#19 新幹線
今日は午後勤、お昼の正午、12時からの勤務だ。11時に自宅を出て、市内で相棒の板妻さんをピックアップ。御殿場登山道新五合目を目指す。なだらかな登りの道だ。右に自衛隊滝ケ原駐屯地、左手にアメリカ海兵隊基地を横目で見ながら国立青年の家を過ぎると、景色は一変する。左右に鬱蒼とした林が続く。自衛隊東富士演習場だ。その東富士演習場の中を県道23号線(御殿場富士公園線)は走る。国立青年の家を過ぎて5Kmほど進むと、旧馬返しだ。このあたりから登りの傾斜がきつくなる。馬返しの手前で、道端にリュックを降ろして休憩している青年を追い越した。「頑張るねえ!」「今日登るのかなあ?」「わからないね」で車内の会話は途切れた。
11時45分に新五合目に到着し、引継ぎして12時から勤務を開始する。今日は土曜日。早朝の登山者は平日の2倍以上とのことだった。散歩・散策を楽しむ観光客も普段の倍近いと聞いたが、午後に入ってもの流れは途切れない。ただ、都会の観光地・施設と違って、「混みあう」ことは少ない。皆さん、「密になることを意識して避けている」ように見える。ただ、登山者・下山者の「健康チェック・保全協力金受付」が混みあう時もある。そんな時は各グループの距離を2m以上取るようにお願いする。午後2時を過ぎた頃、リュックを背負った青年が現れた。下山をしてきた様子。心なしか疲れた様子だ。
「お疲れさまでした。大丈夫ですか?」
「いやぁ 今日の御殿場は暑かったです。ちょっと疲れました」
「えっ? 下山してきたのではないのですか?」
「御殿場から来ました。」
「歩いて?」
「はい、昨日は三島から歩いて御殿場まで来て、今日は御殿場から。少し休んでから、七合目まで行きます」
「そうか、「馬返しの手前で休憩していたのは君だったのかなあ?」
「はい、たぶんあのあたりで休憩しましたから」
「強行軍ですね?」
「だいじょうぶ! 2年前に「富士山登山ルート3776」 やってますから」と、2年前の挑戦を語ってくれた。
「富士山登山ルート3776」は、富士市が主催する富士山登山コースで、海抜0mの田子の浦港公園(あるいは大渕公園)を起点に富士山頂までの42Kmを3泊4日(推奨)で走破する厳しい行者コースだ。毎年千人余りが挑戦しているようだ。まさに仙人コース。
「すごいですねぇ。普段から鍛えているんですね。お仕事は?」
「いやぁ、会社の研修で三島に来ていて、昨日から時間があったので挑戦しようと計画してました」
「これから予約してある七合目の山小屋まで登る予定ですが、天候はどうでしょう?」
「だいじょうぶですよ。登山には最適です。明日の朝も快晴です」と答えた。
「もしかして、鉄道関係ですか?」
「はい、新幹線を運転しています。」
時速300Kmで疾走する新幹線運転手が、一歩一歩を踏みしめながら富士山を目指す。子供に読み聞かせた「ウサギとカメ」の昔話のそれぞれの良いところを一人で実践しているこの青年に「安心と安全」を感じて一同感動。皆で心地よく送り出した。
翌日午後、彼は下山してきた。鳥居をくぐり「ありがとうございました。最高の登山ができました。」と礼を述べると御殿場行きのバスの人となった。
「こちらこそ ありがとう」
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