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パリ逍遥遊 我が家の雨漏り

ここ数日の悪天候で職場に行くのも帰るのも億劫だ。

東京と比べると雨水が恐ろしく汚い。上を眺めると大きな美術館に迷い込んだような景色のパリだが、下は地獄のパリ。土埃と混ざり茶色になって、タバコの吸い殻や犬のフンをさらって下水溝に落ちてゆく雨水を見ていると、ダンテの神曲に出てくる地獄前域のようだ。ここからが地球の中心に落ちてゆく、漏斗状の地獄の始まりだ。

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そんなこんなで仕事から帰ってきて玄関の電気をパチリ、ってあれ?電気がつかない。
部屋に入り、居間やお風呂の電気スイッチも入れてみたが、電気はつかず。停電だ。家に懐中電灯がないので、スマホの明かりだけを頼りに我が家を探険する。

台所はどうかな?と思って入ると、床がモン・サン・ミシェル周辺の遠浅の浜辺のごとく濡れている。いや、この広さはハルシュタットの湖、モントレーの街から眺めるレマン湖、若しくはフランスはオート=サヴォワ県のアヌシー湖とでも言うべきか、と現実逃避したくなるほど、泥水?雨水?的なものが食物のある台所一面を占めているのを見るだけで、萎える。。。

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一応理系ということで、暗い中、ブレーカー、分電盤、配線やらを調べると、どうやら台所の天井裏に配線があり、上の階からの水漏れが天井裏を占め、配線に接触しショートしたらしい。

原因はわかったけど、どうすれば良いのかわからず。スマホで調べると、こんな時パリジャン・パリジェンヌは配管工(plombier)を呼ぶらしい。英語対応OKの配管工がいたので、急いで電話。

配管工が来るまで暇をつぶす。配管工って日本では珍しい職業だが、フランス家屋は水周りが貧弱なのでメジャーな職業らしい。ところで、「世界で最も有名な配管工」は、日本出身のイタリア系男性だな~、とかいうクイズを思いついちゃったりして。
あなたが日本人だったら、絶対知っているはず。答えは最後に。

とか妄想(?)していると、ボンジュール(英語じゃないんかい!)とトルコ系のお兄さんがやってきた。調べてもらってところ、台所の天井裏が雨漏りしているとのこと。うん、それは知っている。
上の階が原因だから一緒に行ってみよう。僕がフランス語で交渉してやる。と、フランス語で言ってくる、頼もしい(というか英語を話さない)お兄さんと一緒に上の階へ。

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上に住んでいたのは、アラサーぐらいのパリジェンヌ。こいつが雨漏りの原因か!と思っていると、実は彼女のお部屋も同じ現象(天井から雨漏り)らしく、台所がぐちゃぐちゃの状態で住んでいるらしい。顔は可愛いが足元はぐちゃぐちゃ、パリの街を象徴するようなパリジェンヌだ。
さらに上の階が原因だろうとみて、3人で2階上の部屋に行くと誰も出ない。と言うことで、お手上げ。
パリジェンヌも「悪いのは私じゃないわ」という態度。日本の女性だったら「下の階に迷惑かけてすみません」ぐらい言うけどね。普通。

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万策尽きたため、自室に戻り、配管工のお兄さんに応急処置をしてもらい、とりあえず雨漏りは収まった。不安だけが残る。
応急処置のお金を払い、最後にこれに署名してくれと出された紙には、「私は何時何分に配管工を呼びました」という一枚紙。これ何?と尋ねると、これがないとトルコ系配管工は警察に捕まるとのこと。家を応急処置する道具一式は、家に侵入する道具一式でもあるらしく、泥棒目的でこの近所にいたわけではないことを証明するものらしい。パリの外国人労働者の厳しさを目の当たりにする。

さて、雨はその後も数日間続き、結局また雨漏り発生。
2階上が原因のため、配管工を呼んでも無駄なのは前回で学習した。かといって、上は天国・下は地獄のパリジェンヌのように水浸しの状態で生活も嫌だ。自分でなんとかするしかない。

繰り返し言うが、腐っても理系だ。天井からの雨漏りをキャッチして台所の排水口に流す漏斗を自作してみた。ダンテには遠く及ばないが、漏斗状のミニ地獄の出来上がりである。我ながらなかなかの力作で、どんな量の雨漏りも吸い取ってくれる。

家の雨漏り

さらに数日後、もはや嵐と呼べるぐらいに大雨が降ってきた。上のパリジェンヌが「ワーッ」「キャーッ」と言った声を上げて、男性(彼氏?配管工?)とトンカチトンカチやって日曜大工っぽいことをしている。
きっと大量の雨水が流れ込んでいるのだろう。私の力作のミニ地獄漏斗も、「ジュコー!ズズズ、ゴゴゴー!」とものすごい音を立てて、大量の雨水を吸い込んでいる。

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面白いからずっと上の苦戦を伺っていたら、遂に2階上の住人が登場。1階上のパリジェンヌと壮絶な死闘になり(注:音声のみ確認)、終いには、みんなでトンカチトンカチやり出している。私は1階上だろうが2階上だろうが、とにかく雨漏りを止めてくれと(日本語で)祈るのみである。

後日、フランス語の先生に事の一部始終を伝えたところ、「雨漏りを経験してからが、本当にパリに住んだと自慢できる。おめでとう」とのこと。

「この世には2種類の人間がいる。パリに住んだことがある人間と、パリに住めなかった人間だ」と言う格言があるとかないとか。今回の事件で、本当に「パリに住んだことがある人間」になった。

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「世界で最も有名な配管工」は、マリオブラザーズ・シリーズのマリオ。初期のマリオは、土管の中でカメやカニを退治してたけど、最近のマリオは配管工の仕事はしていないようですね。


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