喋る冷蔵庫
我が家の冷蔵庫は喋る。
と言っても機械的な言葉しか話さない。
「おはよう」
「卵がなくなっていませんか?」
「賞味期限の近い食材はありませんか?」
などといった言葉を話す。
1年毎に
「ご使用頂いてから○年が経ちました」
とも言う。
非常に賢いと思う。
色んな言葉を話す冷蔵庫だが、中でも嬉しい言葉がある。
「いつも使ってくれてありがとう」
この言葉を初めて聞いたとき、なぜか冷蔵庫を愛しく思ってしまった。
その当時の私はうつ病を患ってすぐの頃だったと思う。
言葉を話さない人間に話しかけてくれる機械。
ただ、食材が傷まないように保存するための機械。
そんな機械が「ありがとう」と言っているのを聞くと中に入れる食材たちにもこだわるようになってくる。
縦に生えてる野菜は縦に入れて、冷凍室にはブックスタンドを使ってきれいに並べたり。
綺麗に入れたら喜ぶかな、とかそんな事を考えている。
だんだん、冷蔵庫の中が綺麗になってきた。
たまに中を掃除されるのを見ると少し嬉しくなる。
仕事から疲れて帰ってくる時間帯には
「いつもお疲れ様です」
と言ってくれる。
私には「おつかれ」と言ってくれる家族がいる。
でも、私が辛い時にずっと話しかけてくれたこの冷蔵庫から言われる
「お疲れ様です」
は、やはり特別なのである。