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吉本ばなな 自選選集3 Death より N.Pに関する話

久ぶりに読書。もう何年も前に帰国のタイミングで買った本を手にした。彼女の作品はたくさんイタリア語に翻訳されている。

日本人だよと自己紹介すると「ミシマ・バナナ・ハルキは読んだよ」と言われることが多くて、不思議に思っていた。なぜにその3人?と。

その答えはベビーシッターアルバイトで行った街の本屋でみつけた。いわゆる文庫本のような本に翻訳出版されているのが、その3人の作品なのだ。

そのとき、この世界の偏り加減と境界線を実感した。日本で有名な作家でも別の国の言葉に翻訳されて広まらない限り、その国の人にとって、その人物は存在しない人間だ。

宇宙情報のパイプを閉じていた頃、ばななさんの「N.P」が怖かった。大学生の頃、友達が貸してくれたけれど、表紙を開いて読むまでに時間がかかった。

主人公、風美の前に現れる女性「萃(すい)」は私が眠らせて鍵をかけていた部分をこじ開ける。そして人間界の集合意識にある「近親相姦」の核にふれる。

生まれつき集合体としての社会意識にアクセスして傍観する性質をもっている私は、いわゆるタブー領域に近寄ったとき、そこの核を掴むために身を投じる。

実践する訳ではない。あくまでも知識と意識を深く傾ける傾向をもっている。そして人間脳で理解できるまで、その構造を探る。

その鍵の本になると本能で察知していたから、なかなか読み出せなかった。実際に読み進めたら、内容はそれほど怖くはなかった。ばななさん独特の文体リズムとひまわりのような登場人物「咲」が明るいムードを醸し出し続けている。

大学生の頃の「恐怖の予感」、それは30年後の私が乗り越える「怖さ」をぴったりと指していた。

「N.P」の登場人物達は作品の核になっている呪われた本に関わる人々。かなり狭い世界で濃い夏を過ごすストーリー。

ツインレイと再会してしまった夏に、私が体感したものはこの「N.P」の空気感に似てる。めちゃくちゃな性質の萃、落ち着きはあるけれど好きになってしまう人々に巻き込まれる風美、明るさを保って呪いの本に対峙する咲。

女性の登場人物達すべてをひとりで演じていたような夏だった。たった2年でなにもかもが変わった。住処・仕事・家族。目に見える世界は一変した。鮮やかに。軽やかに。

2年前に涙を流していた夜に、すでに感じていた今の暮らしの気配。ただ「どうやって」たどり着くのかさっぱりわからなかった。

覚悟を決めて行動すれば現実は驚く程のスピードで動く。それを意識的にやって、すべて現実になった。目に見える形として。

人生も学びも終わりはない。だからまた、次のステージがある。その気配を感じている。それはやがて現実になる。

陽射しがゆるぎ、少し涼しい夜。懐かしい物語を改めて読んだ。思い出の映画を見るように。

本を閉じて前に進む。

物質世界を整える土曜日にしよう。みなさんも素敵な週末をお過ごしください。


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