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ローマを1日で成し遂げる【イタリア・サバイバル感覚と天使のささやき】

6月のローマ・東京直行便が全便キャンセル。日本でやるつもりだったパスポートの更新のためにローマへ。そのときのこぼれ話アレコレです。


おしゃべり女と生真面目女


ティブルティーナ駅で地下鉄のチケットを買うために並んでいた。私の前に知らない日本人女性。その前にいた国籍不明の女性が電子タバコの販売員とおしゃべりを始めた。彼女の順番になってもチケットを購入せずに話し込んでいる。

日本人女性は律儀に待っている。左右から横入りの人々がチケットを買う。おしゃべり女と「順番抜かしはいけない」と叩き込まれた日本人女性の前に進んで私も乗車券を買った。

普段横入りはやらない。列が長くても動いているなら抜かさない。けれども、せき止めてる原因が明らかで、その元になっている人物の世界に参加する必要がないと判断したら、私は動く。

大きな街はコンクリートジャングル。

多種多様なイキモノが蠢く。

サバイバル術を身に着けないと生存できない。ひと息ついて休憩できる公園。お気に入りの店。信頼できる人脈。程よい距離感。安全地帯と危険なゾーンを嗅ぎ分けるアンテナが必須。

「裏道を歩いてはいけない」とか「鞄は手前に」といった観光客への表面的なアドバイスのことではなくて、もっと根源的な野生の感覚。

ぱっと見無害の「礼儀正しい日本人女性」を抜かしてチケットを購入しちゃうのもそのひとつ。

ほかの場所に券売機はあるし、たぶん大人しく待っていても私の目的は達成できた。だらだらおしゃべり女と生真面目女性のリズムと協調しないタイムラインを選んだ。

それだけの話。けれどもそんな風に「自分の世界を選択する」意思と強さを行動力に直結させないと、飢えた輩の餌食になりやすい。

大きな街には「千と千尋の神隠し」に登場するカオナシがうじゃうじゃいる。厄介なのは彼らに顔がないこと。どこにいるのかわかりにくい。

顔のない群衆。得体のしれないもの。

相手が誰で何をするつもりなのかわかっていたら、なんとでもなる。誰が何をするのかはっきりしないことを「あらかじめ」防ぐのは神業。秘策はたったひとつ。

自分がなにをするか細かく決めない。

ガチガチぎゅうぎゅうのスケジュールを組まないで、ぼんやりとした方向性と外せない事だけを確認すればいい。トラブルが発生しても臨機応変に動きやすいからストレスも溜まりにくい。

ローマの文房具店から同伴帰宅。縦横斜め自由に使えるドットタイプのノート。ワンちゃんのブックエンドも土産。

これは最強の技。ぜひお試しを。


長距離バスの特等席

帰路は自由席で乗客はまばら。車内トイレ付き。往復割引チケットで約20ユーロ、2500円くらい。片道2時間半程度。

ペルージア・ローマの往復にFlixbusという長距離バスを使った。オンライン予約で座席指定もできる。

定刻通りだと早すぎるローマ到着だった。どうやって1時間半潰そうかな?と思考を飛ばしていた。すると往路バスはステーションに2時間遅れでやってきた。これで朝の時間潰し完了。

いつも現実創造のパワーは予想を上回る。

バスはほぼ満席。中央口から乗車して後部へ。席番号は14C。あれ?12番の1例後ろは番号無表示で最後部座席は20番。どういうことだ?14〜19番はどこへいった?

5席ある最後部席の窓側両サイドにひとりずつ着席済。右側の女性は窓ぴったりに、左側の男性は窓際席に荷物を置き、その横に座っている。残りはど真ん中。

ありがたい。満員のバスで通路に足を堂々と伸ばせるたったひとつの席が私を待っていた。しかも2席使える。女性側の空席に鞄を置いて寛ぐ。

ふと乗車前の出来事を思い出す。私の目の前の女性の足が高く上がらず、バスの階段に手こずっていた。周りにいる乗客や車掌が手をかしてようやく彼女は階段を登りきった。

あのときに痺れを切らして前の乗車口から乗っていたら最後部席のど真ん中に座ることはなかったかもしれない。待たされることで転がり込んだ幸運。

果報は並んで待て。

え?地下鉄のチケットの話と違う?そりゃそうだ。

逆もまた真なり。


日本万歳

ランチをいただいた割烹Hamaseiの座敷席

開館時間を待って大使館に電話。遅延の旨を伝える。さすがサービス大国ニッポン。「なるべく早くいらしてください」と丁寧な対応。イタリアで頻繁に起こる遅延事情もよく心得ている。

遠隔地からパスポート申請に行く場合、当日午後に発行してくれる。そうでなくても2日後にはパスポートが出来上がる。それを職場の同僚達に伝えるとこぞって驚く。

たいていどこの国でも申請から発行まで2〜3週間かかる。公務員だけでなく公共サービス全般に関わる人々が素晴らしい。個人差を抜きにして観察すると「そこら辺にいる普通の人を普通に信頼できる」確率が高い。

素敵な国、日本万歳。

ちなみに、ただ古いだけのガラクタのような政界システムはいただけない。本人達が高級アンティーク品だと思い込んでいるのがニッポンの課題に拍車をかけている。

魅力的なランチメニューの中から選んだのは寿司。
どれもこれも絶品。優しい味わいでした。

昼ごはんは割烹Hamaseiの寿司ランチセット。かんかん照りのローマの街を徒歩で移動した後のキリリと冷えたキリンビールは極上の味わいだった。

落ち着いた内装の店内。ランチタイムのピーク時には
このエリアはほぼ満席。近所の人々にも大人気の店です。

美味しい国、日本万歳。


5つ星ホテルへ誘う天使のささやき


昼食後また徒歩で日本大使館へ向かう。いくらゆっくり歩いてもパスポート受け取り予定時間まで1時間以上ある。

ふといい感じの店が目にとまる。

創業1930年という文字が窓ガラスを飾っている。レストランかバールか判断しかねたので扉を開けて女性に質問した。

コーヒーいただけますか?

レストランはたいてい3時頃にいったん閉店。夕食の時間に備える。バール(エスプレッソコーヒーなどを飲む場所)ならば継続して営業。

ウエイトレスいわく「ここは閉店ですがテラス席なら大丈夫ですよ。別の入口からどうぞ」とのこと。指示どおり角を曲ってみたら5つ星ホテルの正面玄関だった。

ウエイトレスがわざわざ迎えに来てエレベーターまで案内してくれた。屋上のテラスへ出るとプールサイドのバールがあった。暑すぎる。人もまばら。ここでは休めない。

場所を変える前にトイレだけ使おう。扉を開けるとプールの更衣室も兼ねた空間だった。タオルやドライヤーも完備。日本では特別なことではないけれどイタリアでは高級ホテルにしかない。

これはありがたい。顔を洗ってタオルを借りてスマホの充電もした。

街角で天使のささやきをちゃんと聞き取れてよかった。居心地良さそうな店だなあ。ここでしばらく休みたい…と私のなかに潜む天使が言ったのだ。

常識と記憶という悪魔はささやく。

いやいや。店内誰もいないし。閉店してるよね?
え?5つ星ホテル?!むちゃくちゃ値段高そう!
宿泊客でもないのにタオル使っちゃだめでしょ?

悪魔の言葉を私は聞き入れなかった。

シンプルで清潔感溢れるバスルーム。公共の有料トイレでも汚い場所が多いので店・ホテルなどの設備はありがたい。

快適なバスルーム兼更衣室でワタシもスマホも充電してから、軽く化粧もなおしてロビー&レセプション階へ降りる。素敵なグリーンの制服を着たドアマンが白い手袋で扉を開けてくれる。

「Grazie(ありがとう)」

微笑んで颯爽とホテルを後にする。カメレオンの異名をいただくことのある我が行動作法に心で拍手。その場に馴染むことが得意なのだ。

天使の声、聞こえますか?
ささやき、聴いてますか?


音痴で陽気なバリスタ

大使館前のバールでエスプレッソとピスタチオクリーム入り焼き菓子をお供に予約時間を待つ。

私の後に入ってきた女の子が英語で注文している。スーパーマーケットの情報も訪ねている。会話の合間にバリスタはラジオに合わせて歌う。下手だけど楽しそうだ。客が途切れたとき声をかけた。

バリスタをやっていなかったら歌手?

僕は音痴だからねえ。

わははと笑って、そしてまた楽しそうに歌い続ける。音を外しても楽しそうに歌っているエネルギーは伝わってくるよ、と言葉をかけた。彼は微笑んだ。

下手・上手い関係なく「楽しい」パワーを発する人には、楽しい出来事がやってくる。それがこの世のからくり。

そしてひとつ、このバリスタが歌いだしたきっかけ。これに気づいた人はたぶん私だけ。言葉につまっていた外国人の女の子の返答を待つ間の空気を和らげるために彼は歌いだした。上手くない彼の歌声は彼女の緊張をほぐした。

ひょっとしたら彼自身も気づいていない。

女のコが店を出た後もバリスタは歌を歌っていた。誰にもバレないようなさり気ないヒーラーを私は敬愛する。

ローマを1日で成した日のこぼれ話におつきあいいただき、ありがとうございました。素敵な週末をお過ごしください。

Grazie 🎶