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妄想レビュー返答

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こちらは、企画「妄想レビューから記事」の返答をまとめたマガジンになります。 企画概要はこちら。 https://note.com/mimuco/n/n94c8c354c9c4
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#妄想レビュー返答

蕾 ―花あかりの夢より―

中庭の真ん中に桜の木が立っている。 この桜を囲むように置かれたベンチは校内でも人気のスポットだが、明日に控えた卒業式の準備のため生徒のほとんどが下校させられたらしく、放課後になってしばらく経った今、普段は賑やかなこの場所も今日は静まり返っていた。 そんな中、美香が学校に残っていたのはリクエストしていた本が図書室に入荷されたと司書の先生が知らせてくれたからだ。 自宅まで我慢ができず、美香はベンチに腰掛けて借りたばかりの本を開く。 キリのいいところまで読み終えて立ち上がっ

咲き初め ―花あかりの夢より―

小さな緑地の隅に桜の木が1本立っている。 商業施設の一部として整備されたこの場所は繁華街とその最寄り駅の間にあり、この場所を通り抜けることでそれぞれへの距離を大幅に短縮できる。 そのため足早に通り過ぎてしまう人が多いが、買い物客の休憩場所としてか、都心には多くない緑を楽しめるようにという配慮か、決して広くはない敷地にいくつかベンチも設置されており、その一つはこの緑地の目玉として植えられた桜の木の下に置かれていた。 仕事帰りの佳織が置き去りにされた1冊の本を見つけたのもそ

【RPG の世界に迷い込んだけど何をすればいいか分からずとりあえず別れ道にボスっぽく立っているシカ】#妄想レビュー返答

申し訳ない。実に申し訳ない。 思考が追いつかない。 だって僕、こう見えてシカだよ?鹿。 こういうことが日常的に起きている人間じゃないんだよ? え?人間もRPGの世界に迷い込むなんてことはそんなにないの? だって、いつでもピコピコやってるじゃないか? 動物園に来ても、僕らの檻の前で、ベンチに腰掛けてピコピコしてるじゃない? わざわざ獣臭のするところでやらなくてもいいのに、って隣の檻のヘラジカがいつも言うんだ。 いや、ヘラジカの話はいい。 なんで僕はここにいるの? ほんと二本足で

【ソファーの下の浜辺】後編#妄想レビュー返答

■■■ の続き ■■■ 先生は弟が起きたら夕食にしようと言って部屋を出て行った。 僕はもう一度ソファーの下を覗きに行った。 海はさっきと変わらず遠くに見えた。 夕食はいつも僕と弟と先生の三人だった。 お祖父様が家にいるときはお祖父様も一緒だけど、滅多に家にいることはない。 一緒の夕食は楽しいけれど、いないことを寂しいと思うことはなかった。 三人の食事の時は、先生がいろいろ話を教えてくれる。 「星砂は砂じゃないんだよ」 先生が言う。 「あれは生き物。生き物の殻なんだ」

【ソファーの下の浜辺】前編#妄想レビュー返答

■■■ 弟の部屋のソファーのカバーが深い青色になったのは、僕の夏休みが始まる少し前だった。 僕はずっとお祖父様と、弟はお祖母様と暮らしていた。 お祖母様が亡くなって、弟がこの屋敷に来たのは去年の秋の終わり頃だった。 弟は僕よりも2歳年下だけど、とても小さくて、体もあまり丈夫じゃないようで、ここに来てから春になるまで、ほとんどベッドの上で過ごしていた。 暖かくなってようやく一緒に本を読んだりできるようになった。弟は笑うととても可愛いけれど、あまり口をきくことはなかった。 学校

【続・ソファーの下の浜辺】#妄想レビュー返答

■■■ 海が消えた部屋はなんだかとても味気なく思えた。 ソファーの下を覗いても、手を伸ばしても、もう海はそこにはいなかった。 僕と弟はいつかあの海を探しに行こうと約束した。 僕たちの部屋には、拾った貝殻も、救った白い砂も、転げて出てきたあのボトルもある。だからあの海は幻なんかじゃない。 ならばあの海はどこへ行ってしまったのだろう。 「おにいちゃん」 もうすっかり眠ってしまっていると思っていた弟がドアを開けた。 「どうした?眠れないのかい?」 その問いには答えず弟は言った

【王来る】#妄想レビュー返答

僕らはカタッポスと呼ばれている存在。カタッポスはもともと「ふたつでひとつ」だったものが、その片割れと逸れてしまったものたちだ。 片割れと逸れ、且つ、持ち主にも忘れられている。それがカタッポスとしてこの世界にやってくる。 もしも相方が持ち主の手元にあって、ある日、部屋の隅--ソファの後ろや、引き出しの奥--にいるのを見つけて貰えると、カタッポスの世界から元いた世界に引き戻される。たまに忘れられたまま、相方が「片っぽだけになっちゃった」といって捨てられる時がある。相方もそれで生涯

【洲淡麗博士の研究記録】#妄想レビュー返答

■■■ はじめまして。我々は洲淡麗貞治研究会。我々の研究、いや我々が現在引き継いでいる研究を多くの皆さんに知ってもらうべく、この配信チャンネルを開設致した。 洲淡麗貞治博士は元はジョージ・スタンリーという日本に帰化したイギリス人生物博士である。 帰化する際スタンリーを「すたんれい」読みにしたのは「りい」という漢字で好みの文字がなかったからと聞く。そしてジョージを貞治にしたのは、偉大なるホームラン王から戴いたとのことだった。 「イギリスは野球が盛んではなかったのでは?」 「

【日野和日之丸最後の作品】#妄想レビュー返答

■■■ 「まぁ、通常はこの立札を見て我々が日野和日之丸の最高傑作を妄想して終わりとなるだろう?でも、相手は日野和日之丸だ。掘り出せない何かを埋めている、と俺は睨んだ」 アート評論家の宿儺彦千幸は言う。 そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。 「あの日野和日之丸だぜ?月の裏側に月読の神殿を誰にも気付かれないうちに作るくらいのこともしていた日野和日之丸だ。とんでもないものを作って埋めている。絶対」 宿儺彦は日野和日之丸の甥だという話だ。 「日野和さんは叔父さんでしたっけ?

恋の小夜曲 −楽曲化− ミムコさん企画 【作詞cofumi✖️作曲Atsushi 】

楽曲化されました! ✴︎✴︎✴︎ 夏のざわめきは遠くに 星の囁きが聞こえる 窓辺の写真は色褪せて 恋しくて 会いたくて 今でも忘れられなくて あの時の恋は終わってはいない 淋しさに触れた瞬間 あなたの言葉が回り続ける 伝えたい想い 胸に抱えていたこと 今 気づいたの 涙はもう流さない 明日の予定を埋める 最後の着信はあなたの番号 抱きしめた未来は 幻しだったと気づいても あの時の恋は終わってはいない 淋しさに触れた瞬間 吐息を重ねた夜が恋しい 伝えたい想い 胸に

花が咲くように恋をした ー作詞− [作曲可]

1. 夕立が二人を近づける 雨宿りのキス 濡れないように 抱き寄せられて ギュッとあなたの シャツを握った 思い出のあなたは いつも笑っている 戻らないmemory 花が咲くように恋をした 精一杯私らしく 一粒の恋が終わっただけ もう一度咲かせようFlower 2. 映画を見ながらポップコーン 同じタイミング 触れた手止まり 視線感じた キスの場面で 重なる二人 恋はシネマ エンドロールに あなたの名前はない 花が咲くように恋をした 裸の心のまま 一粒の恋が終わった

本の海のYとZ

町立図書館の最奥、少し古びた本の香りがする本棚の間が私のお気に入りの居場所だった。 小さな窓から差し込む陽の光は舞う小さな埃をきらきらと光らせ、並んだ本が人の気配をかき消して、けれども静けさの中に聴こえてくる誰かが紙を捲る微かな音は孤独を感じさせず、眼前に開いた本は私をここではないどこかへ誘ってくれる。 陽に温められた床に座り込んで文字の先に広がる物語を見つめていた視界の端に一瞬影が差し、この心地いい静けさを壊さぬよう服が擦れる音にすら気を遣った気配が、深く沈み込んでいた私の

小説|埋められた芸術

 荒れ地を見て年老いた芸術家は嘆きます。この町で描いた花畑の絵により芸術家の名は世に知れ渡りました。だからこそ再び訪れた町の花々が枯れていたことを芸術家は悲しみます。進む町の開発に花は散ったのでした。  力なく歩いていると芸術家は少女と出会います。少女はかつて花畑だった荒野へ向かい絵を描いていました。空想上の花畑の絵。芸術家に憧れ少女は画家を志していました。芸術家は心に決めます。余生はこの町で過ごそう。  芸術家は命果てるまで少女に絵を教えます。芸術家が亡くなると世界中の

ミムコさんの妄想レビューのお返事

今日のミムコさんの妄想レビュー。 とても素敵なレビューでした。 妄想レビューを書くことはまだもう少し、想像が追いつかないので 妄想レビューのお返事にチャレンジしてみました。 ⬛︎ミムコの妄想レビュー 「私......目を閉じて、深海にいる想像をすると落ち着くんだ」そっと打ち明けた少女。 「わかるよ。図書館のYとZの間でしょ。あのシンとした感じ、僕も落ち着く」そう答えた少年。 本の海のその奥底で、静かにはじまる小さな恋。 優しく撫でたくなるような、そんなお話でした。 ■