【読書】凸凹親子の同居生活
皆さんの家族は、どんな家族ですか。
私の家族は皆結構寂しがりやで、定期的に実家に集まっては
ご飯を食べたり、どこかへ遊びに行ったりします。
ただ、友人の話を聞くと、それほど家族とは会わず、
それぞれがそれぞれで日常を過ごしているという人も多いです。
当たり前ですが、家族によってその形は違うんだなと感じる日々です。
今回は、一味も二味も違う、
ちょっと風変わりな家族の形をテーマにした作品をご紹介します。
瀬尾まいこ『傑作はまだ』(文春文庫)
加賀野は、そこそこ売れている小説家ですが、
自分の書く暗い作風に少し嫌気が差していました。
そんなある日、一度も会ったことのない25歳の息子・永原智が
加賀野を訪ねてくるのです。
毎月養育費を払い続けていた加賀野ですが、いつも息子の様子は
写真でしか知りえませんでした。
こうして、社交的で要領のよい智と、人付き合いの下手な陰キャラ・
加賀野の凸凹同居生活がスタートします。
ここからがこの作品の特に面白いところです。
私は、智が甲斐甲斐しく加賀野の世話をするシーンが好きです。
加賀野は、自分の息子にどう接してよいかわからず、
全て智のペースに引っ張られていきます。
美味しいコーヒーの淹れ方を教えてもらったり、
ご近所さんとのコミュニケーションのきっかけをもらたり、
町内会のイベントに参加したりなど・・・。
毎回「仕方ないなぁ」と呆れる智に、ごにょごにょと言い訳を挟みつつも
加賀野はその環境に順応していきます。
その様子を見ていると、加賀野の根は素直な人なのだと感じました。
人は、いくつになっても少しずつ変われるんですね。
不器用で人とのコミュニケーションが苦手だった加賀野が、
戸惑いながらも息子や近所の住人たちと対話するように。
そして、その変化とともに加賀野の作品も変わっていくように、
人と接することで得られる情報や心境は、
独りでは決して得られないものだと実感しました。
最後に、なぜこのタイミングで智が突然加賀野を訪ねて
やってきたのかーー。
その理由が分かった時、「こういう家族の繋がりというのもあるんだな」
と、温かい気持ちに満たされました。
瀬尾まいこさんの作品は、ハートフルな家族のお話が多いです。
毎回どんな家族が出てくるのかワクワクするのですが、
今回の凸凹親子のやり取りは、
軽快で思わずくすっと笑ってしまうものでした。
凸凹が(完璧とは言えないものの)それなりにうまく嚙み合った時、
加賀野も、そしてきっと智もまた心を少し温かいもので
満たせたのではないでしょうか。
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