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妄想レビュー返答

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こちらは、企画「妄想レビューから記事」の返答をまとめたマガジンになります。 企画概要はこちら。 https://note.com/mimuco/n/n94c8c354c9c4
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#短編小説

小説|埋められた芸術

 荒れ地を見て年老いた芸術家は嘆きます。この町で描いた花畑の絵により芸術家の名は世に知れ渡りました。だからこそ再び訪れた町の花々が枯れていたことを芸術家は悲しみます。進む町の開発に花は散ったのでした。  力なく歩いていると芸術家は少女と出会います。少女はかつて花畑だった荒野へ向かい絵を描いていました。空想上の花畑の絵。芸術家に憧れ少女は画家を志していました。芸術家は心に決めます。余生はこの町で過ごそう。  芸術家は命果てるまで少女に絵を教えます。芸術家が亡くなると世界中の

いつでも心は晴天で。【#才の祭】

「おひさまの下に出られないの」 夏なのに長袖の服。その手には、しっかりと日傘の柄が握られている。 彼女は、青空の下を歩くことができない。 彼女とは、偶然図書館で出会った。 僕の仕事は司書。予約していた本を取りに、そして読み終わった本を返しにくる彼女は、とても印象深かった。 夏でも、肌の露出が一切ない。 きっちりと肌を覆うかのように、黒色のロングワンピースにカーディガンを羽織り、あまり空調が効いているとは言えない図書館で、静かにハンドタオルで汗を拭っていた。 その

【新】連載小説「天の川を探して」(1)冒険の始まり(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品#妄想レビュー返答)

 私が小学五年生の時、父と母と私の三人家族でY県の山奥にある村に引越しした。  コンビニでお菓子を買うことも、休みの日に映画に行くこともできない、田んぼと山ばかりの村だったけれど、新しい小学校は小学二年生から六年生までの八人の生徒だけで、転入生の私を優しく受け入れてくれたから、私はすぐにそこでの暮らしもそんなに嫌ではなくなった。  特に、同い年のカズキくんとチハヤちゃんとは仲良しで、カズキくんのふたつ年下の妹・ミヤちゃんを加えた私たち四人は、学校が終わればいつも一緒に遊ん

連載小説「天の川を探して」(3)子どもたちの秘密(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

「でも、狸(たぬき)川って大きいんでしょ? どうやって渡るの? どこかに橋でもあるの?」  チハヤやカズキがいくら楽観的とは言え、橋がなければ小学生だけで狸川を渡ることなど不可能に思えた。 「橋はあかんな。ずーーっと川下らなあかん。でも、大丈夫や。カズキがおるから」 「せや! 兄ちゃんの出番や!」 「お前らが威張んなや!」  私が「何のこと?」と不思議な顔をしていると、カズキがポンと肩をたたいた。 「アンちゃん、安心し。うちは『亀』の家やからな」  カズキはそう言うと、野

連載小説「天の川を探して」(4)亀宮神社(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

 チハヤの口笛で鳥たちが光の道を作る。この光は、「彦星様人形」のいる「きのみや神社」に続いているらしい。  私はポケットにしまった人形を優しく触りながら、「きっと、あなたは『織姫様』なのよね。チハヤちゃんたちが言うんだもん、間違いない。もうすぐ、『彦星様』に会えるからね」と心の中で話しかけた。人形はうんともすんとも言わないけれど、喜んでいるような気がした。  暫く山の中を進むと、突然ぽっかりと空が開けた。もう夜になっているけれど、空は厚い雨雲に覆われたまま月さえ見えない。

連載小説「天の川を探して」(5)出逢いの橋(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

「三途の川」と聞いて、私はどきりとした。  子どもの私は「三途の川」が何か詳しくは知からなかったけれど、亡くなった人たちが渡る川だということをどこかで聞いていた。三人と一緒にいると不思議なことが起きてわくわくしていたけれど、そんなところへ連れて行かれるのだとしたら話は別だ。急に背筋に冷たいものが流れていく。  カズキが足を止めたのは、祠(ほこら)のすぐ近くにある山から流れる湧き水でできたような細く小さな川だった。狸川がゴーという音だとしたら、こちらはチョロチョロだ。ただの

連載小説「天の川を探して」(6)天の川(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

 すると突然、小川の「あっち側」の山の中から、冷たい突風が私たちを強く吹き付けた。 「わあ!」「きゃあ!」「うわあ!」  あまりの強い風に、私たちは全員、声を上げて一斉に尻もちをついてしまう。  突風は私たちを倒した後、木の葉や土埃を巻き込んで、勢いよく空に昇って行った。 「何や、今のは! 皆、大丈夫か?」  カズキは一番にミヤの手を取ってから、私たちの安全を確認した。ミヤは、尻もちをついたまま、ぽかーんと口を大きく開けている。私とチハヤは、地面に倒れたものの怪我はなく、「

連載小説「天の川を探して」(7・最終話)天を見上げて(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

 その時、ミヤが空に向かって大きく口を開けていることに、カズキが気が付いた。 「ミヤ、何やっとねんや。わけわからんもん、口に入れたらあかんで」  カズキが声を掛けると、ミヤは「らって、おいひいんよ。兄やんも食へてもえーよ」と、口を開けたままもごもご話した。 「──おいしい?」  不思議に思った私とカズキとチハヤは、降り続ける小さな「何か」をてのひらで受け止めようと、両手でコップの形を作る。  こつん、こつん、こつん。降り続ける小さな「何か」は、やがて五粒ほど私のてのひら

〔小説〕キセキ~at Cafe Yuko~・全文

※3回に分けた小説の全文掲載です※ ◇◆◇ 「まあ、お母さんに彼氏がいるのは、何となく知ってたけどさ」  いつもより早口で言いながら、幹子は隣にいる私と、テーブルの向かい側に座った、健太郎の顔を順番に見る。 「でも、よりによって、何で三沢先生なの」  そして、私ではなく、彼にその問いをぶつけた。  Cafe Yuko。窓の大きなこのカフェは、健太郎と私にとって、大切な居場所だ。山小屋をイメージしたウッディな内装と、壁にかかったピンクの花束の水彩画が、店内の空気をやわらかく