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パートナーシップの話、逃げ恥もいいけど『結婚アフロ田中』どうですか?

昨年読みはじめ、すっかりだいすきになったマンガ『結婚アフロ田中』。青年向けマンガ雑誌『ビッグコミックスピリッツ』で連載中の作品で、「アフロ田中シリーズ」として主人公の田中広がただ生きるようすを描いています。主に男性向けで下ネタも多いんですけど、レビューを読むと女性人気も高いみたい。とにかくめちゃめちゃくだらない最高のギャグマンガです。

ちょっと逃げ恥の話させて

『逃げるは恥だが役に立つ』の新春スペシャル(2016年放送の連続ドラマの続編)を観ました。
連ドラ時代も、毎週録画して観てました。社会学スキスキ芸人の私としては、制度や差別、パートナーシップに関することなど、さまざまな社会問題をポップに扱うのが超いいなと思ったし、キャストも、繰り出される名言やパロディを多用した表現もすきで、フゥ~最高!て感じの作品です。

ただ、今回の新春スペシャルが…!スミマセン…一夜限りだからか…ちょっと問題提起を詰め込みすぎというか…スミマセン…言ってることは素敵なんだけど…私ちょっと…押しつけがましいかも…って思っちゃいまして……。みんなコレ物語として楽しめるの…コレ…?って、思っちゃいまして……。

いや~スミマセン、余計なこと言って…うるせえこっちは楽しんでんだよって方はホント無視してもらっていいんで!!そんな感じでお願いします!

逃げ恥のターゲットは、自立した女性

逃げ恥のコアターゲットって「大人の女性」だと思うんですよ。原作も女性向け雑誌『kiss』での連載ですしね。なので、みくりさんと同じ20〜30代の(特に大卒以上の、経済的に自立した)女性が共感しやすい内容、表現方法で作品が作られてるはずなんですよね。

しかし、ガッキーかわいすぎ&石田ゆり子さま美しすぎのおかげか、ドラマ化したらコアターゲットの域を軽く超えて老若男女幅広く観られ、さらに星野源さんの才能と相まって、恋ダンスが社会現象にまでなってしまいました。や〜ほんとすんげ〜ヒットだった!

なんでわかってくれないの問題

こうなると、カップルや夫婦、家族が一緒にこのドラマを見るってことになってきます。あらゆる社会問題の啓蒙になって素晴らしいことなんですが、ドラマの中身は性別や年齢で感じ方や理解にかなりばらつきが出るような、まだまだセンシティブな話題がてんこもり!

パートナーや家族間で迂闊に話し合っちゃうと、妻が夫に対してとか、娘が親に対して「なんでこの感覚わかってくれないの?」、逆サイドからは「いやドラマ見てるだけでなんで責められてんの…」みたいなイヤな空気になる可能性があります。

この衝突こそが新しい価値観へのアップデートを促すんだ!という話もあるので、ぶつかり稽古的にどんどんやるのがいいのかもなんですが…実際に恋人といるときや家庭内では、なるべく平穏に暮らしたいんです私は……。

男やオジオバにとっては、わりと説教

労働や結婚、ジェンダーとマイノリティ、若さへの執着、独り身への抵抗感など制度面から人に内面化された生きづらさまで、社会問題を幅広く扱いながら、ラブコメディでコーティングして、みんなが楽しく見られるものにしていた逃げ恥のバランス感覚ってほんとにスゲ~〜と思うんです。

先日の新春スペシャルで、そのバランスがすこし問題提起や教育の側面に偏りすぎた、つまり「説教くさい」と私は感じたんですが、元々連ドラのバランスがいいと感じてるのも、自分がドンピシャでターゲット層だからじゃないか?!と、ふと思ったのです。

男性や自分の親世代、つまり、これまで世の中のスタンダードを作ってきた人たちは、連ドラの時点ですでに説教されてるような気分だったのかもしれない……。っていうか私の恋人(男性)も当時言ってた。「みくりさんは面倒くさい」「君はそこがみくりさんに似てる」って…。思い返すとひどい発言ですが、そういうふうに感じる人は実際まだ多いんじゃないでしょうか。

ハイソ民がまじめに理詰め

さらに、逃げ恥の登場人物を見てみると、みくりさんは大学院卒、平匡さんは京大卒のSE、ゆりちゃんは外資系企業勤務……と、ハイ・ソサエティがすぎる!!世の中の上位数パーセントの暮らしをする人たちです。
そして"正しい"ことを言う人物のセリフは、とても論理的。みくりさんやゆりちゃん、沼田さん…みんな人を納得させる説明がバシィッとできる人です。言い返す余地もないくらいに…。
【画像引用元】https://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/story/story11.html

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一方、悪しき慣習に囚われてた人物は「ちょっと頭悪そうな人」として描かれました。例えば、"ポジティブモンスター"こと五十嵐杏奈さんとか。
【画像引用元】https://www.rbbtoday.com/article/2016/11/28/147406.html

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作者や制作側が「あらゆる人が生きやすい世の中に変えたい」と強く願っていると同時に、変われないでいる人たちのことを「愚かな人」にしてしまったところに、説教くささが強く出ているように思います。

一度そう思うと、自分もずっとどこかで責められているような、息苦しい感覚に襲われます。問題提起の内容に概ね同意している私も、別に日頃からそれを徹底できているわけじゃあないですからね……。

(やっとアフロ田中に話戻します…お疲れ様です…)

田中は普通かそれ以下の男

一方、『結婚アフロ田中』の主人公は高校を自主退学したり、上京してどうしようもないくらいにブラブラしたり、不注意で火事に遭ったりしながらなんとか生きてきた、世の中の普通レベルかそれ以下の男です。

『しあわせアフロ田中 4巻』
火事回が無料で読める(すごい!)

田中だけでなく、田中の周りで暮らす人たちもそうです。たぶん年収200~300万程度で、人によっては借金を返済しながらなんとかやりくりして生活しています。こんなうだつが上がらない人たちが、誰かにバシィッと理詰めで説教して世直し!なんて姿は想像できません。

この時点で、逃げ恥と設定が違いすぎて純粋には比較できないんですが…。パートナーシップについての描き方は、私は逃げ恥よりこっちのほうがすきだなーと思ってるんですよね。

ずーっとふざけてる

『結婚アフロ田中』では、田中が結婚式を挙げたり、ナナコ(妻)の出産に臨んだり、子育てをしたりします。はじめてのことばかりで戸惑う田中は、いつも自分に身近なものに例えて相手の立場と気持ちを想像します。その例えがぜんぶ秀逸すぎる。のりつけ先生天才~~!!

結婚式を「女版の高級風俗」に例えたら
急に妻の気持ちがわかる田中(1巻より)

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田中の暮らしをただ笑いながら眺めているだけで、男性にとって参考になる話が盛りだくさんだし、女性にとっては、男性目線の結婚・出産・子育てへの向き合い方を知ることができます。

作者ののりつけ雅春先生は、かなり新しい価値観に適応したタイプの人だと思うんですが、ずっとふざけてるから説教くささを一切感じないし、そもそも男性向け作品なので男性に共感されやすい内容と表現方法になっているところもポイントです。

なんか気持ちいい感じで気づける

逃げ恥のように社会問題を幅広く扱う作品じゃないんですが、ナナコとのパートナーシップについて田中が自然といろんなことに気づいていくようすが見ていて気持ちよく、なんだか心がスッとするような気がします。私も結婚や出産、子育てを経験していないので、本当に勉強になってます。

『結婚アフロ田中 6巻』
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逃げ恥で自分が共感するポイントを、パートナーは「わかってくれない」。それと同じことが、パートナーにも起こっているかもしれない。アフロ田中には、責められたり説教されたりする感覚じゃなく、ただただ笑ってたらそういうことに気づかされたって感じです。

すきなところから読める

私はアフロ田中シリーズをすべて読んだわけでなく、1巻から最新巻まで追っているのは現行の『結婚アフロ田中』だけなんですけど、作者のりつけ雅春先生も全然それでオッケーって言ってます。

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普通にめちゃくちゃ笑えるギャグマンガなので気軽に読んでほしいし、人にもおすすめしやすい。これなら夫婦そろって楽しめる気がします。ひとしきり笑った後に心があったかくなって大切なことを知るこの感じ。私はすきです。

ちなみに今回ヘッダー画像として拝借したのは『結婚アフロ田中 8巻』の表紙なんですが、どの表紙も超~~すてきで選ぶの大変でした。最高のマンガを出し続けてくれているのりつけ雅春先生と小学館の方々に心から感謝します!

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