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奥多摩リトリート

よしリトリートしに行くぞ、と出発したわけではないのだが、歩いている時に「これってもしかして、リトリートというやつになるのでは?」と気づいた奥多摩一泊二日ソロキャンプの記録。


9月半ば過ぎ、Yahoo!天気アプリがしきりと「〇〇に雨雲が近づいています」と通知をよこす午後に私は中央線に揺られていた。〇〇にどれだけ雨が降っても関係ない。私は居住地を離れて奥多摩へ向かっているのだから。

二日間の平日休み。先月の立山ですっかりテント泊にハマってしまったが、諸事情で電波の届くところにいなくてはいけない。というわけで山に登ることは難しく、それじゃもうあそこしかないね、ということで奥多摩の氷川キャンプ場へ行くことにした。
今回はひたすらのんびりすることと、ファスティングをやってみることが目的だった。ファスティング経験のある同僚は「忙しい方が気がまぎれるから、仕事がある日の方がやりやすい」と言うのだが、ストレスを食で解消するタイプの私は仕事の日にファスティングなんて考えられない。情報や誘惑を遮断し、何か食べたいと思ってもすぐ手に入らない場所でないと無理だと思った。
氷川キャンプ場なら、テント泊をしたい!という気持ちと、ファスティングに臨む条件(近くにコンビニや飲食店がない)、のんびりできる環境(川沿いの平地、日帰り温泉徒歩10分以内)の全てを満たしてくれる。焚火もしないし肉も焼かないしお酒も飲まない、なんともシンプルで健全なキャンプのスタートだ。

準備として朝食はヨーグルトと蜂蜜のみにしてみた。そして、昼食からファスティングを試してみる。豆乳と甘酒とプロテインを混ぜて飲む、という流派を真似することにした。高価な酵素ドリンクを買わなくて済む。これが意外とおなかにたまり、物足りなさはない。これなら乗り切れるかもしれない、と感じた。

キャンプ場についたら汗をかきながらテントを設営し、ほてった体を川に足をつけて冷ました。川の水は盛夏でも冷たい。ましてこの時期、ほんの数分でキンキンに冷えてきてしまった。テントに戻り、折り畳みチェアに座って本を読む。温冷交代浴と同じで、冷えた足先にぽかぽかと血が巡ってきて心地良い。それなりに空腹感はあるが、「食べなきゃおさまらない!」という飢餓感はない。やっぱりいつものあれは、脳が食べたがっていただけなんだな・・・と理解した。

17時頃から雨がぱらつき19時頃に止むという予報だったので、それに合わせて温泉に行こうと考えた。その途中で気になるお店を見つけてしまった。
「奥多摩清流中華そば」
奥多摩駅近辺には何回も来ているが、こんなお店があった記憶はない。どうやら、福生にあったお店が今夏に移転してきたらしい。移転前のレビューも悪くない。ラーメン好きとしては気になるところだ。しかしここでこのお店に吸い込まれてしまっては、「ファスティングどこ行った」という話になってしまう。とりあえず温泉に行って考えよう。

日帰り温泉「もえぎの湯」はこんな平日にも意外と人がいた。それでも登山者で混雑する週末とは異なり、ゆっくりと露天風呂につかることができた。ストレッチしながら体をほぐし、温まってきたらいったん出てひざ下に水をかける。この繰り返しが一番、疲れが取れる。

温泉を堪能し、爽快感とともに退館すると雨上がりの涼しい風がほほに当たる。心地良い空腹感、体が軽い。これから何をしようと自由だ。旅行のようにやることや目的地があるわけでもない。のんびりと本を読んで自分ひとりで考えを巡らせ、心を休ませる時間。何時に寝ても何時に起きてもいい。温泉で体を休め、ファスティングで胃腸をいたわる。自然の中で、自分にいいことしかしていない。これはリトリートというものでは?と、この時ひらめいた。

リトリート【retreat】 の解説
1 退却。撤退。後退。
2 隠居。避難。また、隠居所。隠れ家。避難所。仕事や家庭などの日常生活を離れ、自分だけの時間や人間関係に浸る場所などを指す。

デジタル大辞泉より

「3R」は昔から知っていた。リサイクルの方の3Rではなく、メンタルヘルス上の言葉だ。
Rest
Recreation/Refresh
Relax
この頭文字をとって「3R」という。しかし、日常生活の中で、自分の家でこの3Rを実行するのは意外と難しい。一人暮らしや自室のある人ならいいのかもしれないが、集合住宅で家族を気にかけながら生活している身としては、家は安らぎの場ではなくもう一つの職場なのだ。

その点で4つ目のRであるRetreatは、日常を離れることが大前提になる。日常を物理的に離れるという点では旅行も同じだが、旅行には目的があり、目的に沿った予定が組まれる。どの程度アクティブに動くか、ということはその目的や予定しだいにはなるとはいえ、基本的に外的な刺激を求めるのが旅行だ。一方、リトリートにはToDoがない。強いて言うなら「本来の自分に戻る時間を作る」がToDoといえないこともないが、「何かのために動く」ものではない、というのが私の理解だ。ベクトルを内に向け、外ではなく自分を見ていく。今回のソロキャンプは、まさにリトリートだった。

夜はソーラーランタンの明かりで本を読んだり体をほぐして過ごし、眠気の限界が来たら寝る。翌朝は当然のように二度寝してのそのそとテントから這い出す。早いグループはもう朝ごはんを食べ終えた雰囲気だ。隣のソロおじさんは優雅にコーヒーを飲んでいる。反対隣のソロおじさんはまだ寝ているらしい。その先にいるソロおじさんは撤収準備にかかっている。
誰からも急かされず、誰かのために何かをしなくてもいい。自由でくつろいだ時間が流れていた。
朝も、昨日のお昼と同じように豆乳と甘酒とプロテインを混ぜて飲む。常温保存だが特に問題ない。氷川キャンプ場は洗い場があるから、シェーカーの処理には困らなかった。
テントの中に敷いてあったマットを外に出し、ダウンロードしておいた瞑想の音声を流して瞑想のまねごとをしてみたり、ストレッチをしたり、ただボーっとしたりしているうちにチェックアウトの時間が近づいてきた。

正味24時間にも満たない滞在だったが、好きなだけのんびりしたし、ファスティングも手ごたえを感じた。温泉もよかった。明日からまた頑張れそうな気がする・・・と軽い足取りで氷川キャンプ場を後にした。奥多摩リトリート、ぜひまたやりたい。真夏と真冬以外で。

ちなみに気になっていたラーメン屋さんは、温泉の後に立ち寄ってしまった。ファスティングどこ行った。(ハーフサイズにはしました)




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