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パリ逍遥遊 コルドン・ブルーのワイン教室

フランスに来たからにはワインを勉強しなくては。との思いで、由緒正しき料理専門学校ル・コルドン・ブルーが主催するワイン教室へ。実は私、東京・青山のワイン学校に通った経験もあり、ワイン学校は今回が2回目。両者の比較もしつつ、コルドン・ブルーのワイン教室を紹介したい。

先ずは申し込みの時点で、東京とパリは異なる。東京は単に申し込みをして授業料を支払えば登録完了。一方、パリの方は、motivationなるエッセイを書かなくてはいけない。自分がなぜパリのコルドン・ブルーでワインを勉強したいかを小論文として提出、それが審査されるのだ。私のワイン熱(?)が認められたのかどうかは別として、とりあえず合格。晴れてコルドン・ブルーの学生となれた。

次の大きな違いは、(当たり前だが)東京は日本語で教えてくれるのに対し、パリはフランス語が中心。フランス語の後に英語の通訳が入るのだが、色や匂いの微妙な違いは母国語でなければ伝わらず、先生に教えてもらうのも、自分で表現するのも、かなり苦労する。そんな時こそ、腐葉土、馬の汗、ケミカル、白い花等々のワイン界独特の表現が生かされるのだが、よりによって自分がテイスティングしたワインが、梅干しやらタクアンやらの味がして、Est-ce que vous connaissez TAKUAN?(タクアンって、知ってる?)なんてフランス人に言っても意味がないわけで、これまた表現に苦労する。(ちなみに、若いピノ・ノワールは梅の香りがすることがあり、保存期間が過ぎで劣化してゆくワインはタクアンの匂いがすることがあるのだ。これホント。)

コルドンブルー4

続いて授業の内容だが、これはさほど変わらない。フランスの各地方(ブルゴーニュ、ボルドー、ロワール、アルザス、コート・デュ・ローヌ、シャンパーニュ、ラングドック・ルーション)の気候、ブドウ品種、そこから産み出されるワインの特徴を一通り勉強し、最後にテイスティングを行う。テイスティングは、東京もパリも「比較試飲法」が採用され、白なら白、赤なら赤を約6種類テイスティング・グラスに注がれ、それぞれを比較することで各ワインの微妙な違いを認識しながら、ブドウ品種や各地方ワインの色・香り・味を経験してゆくというものだ。
なお、東京では、ワインに添えてパンが出されるのに対し、パリではパンに加えて、当日勉強するワインに合うチーズも出される。これもチーズが簡単に手に入るパリならではの特色だ。

一つ大きな違いがあるとすれば、東京の方はフランス至上主義で、主にフランスワインのことを学び、少しイタリアやドイツのワインを経験するといった程度なのに対し、パリの方は、フランス・ドイツ・イタリアももちろん勉強するが、アルゼンチン・アメリカ・オーストラリア等のいわゆる新世界ワインについても勉強する。さらに、日本(甲州ワインなど)も講義内容に含まれている。これは、パリジャンが自国のみならず他国の優れたワインにも興味があることと、受講者がフランス人以外にもバラエティに富んだ人種(私が参加したコースの生徒は、スペイン、ドイツ、アメリカ、アルゼンチン、ベトナム、日本等々)であることに起因するものと考えられる。

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そして、「アルザス街道を行く」の回でも紹介した通り、最後には、テイスティング試験が待っている。東京とパリの決定的な違いは、東京では通常のテイスティング・グラスを使うのに対し、パリでは、ブラインド・テイスティングといって真っ黒なワイングラスを用いる点だ。ブラインド・グラスに注がれたワインは、上から見ても色が判別できず、匂いだけでは、白なのか赤なのか全くわからない。この状態で、におい(臭覚)、味(味覚)でブドウの品種、地域、収穫された年代、特徴(果実、花、植物、香辛料、芳香、香り)等を回答する。

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ワイン一筋30年の私も(齢40だが)これがなかなかわからない。しかも、神経を研ぎ澄ませ、初めの一嗅ぎ・一飲みで大体の目星(赤か白か、地方は北か南か、単一品種か混合品種か)をつけないと、2回目、3回目とテイスティングするうちに疑心暗鬼に囚われ、赤か白かもわからなくなってゆく。

真っ黒なテイスティング・グラスは日本でも手に入るので、嘘だと思ったら是非ご自宅で挑戦してもらいたい。一点気をつけてもらいたいのは、決して高いワインで行わないことだ。1000円のワインと1万円のワインの見分け(しかも、赤とか白とかまで!)もつかないことに気づかされると、グラスをぎゅいんぎゅいん回して蘊蓄垂れながら高いワインを飲んでいたあなたの威厳を損なってしまうことになりかねない。安いワインで外しても、「うん、そういう解釈もあるよね」と言ってお茶(ワイン?)を濁せる。

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