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体調とタイミング


高校生の時に風邪で学校を休んだ。

熱が出ているのだから寝ていればいいのだけれど、体がきつすぎると眠れないもので。
当時はまだスマホなんてものもなかったし、
テレビを見にリビングに行く元気もなかったし、
ラジオや音楽を聴くには
なんとなくしんどかったから、
読書をしようと思った。

あまり分厚い本は読みたくない。

ちょうど学校から借りてきていた文庫本2冊がほど良い薄さだったのでそれを読むことにした。

この2冊。
薄いし、
スラスラ読めた。
名作だと思う。

…しかし、だ。
熱を出して学校を休んでいる女子高校生が読むのには最も適さない本だったのではないかと、
読後に激しく後悔した。

その2冊がこちら。

遠藤周作

『わたしが・棄てた・女』

大学生の吉岡が二度目のデイトで体を奪ってゴミのように棄てたミツは、無知な田舎娘だった。その後、吉岡は社長令嬢との結婚を決め、孤独で貧乏な生活に耐えながら彼からの連絡を待ち続けるミツは冷酷な運命に弄ばれていく。たった一人の女の生き方が読む人すべてに本物の愛を問いかける遠藤文学の傑作。

amazonページ講談社文庫のあらすじより

あらすじを読んでもらえるとわかるのだが、
田舎娘が大学生に棄てられる話である。
私はこの頃、九州の田舎に住む無知な田舎娘だったので(今は九州の田舎に住む無知な田舎おばちゃんになった)
この小説に出てくる「ミツ」に感情移入しまくって…

天井を見上げたまま動けなくなった!

いや、あらすじに書いてある数行からだけでも伝わると思う。
ひどい!これはひどい!!
「無知な田舎娘だと2回目のデートで体を奪われてゴミのように棄てられるのか!!」
私は震えた。
今思えば熱のせいもあったと思う。
暑いのか寒いのかわからない。
おそろしいやら、悲しいやら、
なんともいえない気持ちになって震えた。

風邪をひいて学校を休んでいるところに、
読書をして震えているくらいなのだから、
そこでやめておけばよかったのだけど、

私は先に進んでしまった。

午前中の震えを引きずりながら、
午後。
もう一冊に手を出した。


◆ 深沢七郎

『楢山節考』

「お姥(んば)捨てるか裏山へ裏じゃ蟹でも這って来る」
雪の楢山へ欣然と死に赴く老母おりんを、孝行息子辰平は胸のはりさける思いで背板に乗せて捨てにゆく。残酷であってもそれは貧しい部落の掟なのだ――因習に閉ざされた棄老伝説を、近代的な小説にまで昇華させた「楢山節考」。

『楢山節考』amazonページの解説より

この本のタイトル『楢山節考』は
『ならやまぶしこう』と読む。
今調べてみると1957年が発行年らしいので、
70年近く前の作品だと、タイトルに聞き覚えがない人も多いと思うが、
「姨捨山(おばすてやま、うばすてやま)」
と言ったらわかる人もいるかもしれない。

そう。
山にお年寄りを捨てに行く話だ。
それも、息子が母親をおぶって山に捨てに行く。
雪山を一生懸命にのぼって。
それがその地域の掟(因習)だから。

……

……うん。

(午前中にも捨てられる話を読んだよね)って、
たしかに思った。
今回〈楢山節考〉は、
前回〈私が・棄てた・女〉に比べると、
若い田舎女子をポイ捨てしたのとはまた違う、
親を山に捨てに行く話だし、
本当にすてるのと、
待ってる女を待たせたままにしてるのと、
また意味が違うよね〜と、
「すてる」の意味の違いを探し出して、
自分を励まそうとしたけれど……
無駄だった。

今度は震えただけじゃなく、
吐き気をもよおした。

ベッドで仰向けになっても震えと吐き気が止まらず、
トイレに駆け込んだ。

結果、
更に高熱が出た。

学校を休んだのに、家で寝ているのに悪化する。
1番ダメなパターンである。

そもそも体調が悪かったのだからしかたない。
本を読んでも読まなくても悪化していたのかもしれない。
しかし、その時に思ったのが、

「読書は体調による」ということ。

体調だけじゃなくて、メンタルのことも。
同じ本を読むにしても、
体調の良い時、問題を抱えてない時に読んだらなんともないのに、
体調が悪い時、塞ぎ込んでいる時、ちょうどのタイミングに読んだら、
ドーンと落ち込むことがある。

多分、それにひっかかった。
体調の悪い時に
「棄てたり、捨てたり」する話を読んでしまった。

体調や心の具合によっても違うし、
年齢的なこともある。
同じ作品を16歳で読んでもなんてことなかったのに、
46歳で読んだら、
「しみる!わかる!名作!!」って、なったりする。

皆さんも、
読書は、体調、心の具合に気をつけて。

一度読んでイマイチだった本も今だったらいけるかもしれない。
若い頃に最高だと思った本が今だと格下げになる可能性だってある。

タイミング、があるのだ。

読書は
体調とタイミングを重視せよ!!
これは、わたしが17歳の頃に天井を見上げながら、考えたこと。

名作、駄作、関係ない。
読書の不思議。

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