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2020年ブックレビュー『夜のリフレーン』(皆川博子著)

幻想ミステリ―の短編を集めた皆川博子さん『夜のアポロン』を昨年読み、その完成度の高さと面白さに魅了された。姉妹編ともいうべき、『夜のリフレーン』を手に取った。

一つ一つの物語が後を引く読後感。若い男を蜘蛛の糸のように絡めとる中年女女性を描いた『夜、囚われて……』は、同じ時間軸が繰り返される(リフレーン)ような物語だ。若い男は中年女性の夢の中に生きる「影」のような存在として生きる。結局、実体はどこに存在するのか読者は混乱してしまう。

『新吉、おまえの』は、いつの時代の物語か。明治か、大正か。幼い娘の目を通して、裕福な医者の家が描かれる。娘は、雇われた父の車夫である若い「新吉」を慕っている。使用人も含めて家族は大勢いたが、娘は孤独で母からも疎まれていた。新吉の優しさを心のよりどころに、娘は生きていた。

ある時、娘は新吉と祭りに出掛け、新吉の下駄が割れてしまう。翌日になり、新吉の下駄は「母」に変化していた(この突然の不条理さが何とも言えない)。娘は新吉の下駄を石にぶつけてたたき割るが、その夜、母は亡くなってしまうー。若い男に抱いた母の邪心を、幼い娘が見抜いて嫌悪し、母が下駄に見えるーなんと素晴らしい想像(想像)力なのか。

『桑の木の下で』はさらに、不条理さが増す。
謎の因習を守る村では、15になった娘はその年の6月に「桑の木の下」に行くらしい。そこで、娘は蛇の抜け殻を使い、何かをする。剥け損なった娘は薄餅になるー。蛇は何だろう、薄餅は何を意味しているのだろう。皆川さんの感性の奥深さは、底なしのようだ。

↓『夜のアポロン』




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