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神戸と私〜そして音楽と食文化⑧最終章

ある大きな出会い。

私の人生において、それはいつも突然やってくる。
それは私自身が「食」のお仕事にも携わるきっかけとなった人との出会いでした。

音楽の道に進み、ずっとイタリアものばかり歌ってきた私。
手に取るものは自然とイタリアのもの。
母がオートクチュールのお店を経営していたので、お店には舶来(母の表現です)の生地ばかりで、中でも発色の良いのはイタリア製の生地。
私の着る服はほとんどが母に仕立ててもらったものばかり。
それもほぼイタリア製の生地のものでした。

食べることが大好きな私。ある時、神戸にあったイタリア菓子のお店に通うようになったのです。
料理はもちろんお菓子も自分の納得したものを食べたいという思いから、それまでお菓子は自分で作ることが多かったのですが、そのお店で本当に美味しいクロスタータ(焼きタルト)に出会ったのです。
そこからは自分で作る必要もなくなり、そのイタリア菓子店に時間があれば通い詰め、そして何だか自然と常連のようになり、出会ったのがそのお店でディレクションをしていた男性。

自然と会話を交わすうちに、お互いにイタリア好きと言うことで気が合ったのです。
彼は「文化の伝承」という事を大切にしていて、私がやってきたクラシック音楽にとても興味を持ってくれていました。

そして、ある日突然、そのお店が閉店する事になった時「独立するので一緒に何かやらないか」という事になったのです。

まず何ができるか?
閉店するお店で働いていたパティシエたちは彼がずっと大切にしてきたスタッフ。
突然の閉店で彼らの職が無くなってしまうのなら、私達でイタリア菓子店を開業しようと言う事になり、資金の段取りと物件探し。

どこで開業するか場所も大切。
阪神間で文化レベルの高い地域でという彼が選んだのは芦屋。
高級住宅街でもある芦屋で物件探しとなると簡単には見つかりません。
毎日のように芦屋の町を歩く事、3ヶ月半。
ようやく見つかったのは路地裏の小さな庭付きの一軒家。
そこからのスタートでした。

そして・・・
小さな店内にピアノを置く事に。
それは開業までの打ち合わせは私の自宅ですることが多く、ある日、あるテノールの先生のCDをかけていたら、他のスタッフよりひと足先に来た彼が流れている音楽を聴き「これ、何?鳥肌立った」と。
そして「こんないいもの、絶対に伝えないと」と言ってくれて、兄のところにあった古いアップライトピアノを置くことになったのです。

お店のオープニングではアコーディオン奏者の方にお願いしてカンツォーネの演奏でお客様をお迎え。
街角で流れるアコーディオンの音色は良い演出となりました。
しかし、直ぐにお店が軌道に乗ったわけではありません。
天候が悪いと売上も悪く、営業終了後「今からオープン?」というほどお菓子が余ったり苦労もありました。
オープンして3ヶ月後、なかなか売上が伸びないので週末にイベントをやろうという事になり、店内のピアノを使って生演奏をする事に。

最初はピアノだけの演奏でしたが、生の歌声でカンツォーネの演奏をしてみよう!と。

そこで私の出番です。
小さな店内で歌うのでホールで歌うような音量で歌えないのですが、絞って歌っても販売のスタッフにお客様の注文が聞こえないと言われる始末。
ただ、外まで歌声が聴こえていたので、そこは庭付きの一軒家のお店。
立ち止まって聴いてくださる方や少し庭先に入って聴き入ってくださる方も。
「まるでイタリアの街角みたい」と評判になり、カンツォーネの生演奏のあるケーキ屋さんとお店は順調に軌道に乗せることができました。

イタリア繋がりで出会った彼とは良き仕事のパートナー。
イタリア菓子とイタリアの音楽という文化の伝承という使命感を感じながら、いつも行動を共にしているうちに、ひょんなことから一生のパートナーになっていました。
私は彼と出会ったことで、音楽だけでなく食という文化も伝えるという役割を与えていただいた。今はそう思っています。ある日突然の出会いが私の運命を変えたのです。

そして、お店のオープンからの5年弱経ち、小さな一軒家のお店での製造には限界があり、建物の契約が切れるのにあわせて移転を決意。といってもまたまた物件探しからスタートです。
思うように移転先が見つからず諦めかけていた時、私たちのお店の為に建物を建てようと仰る方が現れたのです。
その方は芦屋に何か文化的なものを残したいという思いがおありでした。
そして、私たちが毎週末の小さな一軒家のイタリア菓子店でカンツォーネの生演奏をお届けしていたのをご存知で、是非と言ってくださったのです。
音楽が結びつけてくれたご縁でイタリア菓子店とミニコンサートができるようなレストランもできる物件に辿り着くことが出来たのです。

レストランでは関西で活躍されているプロの歌い手の方々にお願いし、「カルメン」や「蝶々夫人」などのオペラのショートカットバージョン、また映画「ゴッドファーザー」を絡ませた音楽イベントなど開催し、食と文化を楽しめる空間を作りました。

しかし、全てがうまく進んだとは言えない状況に。
人手不足などもあり、私自身もレストランの厨房で鍋をふり、ケーキ屋ではパティシエとしてお菓子も作り、お店の経営から企画など、休まず働いていたら、二人とも身体を壊してしまい、経営を譲渡する事にしました。
かなり勇気のいる決断でしたが、やはり健康で過ごすことが一番と考えたのです。
現在は二人でできる範囲でのお仕事を力あわせてしております。

大好きな音楽と食!
歌だけでなくお店で実際に厨房に立った経験は私にとって大きなものとなり現在に至ります。
これからも色々と発信出来るように、日々健康で楽しく過ごし、少しでも「音楽と食文化」について記録していきたいと思います。




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