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私たちは思いのほか、見えないなにかに支えられている。マラソンランナーはひとりじゃない。

「マラソンランナーはひとりで走っているわけじゃないんだよ」

中学の時の担任の先生がそんなことを言った。

“だいたいのことは1人でもできなくはないでしょ”と尖っていた14歳の終わりかけの頃だった。

“そこに道さえあれば、走れるでしょ”と思っていた。

担任の美人でスタイルもよくていつもキリッとした表情をした先生は続けて言った。

「まず、真っ暗闇の中走っているのを想像してみて。

それから、次に、もう一つ想像してみてほしい。道を照らす街灯がある。道の脇に応援してくれている人が並んでいる。その声が聞こえてくる。

どちらも同じ、自分の力で走ってる。
だけど自分の力がもっとみなぎって、発揮できそうなのはどっちかな?」

2年も担任だった先生からある日言われた言葉は、それから10年以上たった今も私の頭の片隅に残ることになる。

先生、すごい。

※※※

旦那は今日、車の修理をしていた。Youtubeで「5分でできる簡単修理」みたいなタイトルの動画を見ながら、1時間以上同じ作業を繰り返していた。
どうやら車は治らないらしい。

私は別室で仕事をしていたのだけど、旦那が全然車から出てこないものだから、どうしたものかと覗きにいった。
旦那はクレイジーになる寸前だった。(Youtubeと同じようにやっているのにうまくいかないらしい)

私は旦那にハグをした。それから大丈夫、大丈夫、と背中をさすって、懐中電灯を持つ係をした。私に手伝えることはなかった。(私、機械、メッチャ苦手。)

10分後、旦那は修理に成功した。1時間以上かけてできなかったことが、なぜかできてしまった。びっくりだ。
お互い顔を見合わせた。

旦那は言った。
「みきのおかげだよ!みきがそばにいてくれたことが助けになったんだよ!ありがとう!!」

“わたしは何もしてないよ!”と言いたいし確かに何もしてないんだけど、私がそばにいた10分間で、できなかったことができた。
旦那と、Youtuberが、力を発揮した。

不思議だった。だけど、嬉しかった。

それから、久しぶりに、頭の片隅に残っていた先生の言葉を思い出した。

※※※

何も言わなくてもそばにいてくれたり、解決できなくても話を聞いてくれたりすることが力になる。

散歩しているときにすれ違った仲が良さそうな老夫婦や、落とした定期券を拾ってくれたサラリーマンが、思わぬところで心を明るくすることがある。

私たちは、思いのほか、いろんなものに影響を受けて、それらに支えられていたりする。

“誰かに話したって解決しないし” “外に出たってやることないし” “私がいても意味がないし”、
いろんなところで、私たちは“見えないもの”に気づかずに素通りしがちだ。

だけど、無意識のところで、それが力の源になったりする。

それから、私たちは思いのほか、他人を支えることもできる。

ランナーが走る道端の花になってもいいし、気まぐれに吹く風になったっていい。

そんなことを考えながら生きていくと、毎日をちょっぴり、丁寧に過ごせそうな気がする。

メモ: 丁寧に生きる。そうすると、見えない何かになって、誰かの糧になることがある。






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