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「体の不調によって自分自身と向き合ったことが、今につながっている」。新米ママが、女性特有の疾患を経験して手に入れた視点

「いつかは子どもが欲しい……かも?」という方に向けて、体のこと、キャリアのことなどを考えながら妊活・不妊治療に向き合ってきた方の歩みをご紹介するこの企画。今回は、卵巣嚢腫と診断された30代前半の女性にお話を伺いました。

どう生きたいか、何を幸せと感じるかは人によって大きく異なるため、決して「こうすべき」という模範解答があるわけではありません。悩みながらご自身で出した答えこそが、あなたにとっての正解です。今日もあなたが選んだ一歩を誇りに思い、大切にしてほしいのです。

答えが出ないぼんやりとした不安の中にいる方にとって、この体験談がご自身の人生のヒントを見つけるきっかけになれば――。そう願いながら、さまざまな方のエピソードをお届けしていきます。

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今年お子さんを産んだ30代前半の金融系企業に勤めている里保さん(仮名)は、大学時代に生理不順や生理痛の悪化を感じ、婦人科を受診。チョコレート嚢胞(1)と診断され、ピルの服用による治療を受け続けていました。

数年後、別の病院で「チョコレート嚢胞ではなく卵巣嚢腫(2)だった」と知った里保さん。衝撃を受けたものの「大学時代の診断のおかげで、自分の健康や『どう生きたいか』と真剣に向き合うようになった」と振り返ります。そんな里保さんに、診断の経緯やそのときの心境、ご自身に訪れた変化について語っていただきました。


婦人科でチョコレート嚢胞と診断され、情報収集しては不安を募らせた日々

―――里保さんは、どんな経緯でチョコレート嚢胞と診断されたのでしょうか?

診断されたのは大学時代です。受診のきっかけは、就職活動のプレッシャーで体調を崩したことでした。

昔から、いつ生理が来たのかを毎月記録する習慣があるのですが、就活中の一番忙しかったときから、急に生理不順になって。生理痛もいつもより重いし、鎮痛剤を飲んでもあまり効かなかったので、ちょっとおかしいなと。

そんなとき、大学のそばに完全予約制で女性の医師が診てくれる婦人科があると聞いて、受診してみようと思いました。

―――病院や婦人科に抵抗感を持つ人もいますが、怖くはありませんでしたか?

幼少期から、体調を崩すとすぐ親が病院に連れて行ってくれていたので、病院にはあまり抵抗感がないんです。モヤモヤし続けるより、早く自分の状況を把握して対処できた方がいいとも思いますし。「ここなら必ず女性の先生に診てもらえる」という安心感で、受診のハードルがさらに下がっていた部分もありました。

いざ受診して、病院でMRIを撮ったところ、チョコレート嚢胞と診断されました。医師からは、手術が必要な一歩手前のサイズとの説明を受けました。

ただ、医師の説明ではいまいち情報が足りない感じがして。治療法や患者の体験談などをネットで検索して読んでみたら、癌化するリスクや不妊症に繋がる恐れがあると書かれていました。……愕然としましたね。特に、癌化するかもしれないというのが本当に怖かった。

必死で調べるうちに、「チョコレート嚢胞は妊娠して生理が止まると治ることもある」という情報を目にしたんです。それまで子どもについて具体的に考えたことはなかったけど、妊娠・出産の時期は意識した方がいいのかな、と思うようになりました。

―――チョコレート嚢胞だと診断された後は、何か治療を受けましたか?

服用することで進行を遅らせることができるということで、低用量ピル(3)を飲み始めました。飲んでみたら、生理が劇的に楽になって。そのときは「こんなに楽に過ごせるなら、なんで高校生のときから飲まなかったんだろう」と思いました。

転院を機に、チョコレート嚢胞ではなく卵巣嚢腫だったと発覚 

―――今の職場には、大学卒業後すぐに就職したのでしょうか?

はい。金融系の会社で総合職に就きました。親が共働きで母親が働く姿を見ていたことや、お金のかかる私立大学に通わせてもらったこともあり、なんとなく「きちんとした仕事に就いて働かないと」という意識があったのが、就職先選びの決め手だったかな。今は育休中ですが、復帰後も同じところで働くつもりです。

といっても、私自身はそんなにバリバリ働きたいタイプというわけではないのですが。仕事がハードで辞めようと思ったこともあったけれど、配置換えを経て、ここ数年は無理なく働けています。ちなみに、夫とは職場で出会って結婚しました。

―――旦那さんには、いつ病気について話しましたか?

夫に病気のことを話したのは結婚前、交際してある程度親密になったタイミングですね。「チョコレート嚢胞という病気で、妊娠したら無くなる可能性もある。でも、切除しないと癌になる可能性もあるし、不妊症の原因にもなり得る。だからなるべく早く結婚したい」と率直に伝えたと思います。

特にそれがきっかけになったわけではないのですが、付き合って1年ほどでプロポーズされ、26歳の頃に結婚しました。1年後に結婚式を控えていたこともあり、しばらくは2人の時間を楽しみたくて、病気や妊娠・出産のことはいったん忘れるようにしました。

―――実はチョコレート嚢胞ではなかった、とわかったのはいつ頃ですか?

結婚式のすぐ後です。会社の近くで受診したいと思って転院したのですが、転院先で改めて診察を受けたところ、チョコレート嚢胞ではなく卵巣嚢腫だと診断されました。衝撃でしたね。嚢胞に溜まっていたのは古い血液ではなく、おそらく水溶性のものだろうということです。低用量ピルの服用も、生理痛を軽減するのには効果的でしたが、卵巣嚢腫の治療には意味がなかったようで……。

とはいえ、定期的に婦人科に行き、自分の体調をこまめに把握できていたことは、無駄ではなかったと思っています。そのついでに、年に一度は必ず子宮頸がん(4)の検査を受けることもできていましたし。

―――卵巣嚢腫だったとわかって、心境に変化はありましたか?

主治医によると「卵巣嚢腫は不妊症の直接的な原因にはならないことも多いが、あなたの場合はサイズが小さくはない。卵巣が捻れてしまう可能性もある」とのことだったので、やはり不安はありましたね。

切除することを考え始めたのはその頃です。手術を受けるなら、卵巣嚢腫の手術の実績が豊富な病院がいいなと思っていました。でも、「サイズは小さくないものの、それほど大きいわけでもない。患者がたくさんいる病院だと優先度が低くなる」と言われて。手術は何か月も先になるだろうとのことで、そのときは決意できませんでした。

その頃は結婚したばかりで、まだ子どもはいいかなと考えていたこともあり、ひとまずピルの服用を続けることにしました。結局、手術を受けたのは妊娠する少し前です。

夫に背中を押されて卵巣嚢腫を切除。長年の不安がなくなり、心が晴れやかに

―――卵巣嚢腫の手術に踏み切ったのは、どんな経緯だったのでしょうか?

「子どもをつくりたいけど、妊娠の前に卵巣嚢腫を切除するべきか」と悩んでいた時に、夫からかけられた言葉がきっかけでした。

子どもをつくる時期に関しては、以前から「できれば昇格したタイミングで」という漠然としたビジョンがあったんです。28歳のときに無事昇格できたので、そろそろ子どもが欲しいな、ピルの服用をやめようかなと。

保育園事情を考慮して、できるだけ希望通りのタイミングで妊娠したかったので、夫に「今から妊活を始めて、このくらいの時期までに妊娠して、このくらいの時期に産みたい」とプレゼンしました(笑)。夫はもともと子ども好きではなかったけど、友人家族とまめに交流していたこともあり、徐々に子どもと接することに慣れていったみたいで。私の提案を受け入れてくれました。

ただ、いざ妊活をスタートしようとすると、やはり卵巣嚢腫のことが気になって……。不妊症の原因になっている可能性もあるし、卵巣が捻じれてしまうことがある。ネットでいろんな情報を見たり、主治医に聞いたりして、どんどん不安を募らせていきました。

そんな気持ちを夫に打ち明けたところ、普段あまり意見を言わない彼がはっきりと、

ずっと不安に思っていることを抱えたまま、妊娠・出産するのは辛くない?それなら、手術を受けてから妊活したほうが気持ちが楽になるんじゃないかな?


と言ってくれたんです。この言葉が自分にすごく響いて、「よし、手術しよう!」と腹を括ることができました。

―――旦那さんの言葉が背中を押してくれたんですね。

そう思います。改めて主治医に相談したら、有名な大病院にこだわらなければすぐに手術できると言われて、じゃあ受けてしまおうと。夫に相談した2か月後には手術することになりました。待ちの時間が一番つらいので、あまり間を置かずに手術できたのはよかったですね。

直前は不安でしたが、手術自体はそれほど痛くもなく、あっという間に終わりました。前後の入院も含めて、1週間くらいの休暇でカバーできたのもありがたかったな。手術後は、不安がなくなって晴れ晴れとした気持ちになって……思いきって本当によかったです!

妊活中は不妊症の不安で追い込まれ気味に。「一度忘れよう」と気分を切り替える

―――手術の後は、すぐに妊活を始めたのでしょうか?

はい。タイミング法(5)での妊活をスタートしました。周囲の友人などから「子どもがなかなかできない」という話をよく聞いていたし、自分も不妊症かもしれないと思ってたくさん情報収集をしていたのですが、精神的に疲弊してしまって……。まだ妊活を始めたばかりなのに、生理が来るたびに憂鬱な気持ちになっていました。

そんな状況が3か月続いたので、気分転換したくて「いったん妊活のことは忘れよう、ハワイにでも行こう!」と思い立ち、旅行の計画を立て始めたんです。まさか、その直後に妊娠するとは思ってもいなくて……びっくりでした。妊活を始めて4か月目のことでしたね。

今振り返れば「自分は不妊症かもしれない」という不安が大きく、不妊症について雑誌などで勉強しすぎたことで自分を追い詰めていたのかもしれません。それをきっぱり止めたときに授かったので、ストレスを溜めていたのがよくなかったのかもな、と思います。何事もほどほどにしないとだめだと改めて実感しました。

―――ちなみに、里保さんは妊活を始める前にブライダルチェックなどの検査を受けたことはありますか?

いえ。実はちょうど妊娠が発覚する直前に、夫と二人で受けようかと検討していたんです。男性が不妊原因を持つ場合もあることを雑誌などから学んでいたので、私だけ検査するのでは意味がないなと思って。

個人的には、妊活を始める前に受けておいてもよかったと思っています。検査を受けないまま「不妊症かも」という前提で情報収集して不安になっていましたが、自分の体の状態を把握せずにあれこれ悩むのは、精神衛生上よくないなと。時間ももったいなかったですね。

やはり治療や検査は、早めに受けるに越したことはないと思います。卵巣嚢腫の手術も、引き延ばさずに妊活前に受けて良かった。もちろん再発の可能性もあるのですが、手術をしたおかげで不安なく妊娠期間を過ごせました。

―――確かにそうですね。今は育休中とのことですが、お仕事にはいつ頃復帰する予定でしょうか?

育休はフルでは取らず、少し早めに復帰する予定です。あくまで私の場合ですが、仕事から離れてあまり期間が空かない方が、抵抗なく職場に戻れる気がしていて。

仕事は特に好きではないけど楽しい瞬間もあるし、育った環境の影響から、自分が働いていないイメージがあまり湧かないんです。性格的に、自分の楽しみのために使うお金は自力で稼ぎたいと思うのも大きいですね。

今後専業主婦になる可能性もまったくゼロではないけど、同じ職場で働いている夫としては、夫婦で仕事の話もできる、気持ちを分かち合えることが大切みたいで。「できれば今の職場で働き続けてほしい」と言われたことがあります。

―――旦那さんはあまり意見を言うタイプではないとのことだったので、意外な気がします。

そうですね。以前、私が本気で仕事を辞めようと思ったことがあったのですが、そのときの話し合いで初めて夫の本音を聞くことができました。おかげで、家庭をどう運営していくかの道筋を立てやすくなりましたね。普段はなかなかそういう話をしないので、結果的にはいい機会だったのかな。

―――手術の話もまさにですが、旦那さんと腹を割って話した結果、よい方向に進んだんですね。やはり夫婦間の対話は大切だと実感させられます。


今の自分があるのは、早くから体の不調に目を向けられたから

―――お話を聞いていると、大学時代に診断を受けたことが、里保さんの意思決定に大きな影響を与えているのかなという印象を受けました。

そうですね。早い段階から癌や不妊症の問題を自分ごととして捉えることができていたと思います。未来の可能性を考慮し、どんな人生を送りたいかを考えられたのは自分にとってプラスでした。

定期的に婦人科に通っていたのもよかったです。今の自分の状態を定期健診で把握できていることは、妊活においても重要なので。

―――不調に気付いて対処するのは、早いに越したことはありませんよね。女性特有の疾患の場合は不妊症につながるおそれもあるので、将来妊娠を考えているならなおさら。

そう思います。働き始めてから体や心を病む友人が多かったのですが、蓋を開けてみたら、不妊症の原因になる病気を抱えていた子もいて。定期的に婦人科を受診することの大切さや、心身の不調が女性特有の疾患や不妊症につながる可能性については、もっと広く知られてほしいと願っています。

癌化や不妊症のおそれがある病気だと診断されたときは本当に悩んだけれど、妊娠、出産を含めた人生について早くから真剣に考え始めたことが、今につながっているなと思うんです。むしろ、自分がどんな人生を送りたいか考える機会を与えられて、健康の大切さにも気付けたのは、運がよかったのかもしれません。小さいうちから、病院への抵抗感をなくしてくれた親にも感謝ですね。

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※この記事は治療経過や妊娠・不妊治療の経過を説明するためのものではありません。ご自身の健康状態をはじめ、妊娠や不妊治療について疑問点がある場合は、医療機関を受診するなど専門家にご相談ください。

(1)チョコレート嚢胞:子宮内膜が本来あるべき子宮以外の場所にできてしまう病気を子宮内膜症と言う。子宮内膜が卵巣にできると、チョコレート嚢胞となる。主な症状としては痛みや不妊症などがある。
参考:東大病院 子宮内膜症外来 「子宮内膜症とは」より
https://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/depts/jyoseisanka/shikyuunaimakushou/

(2)卵巣嚢腫:卵巣に発生した良性の卵巣腫瘍。袋状になった腫瘍に内容物が詰まっている腫瘍で、卵巣嚢腫の内容物によって、種類が分けられる。
参考:聖マリアンナ医科大学産婦人科学 患者の皆様へ「卵巣嚢腫でお悩みの方」より
https://www.marianna-u.ac.jp/newobgyn/patient/007596.html

(3)低用量ピル:避妊や、卵巣がん・子宮体癌の予防、子宮内膜症・月経困難症の症状緩和など様々な目的で処方される薬剤
参照:メディックメディア「病気が見える 婦人科・乳腺外科」P.98

(4)子宮頸がん:子宮下部の管状の部分、子宮頸部に生じるがん。子宮の入り口付近の頸部をブラシなどで擦って細胞を集め、顕微鏡でがん細胞や前がん病変の細胞を見つける細胞診検査を行う。この検査を子宮頸がん検診と呼ぶ。出血などの症状がなくても、20歳を過ぎたら、2年に1回の子宮頸がんの検診を受けましょう。
参照:日本産科婦人科学会 産科・婦人科の病気「子宮頸がん」よりhttp://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=10

(5)タイミング法:基礎体温、超音波検査にて排卵日を推定しその前後で性交渉を行って妊娠をめざす治療。
参考:聖マリアンナ医科大学病院 生殖医療センター「治療について」
https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/reproduction/diagnosis/017155.html

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ライター:小晴
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