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【詩】犬三部作


〈声〉

それはたしかに
耳に刻まれたはずの記憶
なんどもなんども
私を呼ぶ声
少しずつ遠ざかってゆく
うるさかったその声を
どうしても失いたくない




〈命〉

ほんとはずっと一緒にいたかったけれど
命の灯火が消えかけていたとき
もういっていいよと
まだぬくもりの残る小さな背中を
撫でるしかなかった

生きるとは
死と向き合うこと
その連続なのだろうか
私の心に空洞を残して
きみは行ってしまった
かわいいままの姿で




〈虹〉

きみが向かう先は
どこまでも広がる緩やかな丘
たくさん走っても
足に優しい柔らかい草
雨上がりの土の匂いと
三月の透き通った光

おいしい春風が
小さな体を撫でてくれる
わたしの手のひらの代わりに

もう誰かを待たなくていい
お留守番のない世界で
寂しさのない世界で
たくさん遊んで
たくさん走って
またいつか
その時は同じ言語をもって
並んで散歩をしようね



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