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No.097 「きくひろ」 / その1・ 板橋の大銘店との出会い

No.097 「きくひろ」 / その1・ 板橋の大銘店との出会い

板橋の大銘店「きくひろ」さんも、新型コロナウィルスの余波で休業をしていたが、5月末より営業再開、今日6月6日(土)久しぶりに一人で足を運んだ。やはり、本当に「凄い」お店だ。何を食べてもとにかく美味い。

コロナの影響だろう、入り口の戸は開け放たれていた。カウンター4席の端に座る一人の若い先客と目が合った。3年前、やはり同じ状況で出会ったフクジュさんだった。そのときとの違いは、隣に女性がいないことだった。3年前は、お二人にマジックを披露した記憶があった。「お久しぶりです」お互いに覚えていた。

聞くと、その時の女性と所帯を持ち、板橋から目黒に引っ越されたと言う。娘さんにも恵まれ幸せそうであった。目黒に引っ越す際に、板橋を引っ越すメリット・デメリットを書いていって一番のデメリットが「きくひろ」が遠くなることだったという。実に共感できるデメリットである。目黒で何軒かお店に足を運んだがダメで、今晩も目黒から美味いものを求めて彷徨ってきたというわけであった。新妻が子育てで来れないのを悔しがっているのでと、お寿司をお土産にしてもらっていた。微笑しいかぎりである。

僕の自宅から4km弱、車で10分程度、近くに「きくひろ」さんがあって幸せである。20代から生意気にも、あっちこっちと食べ歩いた僕が、行き着いたお店と言っていい。しかも、こんなに安くていいの?と言う値段だ。ホントは教えたくないのだが、noteの僕の記事を読んでくれている人へのプレゼントと言ったら、奢っているかな?まあ、そこまでの影響力のないことを祈りつつ、「きくひろ」さんについて、4回に渡り(2つの記事を挟んで)記事を書いていこう。

小泉武夫さんをご存知だろうか?発酵学者で東京農業大学名誉教授、食い道楽の文筆家、数多くの著作がある。日本経済新聞夕刊に週一度掲載の「食あれば楽あり」は20年以上続く、小泉センセイの人気コラムである。僕も大好きなコラムで、いろいろな食材を小泉センセイが腕を奮い料理する記事が主なものである。愉快な擬音語が笑える、稀代の食いしん坊日記の体裁だ。

いつもの「食あれば楽あり」と違い、珍しくお店を紹介した記事が2002年3月7日の夕刊に載った。要約するとこんな記事だった。「板橋駅は池袋の隣駅だが、雰囲気はガラリと変わる。駅の近くに小泉先生の贔屓のお店がある。ふぐ料理をメインとするお店だが、他の料理も素晴らしい」紹介と言っても、店名も連絡先も書かれていなかった。板橋駅、家から近いな。僕は、この記事を切り抜いておいた。ふぐであれば、白子の時期の冬だろうな。

半年以上過ぎたある土曜日に、このお店を探しに板橋駅まで自転車で行ってみた。15分程度の距離である。手がかりは、板橋駅の近くと、ふぐを提供しているお店の二点だけだった。僕の自宅から行くと、板橋駅踏切の手前が板橋区、線路を超えると北区滝野川となる。板橋側の方が、お店が多く結構広範囲にわたる。どの辺までが「駅の近く」と言えるか判断も難しい。まず、駅近くの交番に向かい、近くにフグのお店はないか尋ねたが、芳しい答えは得られなかった。

板橋駅側を探すこと30分以上、裏道にも入ってみた。思っていた以上に、お店が多い。午後3時前、お昼過ぎだったこともあり、多くの飲食店は閉まっている。洋服屋さんと文房具店で聞いてみたが、こちらも空振りに終わった。少し駅から離れたところにも行ってみたがダメだった。

踏切の向こうは、お店も少なめだけど探してみよう。踏切を渡り、道の両側に目を凝らし、和食のお店を見逃さないように気を配る。道を右に折れると、板橋駅の滝野川側出口だ、こちらの方も駅の近くと言える。こちらでも、数件のお店に入り尋ねてみる。意外と自分の近所のことは知らないものだ。僕も、自分の近所のことは詳しいとは言えない。

滝野川側の出口も結構離れたところまで探して見つからず、縁がなかったか、諦めて家に戻ろうと駅に向かい自転車の速度を上げた。その時、右手側横道突き当たりの二階屋の二階部辺りに平仮名の文字が見えた。慌てて、自転車のブレーキをかけた。見ると「きくひろ」の文字、自転車を降りて、横道を進んでみる。自転車を止め、お店の前に立つ。曇りガラス引き戸の内側上部に、暖簾がかかっていた。店は開いていない。妙に雰囲気のある外観を見ると、二階にも部屋があるようだ。入り口上に結構大きい四文字「きくひろ」とあり「ふぐ」の文字も見える。ここかな?すると、お店の引き戸があき、中から割烹着姿の中年男性が出てきて、怪しい奴がいるとばかりに、こちらをジロリと見た。「きくひろ」の大将との初顔合わせだった。

「あの、こちらのお店、半年ほど前に日経に載ったお店ですか?」
中年男性、再びこちらを、ちょっと横顔でジロリと見て、ブッキラボウに
「ああ、そうだよ」
「あの、今晩って予約できますか?」
「今晩?急だな。ああ、大丈夫だ。何人だい」
連れ合いの由理くんの了解は取っていなかったが、まあ大丈夫だ。男性はこの店の主人だろう。こちらに対して、丁寧とは言えない振る舞いが職人気質を醸し出していて、好ましかった。

この夜、由理くんと二人、驚くこととなる。
板橋の大銘店「きくひろ」との出会いであった。

・・・続く

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