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【喫茶店 美来】1話最終回 1-6話『わたしの行きつけ喫茶店』

あの日の会話が最後だと、わたしは思わなかった。
それから、2か月後くらいだろうか

ある日・・・
桜がつぼみをつけはじめたころ
わたしは、ついに自分のプロジェクト後輩へ引き継ぎ、
統括部長になることが決まっていた。

いつもの喫茶店へ行った。
カランコロン
「       」
あれ?いつもの優しい声が聞こえない
そして、空気が重い。

お客さんでは、いないが
1階では、静かに勉強している子、絵を描いている子、読書をしている子
2階では、ケンカをしている声がする。

いつも会計をしていた男性がすわっている。
わたしは男性に「あの~すみません。今日の営業は?」と恐る恐る聞くと。
男性は「今日で、閉店です。」その言葉に力はない。
わたしは、困惑した。「店長さんは?」と聞くと
「店長は、、、もう」と男性は、涙を流しながら、言葉に詰まった。
 

紗季ちゃんがわたしの服の袖を引っ張って
タブレットに店長の似顔絵とみんなが描かれているイラストを
私に見せて、涙をぽろぽろと流す。
紗季ちゃんの幼なじみ里奈ちゃんが
「店長、2週間前に亡くなったの」と涙をこらえていう。

悲しみの空気が1階に流れている
悲しみをうまく出せない空気が、2階に流れていることを理解した。

わたしは、どうしていいかわからなかった。
しばらく黙ったまま、2階のケンカの声が1階まで聞こえている

どれくらいの時間がたったかわからない

紗季ちゃんのイラストが目に入った。
わたしが、この喫茶店で過ごした、思い出が一気によみがえる。

店長と過ごした日々、店長に愚痴を言った日、店長の前でもうやめたいと泣いた日、昇格したよ!とうれしい報告をしに行った日、新たな居場所つくりを始めてみんなで楽しんだ日。

店長がいないそう心が認識したのと同時に、わたしも涙が出た。

里奈ちゃんが背中をさすってくれる。
ある言葉を思い出した。
『居場所』が欲しいってあなたが教えてくれたんじゃない。
「自分が安心できる場所のこと、自分が安心して好きなことに没頭できること、自分が安心して一緒に過ごせる人がいること」

わたしは、涙をぬぐった。
生まれてから一番大きな声を出したかもしれない。

「私がこの場所守るから!!!」

喫茶店は、すごく長い時間、静かだった感じがした。

わたしは、我に返って
「みんな、ごめん大きい声出して」
2階でケンカをしていた子たちが下りてきて、
「お前には、無理だ」
「ここは、店長のお店だ!」など口々に言いながら店を後にする。
1階にいる子たちも、無言で帰っていく。
紗季ちゃんと里奈ちゃんだけが残る。 

「私が守って見せるからね」と二人に言った。
男性が、わたしは、辞めます。と辞表を置き、いなくなってしまった。

<1話 おしまい>
©心空


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