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メディアが政治を「ブランディング」する:党派的報道と米保守派の台頭【NYUイベントレポート】

米国の右派ポピュリズム運動と保守派メディアは、トランプ大統領が誕生した2016年米大統領選にどのような影響を及ぼしたのか?

2020年の選挙に向けて米国内で議論が盛り上がる中、米メディアと保守派の台頭がテーマのトークイベントが10月17日にニューヨーク大学(NYU)で開かれました。中間レポートと試験の真っ只中...ですが、所属しているメディア・コミュニケーション学部の主催ということもあり、参加してきました。

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ゲストスピーカーは、"The Branding of Right-Wing Activism: The News Media and the Tea Party"(右派アクティビズムのブランディング:ニュースメディアとティーパーティー)著者のKhadijah Whiteさん(ラトガーズ大学)と、"Fox Populism: Branding Conservatism as Working Class"(フォックス・ポピュリズム:労働者階級としての保守派ブランディング)著者のReece Peckさん (CUNYカレッジ・オブ・スタテンアイランド)。お二人の著書タイトルにもあるように、米メディアがどのように保守派運動や政党の「ブランディング」を加速させたか、というテーマを中心に議論が行われました。

ジャーナリズムの質低下と保守派の台頭

まずは、オバマ大統領が就任した2009年からトランプ大統領の就任までに、政治とジャーナリズムの領域でどんな動きがあったのかに焦点を当てたWhiteさんのプレゼンから始まりました。

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米メディアは、米国初の黒人大統領であるオバマ氏を「米国における進歩の象徴」「新たな時代の幕開け」と位置付けて盛んに報道しました。一方で、2010年ごろから、オバマ政権に反対する保守派の市民運動ティーパーティー(Tea Party)が勢いを増し、メディアでも毎日のように取り上げられるようになります。Whiteさんは、保守メディアに限らず、あらゆる報道機関がティーパーティーの"宣伝"を行い「ブランディング」を手伝う形になったことが、保守派の台頭につながっていったと指摘しました。

・参考:「ティーパーティー」とは何者か

「ティーパーティーについて報道すれば、視聴率が得られる。(頻繁な報道で)ティーパーティーのナラティブ(物語)を形成し、後押しすることで、ブランドを作り上げたと言えます。それによって、メディアも自分自身のブランドを築き上げました」。背景には、報道機関における人員・リソースの減少、利益優先の報道、ジャーナリストの「活動家・批評家」化、特定の視聴者層をターゲットにした偏った報道...など「ジャーナリズムの質低下」があったといいます。

トークイベントでも紹介されましたが、ティーパーティー運動が盛り上がるきっかけは、米放送局CNBCのRick Santelli(リック・サンテリ)氏によるシカゴ・マーカンタイル取引所からのライブ・レポートだと言われています。

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         (YouTubeよりスクリーンショット)

Santelli氏は、2009年にオバマ政権が発表した、住宅ローン返済に窮する市民を支援する対策を痛烈に批判し「負け犬を救う政策が本当に支持されてるのか、インターネットで国民投票をしてみろ!」「すべての資本主義者はミシガン湖に集まれ、私がシカゴ・ティーパーティーを組織する」と叫び、周りにいたトレーダーたちからと拍手喝采を浴びました。サンテリ氏はこの放送を振り返って「キャリアにおいて、人生で最高の5分間だった」と語っています(その後の2010年中間選挙で、オバマ民主党は大敗。2016年のトランプ氏当選につながっていく)。

Whiteさんは、2020年の大統領選を踏まえ、「ジャーナリズムは、ますますビジネス優先になっています。ソーシャルメディアの時代であっても(新聞やテレビなどの)メインストリーム・メディアはアジェンダ設定において非常に重要。政治的ブランド形成におけるジャーナリズムの役割を考えることが大切」と指摘していました。

Foxニュースと「反エリート」ブランド

Peckさんの研究対象は、トランプ大統領を支持する報道で、米右派メディアの中でも保守派から高い支持を集めるFoxニュース。Peckさんは保守的な土地柄のユタ州出身で、家族や友人の多くがFoxファンだったことから、なぜここまで人気を得たのかに興味を持ったそう。800以上の放送スクリプトのコンテンツ分析を行い、ケーブルテレビのアーカイブで何時間もFoxニュースの放送を視聴したそうです(視聴しすぎたため、今は休憩中で全く観ていないとのこと)。

Foxニュースの核は「保守派の政治的思想」だと言われることがありますが、そうした説明は「適切な分析を妨げている」というPeckさん。Foxニュースが成功したのは、ジャーナリズムにタブロイド紙のスタイルを取り入れつつ、「共和党こそが(白人)労働者階級の居場所である」という「反エリート」ブランドを作り上げたことにあり、「共和党の主張を視聴者に届けるだけでなく、労働者階級に『自分たちこそが"オーセンティック"(本物)のワーキング・クラスなんだ』と信じさせるスタイルを設計した」からだと話しました。

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さらにこの背景には、前半でWhiteさんも指摘したような、ジャーナリズムのビジネス化があるといいます。ケーブルテレビのチャンネル数が増加する中で視聴者を増やすためには、同じような価値観を持つ熱狂的なファン層を構築しなければなりません。メディアは「ブロード(広い)キャスティング」から、ターゲットを絞った「ナロー(狭い)キャスティング」へと移行し、生き残るための戦略として党派性を強めます。これが、極端に党派的なFoxニュースのスタイルを後押しすることになります。

「ビジネス的な観点からすると、メディアにとって党派的(な報道)は解決策でした。ケーブル放送局がハードコアなファンを獲得するには、党派的な偏りを加速させることは必要不可欠だったと言えます」

最後にPeckさんは、会場のメディアやジャーナリズムを専攻している学生らに向けて「メディアの党派性について、みなさんにも考え直してみてほしい。政治的な左派ー右派という構図だけでは、党派的メディアが"スタイル"として党派性を構築しているのだという点を見逃してしまう」と話しました。

左派メディアの話はあまり出ませんでしたが、左派においても米民主党議員のエリザベス・ウォーレン氏やアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏などの人気の高まりを見ると、左派ポピュリズムの台頭もあるのではないか、という指摘は出ていました。

お二人の著書の日本語版は出ていないようですが......トークイベントの話は書籍でさらに詳しく読めると思います。









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