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【喫茶店 美来】1-4話『わたしの行きつけ喫茶店』

店長が厨房に行き、何かを作っている。
いつもの曲を歌いながら
『Sweet memories』
店長は、ココアを持ってきた。
「紅茶のおかわりいる?」と聞かれたので、お言葉に甘えて「はい」と言ってしまった。 

さっき厨房にいた3人は、着替えて男の子二人は帰っていったが、
女の子一人は、ボックス席に座って、タブレットを使って絵を描いている。

わたしは、店長に聞いた「彼女は?」
「紗季ちゃん?お迎え待ちよ。お仕事の後は、きまってお絵描きタイム。
 スイーツつくりがとっても上手なの。
 今日のワッフルも紗季ちゃんが作ったんだよ。
 紗季ちゃん褒められてうれしかったよね~」というと、
彼女は、表情を一つ変えず、タブレットで絵を描いている。
わたしは、店長のほうが嬉しそうだがと思った。 

ほどなくして紗季ちゃんのお父さんが迎えに来た。
「今日もありがとうございました。」とお父さんが頭を下げる。
「これ、来月の紗季の出勤予定日です。今日どうでしたか?」と
 心配そうに尋ねている。
「順調ですよ!今日は、お客さんに直接ほめていただいたのできっとうれしいと思います。帰り道聞いてみてください。」と
わたしのほうを、ちらっと店長は見る。
お父さんは、
「そうですか。大丈夫そうですね。紗季、車の中でその話教えて。」というと紗季ちゃんは、軽くうなずいた。

そして使っていた、タブレットを店長に返して、会釈をした。
「紗季ちゃんまたね」と店長がいうと
紗季ちゃんは、軽く手を挙げて帰っていった。
外は、うっすら雪が積もっていた。 

店長がオープンからクローズに看板を変えた。
外にあった、イラスト付きの立て看板もお店の中にしまってきた。
「紗季ちゃんは、心を開いた人にしか、お話をしないの。人とコミュニケーションをとるのが苦手、大きな音が苦手。でも、得意なことがあるからこうやってお仕事ができる。将来、自分のお店を作りたいんだって。」
わたしは、店長が自分の子を育てているかのような、
責任と頼もしさが見えた。

「わたし、あなたに『居場所』の話を聞いたとき。残りの人生、ここを誰でも、集まれる。安心できる場所にしたいと思ったの。そして、得意なことを生かして、苦手なことや不得意なことは補い合えるそんな場所を作って、わたしも生きていけるんだって思える場所を作りたい」

「始めたけど、試行錯誤中よ。互いにケンカしたり、パニックになって出てこなくなっちゃったり、おうちの方と意見が合わなかったり。大変だけど、子ども同士話したほうが解決することもあってね。大人が入るよりも。」

「次の店長は、あなたかもね」なんだか寂しそうな、嬉しそうな複雑な
 言い方だった。
「いやいや、私には店長なんて。そもそも、自分の仕事で精一杯なのに、周りをまとめるなんて。」
「大丈夫 大丈夫。わたしだってできることしかしていない。
 できないことは、周りのスタッフたちがフォローしてくれる。
 だから、あなたのできることをすればいい。」
その言葉で、今まで背負っていたものがなくなった気がした。

<続く・・>
©心空


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