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連載小説「天の川を探して」(3)子どもたちの秘密(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

「でも、狸(たぬき)川って大きいんでしょ? どうやって渡るの? どこかに橋でもあるの?」
 チハヤやカズキがいくら楽観的とは言え、橋がなければ小学生だけで狸川を渡ることなど不可能に思えた。

「橋はあかんな。ずーーっと川下らなあかん。でも、大丈夫や。カズキがおるから」
「せや! 兄ちゃんの出番や!」
「お前らが威張んなや!」

 私が「何のこと?」と不思議な顔をしていると、カズキがポンと肩をたたいた。
「アンちゃん、安心し。うちは『亀』の家やからな」
 カズキはそう言うと、野花の葉を一枚つまみ取り、葉を口元に当てると草笛を吹いた。

『ぷぃぃーー、ぴぃ、ぷぃぃーー』

 すると、草笛の音と共に、暗い川の中で大量の何かがゆっくりとうごめく気配がした。そして、川の轟音はいつの間にか消え、辺りはとても静かになった。

「ほな、行くで!!」
 私の右手をミヤが、左手をカズキが握り、いきなり川に向かって走り出す。
「きゃあーー! 川にそのまま突っ込んだら死んじゃう! やめて!」
 私は思わず悲鳴を上げたが、ふたりは足を止めない。

「──もうだめだ!」

 そう思った瞬間、私の足は川の水ではなく、ごろごろとした石を踏みしめていた。

 大きな石が敷き詰められたような道。ゴム製の長靴を履いた足裏には、固い石の角が何度も当たっているのを感じた。足元は悪く、時々足が滑りそうになるけれど、カズキとミヤに手を引かれている間、一度も転ぶことはなかった。

              🌟🐢🌟

 みんなで一気に真っ直ぐ駆け抜けると、足元がごつごつとした石から、雨に濡れた柔らかい土と草の感触に変わった。そして、カズキが再び草笛を吹くと、私の背中側で、狸川は以前の通りゴーっという音を立てて大量の水を流し始めた。

「何とか無事に川を渡ったんだ……」
 そう思った途端に、私は安心して脚の力が抜け、座り込んでしまった。

 嘘みたいだ。あんなに大きな音を立てて流れていた川を渡ったなんて。しかも、水の中を進んだのではなく、突然干上がった川底を走っているようだった。

「びっくりしたぁ。カズキくんも、さっきのチハヤちゃんの時も不思議なことが起こるんだもん」
 気の抜けた声で私が言うと、ふたりは声を合わせて「あははは」と笑った。

「そう言えば、アンちゃんはまだ知らなんだねぇ。この村の子どもらは、何かの動物や生きものに守られてんのよ。しゃべることはできんねけど、困った時はこうやって合図すれば助けてくれる。うちは『鳥海』やから、『鳥』。カズキとミヤんとこは『亀谷』やから『亀』。今のは、カズキが川の亀たちに頼んで、川の水をせき止めてもらってたんよ」

「うへぇ、皆そんなことができるの? 信じられない」

「俺ら子どもには普通やけどな、大人になれば忘れてしまうんやて。そやから、大人は誰も教えてくれへん。中学生の兄ちゃん・姉ちゃんが小学三年になった子どもに教えてくれるんよ。聞いた話やと、大昔にこの山で大きな火事があって、動物たちは生きる場所がなくて困ってもうた。そんな時に、この村の人たちが火を消して、木を植えて、時間をかけて元通りの山に戻したんやて。それを動物たちが感謝して、力を貸してくれるようになったらしいで。村人たちの苗字に動物たちの名前を付けて、その動物たちが代々の村人を守ると約束したんや」

「見てー、ミヤも小さい亀さん呼べるんよ」
「はあ」とか「うへぇ」とか、私がへんな溜息しか出せないで話を聞いていると、ミヤがてのひらの上に小さな赤ちゃん亀を乗せて、私に見せてくれた。
 すると、その小さな亀の首が私の方に伸びてきて、その瞳で私を見つめている気がした。

「亀さん、無事に川を渡らせてくれてありがとう」
 私が心を込めてお礼を言うと、小さな亀は首を曲げてお辞儀(じぎ)をし、ミヤの手から川の方へと帰っていった。

 なんだか今日は不思議なことばかり。最初は真っ暗な山中に怯えていたけれど、チハヤとカズキとミヤと夢のような出来事を体験し、私の心は浮き立っていった。

(つづく)

🌌つづきは、こちらから🌟

#妄想レビュー返答

※この小説は、こちらの「妄想レビューの返答」として書かせていただいた、ミムコさんの企画「妄想レビューから記事」の参加作品です🍀

 詳細は連載第1回を確認いただけましたら幸いです🌜


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