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2020年ブックレビュー『金魚姫』(荻原浩著)

金魚を使ったアートアクアリウムが人気を呼んでいる。SNSで「映える」のが人気の理由の一つだ。用意に想像できるのは、何万匹の金魚を扱うために、死んでしまう魚も多く出てくるだろうということ。美しい観賞魚だからこそ、「きれいなモノを見たい」という人々の欲望を満たす道具になりやすい。

金魚の歴史は1700年前、中国の晋の時代を嚆矢とする。長江水系の深山に生息するヂイ(中国ブナ)のうちの一匹に、「火の如く赤い魚」が現れた。それが金魚の始まりだ。突然変異を起こしやすい特性を生かし、人工的な交配を重ねて多彩な品種が生まれた。

荻原浩さんの「金魚姫」は、そういった観賞魚である金魚をモチーフに連綿と続く命の変遷と記憶を描く。

物語の主人公・潤は29歳、仏壇や仏具を扱う会社の社員。だが、ブラック過ぎる会社の仕打ちに耐えかね、心が壊れる寸前。そんな時、夏祭りの金魚すくいで、一匹の美しい琉金を手に入れる。その琉金が突然、中国の古代衣装を着た美女として潤の前に現れる。潤は彼女にリュウと名付け、奇妙な同居生活が始まる。リュウの断片的な記憶の謎を解こうと、リュウと潤は最終的に長崎までたどり着く。

少し前に見たNHKBSの同名ドラマが消化不良気味(!)だったので、原作を読んでみるとずっと重層的で味わい深い物語。リュウと潤の交流話の合間に、リュウの記憶の物語が挟みこまれる。彼女と許嫁の男を悲劇に追いやった劉一族の話だ。琉金の化身である女はさまざまな時代に現れて、劉の子孫に恨みを晴らしていくのだ。

では、潤に出会ったのはなぜー。

人の恨みや暗い記憶が浄化されるのは、どういう時だろう。
愛されること、大切にされることー。



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