 怠惰で雑な性格の反動からか、丁寧な暮らしなるものに仄かな憧れを抱いていた私は新居の庭にささやかな畑をつくった。秋にせっせと土を耕し、ホームセンターで野菜やハーブの苗を買って、心ときめかせながら植えた。しかし冬がきて、早速飽きてしまった。 パセリはすぐに枯れ、バジルも萎びてしま

        • 【エッセイ】すべての恋は失恋である

          恋というものが、わからなかった。小学校の時も中学校の時も、クラスの友達が好きな人の話で盛り上がっている時、私はその輪に入ることが出来なかった。恋バナ、そして恋愛ドラマに恋愛ソング。この世は恋や愛で溢れている。そのすべてが遠い国の御伽話のようで、自分だけが世界の大きな秘密を知ることができないような、言いようのない孤独感に苛まれた。 みんなどうやって人を好きになっているんだろう。顔がかっこいいとか、スポーツができるとか?そもそも恋に落ちると言うくらいだから、誰かを好きになることに

        【詩】波

          【詩】犬三部作

          〈声〉 それはたしかに 耳に刻まれたはずの記憶 なんどもなんども 私を呼ぶ声 少しずつ遠ざかってゆく うるさかったその声を どうしても失いたくない 〈命〉 ほんとはずっと一緒にいたかったけれど 命の灯火が消えかけていたとき もういっていいよと まだぬくもりの残る小さな背中を 撫でるしかなかった 生きるとは 死と向き合うこと その連続なのだろうか 私の心に空洞を残して きみは行ってしまった かわいいままの姿で 〈虹〉 きみが向かう先は どこまでも広がる緩やかな丘 た

          【詩】犬三部作

          【詩】五月

          澄み渡る青がまぶたに刺さる 爽やかな風が頬をなで 孤独をくっきり縁取った こんなに晴れた五月 さみしい悲しい苦しい 鉛に繋がれた体を捨てて あの道を吹き抜けたい 五月がわたしを苦しめるのは 心が新鮮さを失ったから 愛を求める前に わたしが愛さないといけない

          【詩】五月

          【エッセイ】ブラッシュアップライフに見る、女友達という救い

          ブラッシュアップライフを今更観た。観終わるや否や私は居ても立っても居られなくなり、中高時代の友人に連絡し、「何度生まれ変わってもみんなと高校生活を送りたい」と重めのラインを送った。 私が通っていたのは中高一貫の女子校だった。世の中には色んな女子校の形があると思うから一括りにして語る気はないが、あくまで私が経験した女子校というものは、くだらなさを煮詰めたような空間だった。もちろん多感な時期だから男子に興味があったり、彼氏と制服デートしたいなぁと妄想してみたりするのだが、一部の

          【エッセイ】ブラッシュアップライフに見る、女友達という救い

          【エッセイ】母の日のババロア

          私の父は料理をしない。父は亭主関白とは程遠いタイプだが、とにかく日常生活に支障をきたすほど絶望的に手先が不器用なのだ。少し手伝ってもらおうと台所に立ってもらっても、あまりの要領の悪さに見てる方が苛立ってしまい、「もういいから向こう行ってて」と自分から呼んでおいて即退場させてしまうのがオチである。 皿を運ぶだけでプルプルと手を震わせ、米を研ぐときは肩がガチガチに上がって米粒や水を周囲に飛ばし、包丁なんか握ろうもんなら人参一本切るのに何時間かかるかわかったもんじゃない。本人は幼

          【エッセイ】母の日のババロア

          【詩】極彩

          カラオケにいこう ラブホテルにいこう ドンキホーテにいこう 色の迷路に呑み込まれ 欲しいものがあるような なんにも欲しくないような すべてを吐き出したいような はいるだけ入れたいような 少しの夢をみたあとに 出るときはいつだって孤独 ウソをついてたわけではないのに。

          【詩】極彩

          【エッセイ】色気を自在に操る子

          色気とは何ぞやと聞かれても漠然とした概念としか言いようがないのだが、人生で忘れられないほど色っぽいと感じた女の子が一人いた。 往々にして女同士の場合、色気は距離が遠い人にしか感じない。初対面で色っぽいと感じても、親しくなっていくうちに別の要素で肉付けされるせいか、どんどんその人の印象から色気というものが削がれていくのだ。 20代の頃、美術館の受付をやっていた時期があった。受付のメンバーは全体的に浮世離れした変わり者が多く、なかなか楽しい職場だった。 そこへ新しく入ってきたの

          【エッセイ】色気を自在に操る子

          【詩】再会

          たしかにふたりは 同じ夕焼けを見て 同じ曲に涙し 同じ先生に怒られたのだけど 散らばった写真の欠片は いびつな形で復元された 変わったねも変わらないね、も どちらも傷つくというのに コーヒーの最後の一口に 溶けきらなかった砂糖の塊 ザラリと広がる甘ったるさは 余計私を虚しくさせた

          【詩】再会

          【詩】ねこ

          ねこは液体 ねこは満月 ねこは静けさ そしておしゃべり ねこはぬくもり ねこはまどろみ ねこは優しく そして冷たい! ねこは王様 ねこは恋人 わたしの心を知っている 温かい背中を撫でる指先に ふたりだけの理解がある

          【詩】ねこ

          【詩】またね、バイバイ

          楽しかった日の別れ際 駅の改札で 道の分岐点で バイバイと手を振る またね、バイバイ そう言って君が背を向けて 歩き出すと それまでふたりで張っていた結界が パチンと切れたようで 重たい余韻だけが置き土産のように 手のひらに残る ともだちでも好きな人でも 別れ際はいつも 私のほうがさみしい

          【詩】またね、バイバイ

          【エッセイ】丁寧な暮らしと割れ窓理論

          インスタやYoutubeを開くと、人はこんなに丁寧な暮らしをしているのかと驚く。丁寧な暮らしをする人は大抵早起きだ。朝の光をちゃんと浴び、コーヒーを淹れて、身体に優しい彩り豊かな朝食を食べる。部屋も常に整っていて、センスのいい家具に囲まれている。 これがパフォーマンスではなく、リアルな日常の切り抜きだとしたら、間違いなく彼らは精神の勝者だと思う。日常を慈しむことこそ、人類の究極のゴールな気がするのだ。 一方私のモーニングルーティンはというと、まず昼夜逆転しているので基本的に

          【エッセイ】丁寧な暮らしと割れ窓理論

          【エッセイ】音楽と青春

          誰かと仲良くなると、その人が人生で初めて買ったCDを聞きたくなる。その質問をすると誰もが恥ずかしそうにモゴモゴとするのだが、その照れた表情に私の知らない幼い頃の面影が一瞬だけ蘇る気がして、なんとも愛おしい気持ちになるのだ。私が初めて買ったCDは安室奈美恵のSweet 19 Bluesだった。ミニスカートからすらっと伸びた脚だけが写された、シックなジャケット。 それは小学生の私にとって「お姉さんになるための切符」だった。ティファニーブルーに縁取られたセピア色のアルバムを、宝物の

          【エッセイ】音楽と青春

          【エッセイ】39

          Twitterでなんとなくタイムラインに流れてきた人を、好きになってしまった。 きっかけは忘れたが、なんてことない彼女の呟きが引っかかってなんとなくフォローした。アイコンが峰不二子の正体不明な女。有名人というわけでもないのに、やたらフォロワーが多かった。というのも、彼女の言葉には不思議な力があった。Twitterの制限された文字数も、彼女の言葉と相性がよかった。自由で奔放で、少し毒のあるいい女。ギャルでありながら、三島由紀夫を読んだりもする。彼女の呟きに説教臭さはなく、ただ日

          【エッセイ】39