見出し画像

2020年ブックレビュー 柚月裕子著『凶犬の眼』

役所広司主演で映画にもなった「孤狼の血」の続編なので、期待して読んだのだが…。
続編というのは、難しいのだろうと感じた。

「孤狼ー」で、呉原市の暴力団抗争に巻き込まれて殺された大上巡査部長の遺志を継ぐ日岡巡査の第2章。日岡は呉原東署から広島県北部の田舎駐在所に左遷されていた。だが、大上が肩入れしていた呉原の尾谷組とはつながりを持ち続けている。

呉原市の暴力団抗争は、火種をくすぶらせたままいったんは収束したものの、「凶犬ー」では関西の暴力団・明石組と心和会との抗争に話が移っている。抗争の中心人物は、明石組の4代目組長を暗殺した首謀者の一人で指名手配されている国光。日岡は国光と絆を切り結び、兄弟の盃まで交わすー。

多彩な人物が入り乱れて殺し合う「孤狼ー」とは違い、日岡と国光の立場を超えた友情が読みどころ。しかし、何となく物足りないのは、日岡や国光や取り巻くやくざたちが、あまりに仁義を守り過ぎる「正統派」だからか。同様に、暴力団抗争がテーマの映画「仁義なき戦い」は、人間くさい欲望にまみれたやくざたちが、仁義を無視して裏切り合う姿に真実味があった。前作の「孤狼ー」も、警察も含めた組織の不条理さを突いていた。

国光が、自らの裁判で自らが犯した罪を「仁義だ」と言う。
「親分の命を取られたら、取り返す」というのがやくざの掟であり、仁義なら報復の連鎖は止まらない。しかし、それはこれまで映画や小説などで描かれ、手垢が付いたテーマではなかったか

↓「孤狼の血」レビュー



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?