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【読書】その優しさを行動に

今までに、こんな経験をしたことはありませんか。
電車で席に座っている時に、高齢の方が乗ってきて、
席を譲ってあげなくてはと思いつつ、断られたらどうしよう等と考えて
結局声をかけられなかったという経験を。
お恥ずかしい話ですが、私は経験したことがあります。

もし私のように、なぜか人に気遣いの声をかけることを躊躇してしまう人が
いらっしゃったら、ぜひこの本を読んでいただきたいです。
きっと、前よりもためらわず人に優しく声をかけられるように
なるでしょう。


瀬尾まいこ『掬えば手には』(講談社)

主人公の梨木匠は、自称「普通の」大学生。
勉強もスポーツも平均くらいの成績で、芸術家一家で育った彼は、
そんな平凡な自分がコンプレックスでした。
そんな梨木にも、唯一自信を持てていたことがあります。
それは「人の心を読める」能力がある、ということ――。

不登校の同級生の登校初日、授業中腹痛に苦しむ同級生――。
梨木は彼らの気持ちを汲み取り、気の利いた言葉や行動をすぐに考えて
辛い場から彼らを救い出してきました。
そして大学生になってからも、梨木はその能力を発揮します。

その一方で、アルバイト先のオムライス店に新しく入った
常盤冬香の心だけはなぜか読めず、どう接してよいか悩みます。
常盤は看護学校に通う女子学生で、常に無表情、無駄な会話はせず、
梨木が話しかけても、いつもそっけない返事しか返しません。
オムライス店の店長である大竹は、口が悪く威張り散らしているような
男で、梨木はそんな店長をも巻き込んで、常盤がなぜいつもそっけなく、
笑顔がないのかの理由を探っていきます。

常盤が何度心にシャッターを下ろして踏み込ませないように
会話を止めても、めげずに話しかける梨木。
やがて梨木の耳に、はっきりと、常盤ではない別の声が
聞こえるようになるのですが、その声の正体は――。

梨木の本当の能力は、単に「人の心が読めること」ではなく、
「相手を助けるために行動できること」でした。
しかも、決して何か見返りを求めてやっているのではなく、
困っている人を見つけたら行動せずにはいられず、
つい助けてしまうというところが、梨木の真の良さだと感じました。

まずは目の前の人が困っていそうだと気づいた瞬間、声をかける。
その行動一つで、梨木は自分を支えてくれる友人を得たり、
店長の大竹をほんの少し正直者にしたり、
常盤を前向きな気持ちにさせてきました。
それらを思えば、たとえ自分の気遣いを断られたりしたとしても、
それは大したことではないと思えます。
もし自分の気遣いで、相手が少しでも「助かった」と思ってくれたり、
温かい気持ちになってくれたりするなら、
その行動は、世界をちょっとだけ優しいものにできたことになるでしょう。
もしかすると、今度はその相手が、誰かが困っている時に
声をかけてくれるかもしれません。
世の中に少しでもよい影響が与えられる可能性があるなら、
お節介と思えるような手助けも進んでやっていくべきです。
人を気遣い、行動を起こすことのハードルを、
ぐっと下げてくれる一冊です。

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