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連載小説「天の川を探して」(6)天の川(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)

 すると突然、小川の「あっち側」の山の中から、冷たい突風が私たちを強く吹き付けた。
「わあ!」「きゃあ!」「うわあ!」
 あまりの強い風に、私たちは全員、声を上げて一斉に尻もちをついてしまう。
 突風は私たちを倒した後、木の葉や土埃を巻き込んで、勢いよく空に昇って行った。

「何や、今のは! 皆、大丈夫か?」
 カズキは一番にミヤの手を取ってから、私たちの安全を確認した。ミヤは、尻もちをついたまま、ぽかーんと口を大きく開けている。私とチハヤは、地面に倒れたものの怪我はなく、「大丈夫」「問題ないで」とそれぞれ返事をした。けれど、私は腰が抜けてしまっていて、真っ先に立ち上がったチハヤの手を借り、やっとのことで二本足で立つことができた。

「あ! アンちゃん、あれ見て! 空!」
 チハヤの声で空を見上げると、突風が向かった先の雲が割れ、そこにはたくさんの星が瞬く夜空が現れた。

 見たこともない数の星々が、藍色の空を埋め尽くしている。今まで真っ暗だった空が嘘のみたいだ。小さな星がいくつも集まって、きらきらと輝く、とても大きな光の帯を空に泳がせたよう。まるで、星の……。

「天の川や」
 カズキがぽつりと言った。
 そう、まるで星の大河。それぞれのリズムでちらちらと光る星たちが、川面を流れる木の葉のように、ゆったりと空の大河を流れていく。白い星、青い星、黄色い星、赤い星。色とりどりの星々は、大河に集まり輝きを増すと、地上にいる私たちの瞳に光を落とした。

「『織姫さん』と『彦星さん』、会えたで! よかったなぁ!」
 カズキに手を握られたまま、天の川を指さしてミヤが喜びの声を上げる。

「うん、よかった。連れてきてくれて、本当にありがとう」
私は「織姫様人形」の代わりにお礼を言うと、急に涙がこぼれてきた。生まれて初めて見る天の川の美しさに感動したのかもしれないし、「織姫様」と「彦星様」をやっと会わせることができて、ほっとしたのかもしれない。

 けれど、この温かくて酸っぱいような気持ちは、カズキとチハヤとミヤと不思議な体験を共にして、皆と天の川を見られたことで、やっと私も「村の子」になれた気がしたのだと思う。カズキとチハヤとミヤを、以前よりもずっと近くに感じた。

 暫くの間、空を流れる天の川を見上げていると、額に「こつん」ととても小さな何かが当たった。最初は気のせいだと思っていたけれど、それはふたつ、みっつと連続して額や肩に当たり、カズキとチハヤは騒ぎ出した。

「なんや、こんな夏に雹(ひょう)でも降っとるんか!?」
「微妙に痛いわ。カズキ、あんたろくでもない願い事したんとちゃう?」
「そんなことしとらんわ。俺は『天の川を見せてください』てお願いしたし」
「私もおんなしや。『アンちゃんに、天の川見せたい』て心ん中でゆうたよ。じゃあ、何なんこれ?」

 カズキとチハヤは賑やかに喧嘩をし始めたけれど、ふたりの願い事の内容を聞いて、私は嬉しくて一層泣けてきた。ふたりを見て泣き笑いしていると、「まさか、アンちゃん?」とふたりが一斉に私を見た。

「いやいや、ちゃうよー!」
私が慌てて思い切り首を横に振ってそう言うと、ふたりは「そらそうか」と言って一緒に笑った。

(つづく)

🌟つづきは、こちらから。いよいよ最終回です🐢

#妄想レビュー返答

※この小説は、こちらの「妄想レビューの返答」として書かせていただいた、ミムコさんの企画「妄想レビューから記事」の参加作品です🍀


 詳細は連載第1回を確認いただけましたら幸いです🌜


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