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テレビを消して、吉本ばななさんの『キッチン』を読んだ

すごいものを、読んでしまった。

BGMとして、いつもダラダラとつけているテレビがうるさくて、つい消してしまったくらい。無音の中で、一気に読み切りました。

あらすじ
唯一の肉親であった祖母を亡くし、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居することになったみかげ。日々の暮らしの中、何気ない二人の優しさに彼女は孤独な心を和ませていくのだが……。

なんとなく、エッセイや小説が読みたい気分でした。Amazonで検索して出てくる本やnoteの記事には、あまりにもわかりやすく、スピーディーに情報を得られるものが多い気がしていて。
いや、今やどこでもそうですね。あらゆるSNSやサイトが、全てファストフードのよう。安くて早くて、おいしい。

そして気を抜いていると、私はそういうものばかりに飛びついてしまうんですよね。当たり前か。書く側だって「多くの人に読んでもらおう!」と思って書いてるんだから。

自分が飛びついてるくせに、最近それに疲れてしまった。だから、noteで読める誰かの日記やエッセイがとても好きです。癒しです。そして、そういったものにも充分得るものはある。ただ、自分に染み渡るスピードが違うだけで。

要点をまとめた本がサプリメントみたいなものだとしたら、エッセイや小説は、日々のご飯。
すぐに身になるわけじゃなくて、じわじわと自分をつくっていく、みたいな。

雨の今日。本当はやろうと思ってたことが色々ありました。そろそろ靴を洗いたいな、とか。映画観に行こうかな、とか。
でも、この雨と寒さには勝てず。これらの予定は後日に変更しました。

そこで、ずっと読んでみたいと思っていた『キッチン』を読むことにしました。吉本ばななさんの作品に触れるのは、初めてです。

詳しい解説や考察なんかは他の人に任せて、私が読んで感じたことだけを書きます。
もしかしたらネタバレになるかもしれませんので、未読の方はご注意ください。

・・・


身近な人の、死。
私はきっと幸運なことに、まだあまり経験していません。同居していた祖父だけ。
祖父が亡くなった時のことを思い出しました。今でもたまーに、夢に出てきます。

この本にはたくさんの死があります。家族が一人もいなくなってしまうって、どんな気持ちなんだろう。体験したことがない私は、キッチンを読むことで追体験させてもらいました。きっと同じような体験をした人には、痛いほど突き刺さるんだろうな。私ももし今、愛するパートナーや家族を失ってしまったら…

そんな恐ろしいことを考えてしまいます。というか、人はいつ死ぬかわからないのに、つい「同じような明日がくる」と思って過ごしてしまう。それを痛感しました。ぶるっと身震いしました。忘れちゃいかんなと。

実は、私の同居しているパートナーには、両親がもういません。10年ほど前に亡くなっています。付き合いたてにあっけらかんとした感じで打ち明けられました。あまりに自然な流れで「いないんだよね〜」なんて言われて、つい聞き返してしまったのを覚えてます。


一度も泣いてない、と彼は言いました。
亡くなる寸前も、亡くなった後もずっと。

それって、どういう感情なの?
私にはわからないことすぎて、何もできない無力感が苦しかった。何も返せなかった。

キッチンに出てくる2人は、お互いが同じ境遇になりました。家族を亡くして、孤独になる。だからある程度、お互いの気持ちがわかる。

私はそうじゃない。早くに身近な家族を亡くしたパートナーと、ほぼ家族が健在な私。

それがいい・わるいとか、不運だ幸運だとか。考えてもよくわからなくなってきた。

なんだか、あの、これがまさにこの間つぶやいたことなんですけど、言葉にできないんですよね。言葉にすればするほど、大事な核の部分がぼやけるんです。

これって、私がもっと語彙を身につければ解消されることなんだろうか。ものすごく、もどかしい。

私の心の中に、確実に大きなものを残してくれました。この『キッチン』という作品は。私の奥底にあったモヤモヤとしたものを、引っ張り上げてくれた。

そして、身近な人の死を体験している、パートナーとの付き合い方についても。
ぼや〜っとしていて輪郭すら捉えられていなかったものが、見えるようになったような気がする。

よく考えてみると私とパートナーって不思議だ。
こんなにも境遇が違うのに、今は同じソファに座ってる。同じものを食べて、同じところで寝ている。

私の親はよく、うちに来る。
食べ物を届けてくれたり、荷物を届けてくれたり。私もよく、両親の話を彼にする。こんなことがあったよ、とか、こんな人だよって。

そんなとき、彼はどんなことを感じているんだろう。こんなことを考えることすら、なんていうか、すごく傲慢な気もするけど。


もっともっと、吉本ばななさんの作品を読んでみよう。読みたい。
やっぱり小説っていいなぁ。人が書く創作ってすごい。
例えが変だけど、紫外線みたい。UV-Aみたい。目に見えて肌を黒くしたり赤くしたりはしないけど、じわじわ、じわじわと肌の奥に届いて、長い時をかけてシワをつくるような。

すごくいい、読書体験でした。


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