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#翻訳 今後の小売りについての考察

the Atlanticがの飽和する物と私たちの消費行動についての記事。
D2C、D2Cと言っているけれど、結局は富裕層向けにモノがあふれた世界からは抜け出せないかも、という考察が面白かったです。

個人的には世のトレンドは「思考停止」に向かっているというのは同意でしたが、物が作られた後は体験の提供が始まるのでは?と思ったり。

原文
There Is Too Much Stuff
The human brain can’t contend with the vastness of online shopping.

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多すぎるモノたち

アマゾンは、理論的には、人々の欲求に応えるためのサイトだ。このメガ小売りの無尽蔵な倉庫によって、私たちは家庭用品やその他日用品など、特に楽しみながら買うわけではない品々に気軽にアクセスできる。例えば、ほとんどの人が洋服のハンガーを買うときに、熱望して買うことはないだろう。ただハンガーが必要だから買うのだ。

それにも関わらず、アマゾンの検索ボックスに「ハンガー」と入れただけで、このメガ小売りは"2万以上"のオプションを表示する。1ページ目の結果は、半分はベルベット系のハンガー、残りはプラスチックハンガーと見なせる。価格にも大した差はなく、ほとんどが最初の数ページに、平均3か4の星がついた数百のレビューと共に一覧表示されている。もし具体的なハンガーのニーズや好みがあったとしても、明確に1つに絞り込むことはできない。選択肢は常に複数ある。

この現象は毎日、携帯の充電器、ペットボトルの水、フラットパネルのテレビなどすべての物品について繰り返されている。しかもアマゾンだけではない。グローバルな製造業向けの器械は今、ほぼ全ての物を大量生産する能力がある。小売り産業の生産量は、2007年から75%も膨らみ、ある分析によれば35兆ドルと言われている。そして何百万人もの生計が、この持続的な成長に依存している。

この成長と同時に、アマゾンの成功はウォールマートやターゲットのような小売りが、特にオンラインで、消費者により多くのものをより早く届けることを促進した。インターネットショッピングのブームは、例えば余分なものを正規販売の小売りから買い上げる、Overstock.comのような小売りも含めて、過剰消費を拡張してきた。ドロップシップの場合、サイトは販売するための在庫を持つ必要すらない。例えばWayfairはカテゴリーのスコア順に数千の製品を羅列するが、ほぼ在庫を持たずにいる。その代わり、製造元が消費者に直接発送することで、コストを下げているのだ。

訳注:
ターゲット
アメリカの大衆向け小売りスーパー。洗練されたデザインのプライベートブランドの衣服や、運送費にもコスト意識を持った(箱を小さくしたり、駐車場で荷物受け取りできたりなど)EC対応で成長を遂げています。

Wayfair
家電に特化したECサイト。Amazonとの差別化のため、ニッチ商材に特化してスタートしてグロースしたのが特長。
こちらのmediumがわかりやすかったです↓
事例研究1 米国最大の家具特化EC「Wayfair」~画像検索からARまで~

商品の多様さと選択肢の拡大のような、消費者にとって都合の良い変化は魅力的なことだ。ある経済理論は、自由で競争的な市場は最高品質の物の値段を下げると仮定しており、この理論は多くのアメリカ人が持つ消費者の選択に対する理解を司っている。しかし軍備競争の中で、できる限り多くのサンドイッチバッグやビーチタオルを売るためには、多様性は全く価値がない。この問題はすでに明らかである。

近代のインターネットショッピングは、選び切れないという嵐を呼び起こす。研究では一貫して、人は選択肢が多い人より少ない時のほうが、簡単により良い選択ができると発表されている。このことは、利用できる情報が限られていたり、混乱していたりする時に、たくさんの選択肢を持つことは特に困惑を招くということも示している―ほぼ同じに見える、ハンガーの終わらないリストのように。公平に見て、どの情報が数十の似たようなハンガーを効率よく評価するのを助ける情報なのかはさっぱりわからない。最初のページにある32のベルベットの選択肢は、色や1パッケージ当たりの数以外では、どんな方法でもお互いを区別できない。(アマゾンは、この表示の拡大についてのコメントの要求に答えなかった。)

これらの、大量で意味のない選択肢は、消費者を遁走状態にさせることもある。実際、オンラインショッピングの数日後には、私はその決断をしたか覚えていない。私はよくアパートのエレベーター横のアマゾンの箱の山の前で立ち止まり、何か注文したことを忘れてはいないかを確認するためだけに、ラベルの名前をみている。たいてい、近所の人たちも一人は同じようなことをしている。いつも、2人とも何も箱を持たずにエレベーターに乗る。

消費者がオンライン上の無限の選択肢の海の中で何を買うべきかを決める手助けをすることも、家内工業的になってきた。現在多くのブランドや小売り店が、"キュレーション"、"差別化"、"発見"といったマーケティングバズ用語を振り回していて、彼らの理想の消費者をターゲットに、物の詰め合わせを売ろうと試みている。企業はデジタル広告のデータを性別や収入や個人的嗜好に応じて一覧化し、その中からターゲット顧客を探している。アメリカ企業は消費者が活用できる適切な量の選択肢を提示する能力を失ってしまったため、小売りの中にはゴーストが必要になった。それはアルゴリズムにせよインフルエンサーにせよ、またはしゃれたアドテクにせよ、製品がインターネット中に広まるようにしている。

実際のところ、多くの人がインスタグラム上のインフルエンサーのライフスタイル―あか抜けた若い20代の母親が永遠に休暇を取っている―に自然と引き寄せられる理由の1つは、選択疲れである。インフルエンサーは独自の世界観をもって、製品とサービスを推薦する。一度自分の好みにあったインフルエンサー達を見つけてしまえば、彼らは特定の世界観と結びつき、取りうる全選択肢を選別してくれる。インフルエンサーはしばしばブランドや小売りから金銭をもらい、特定の製品を支持しているが、多くは、純粋に製品がフォロワーにとって気に入るだろうと考え、購入リンクを通じて販売経路を作ることを、大きな収入源としている。

比較的新しい消費者向けスタートアップは、全体的に新しい手法だ。既存の物品の海の中で納得感を作るのではなく、既存の常識を破壊すると宣言するのだ。Casper(マットレス)、Glossier(化粧品)、Away(旅行鞄)やその他多くが、消費者へ選択の悩みからの解放を提供することで成長し始めている。製品は、美しく心地よく、高機能なものがごく少数存在し、通常中価格帯の値段である。良いものを売っているが、それよりも重要なのは彼らが製品に自信を持っており、ラットレースを抜ける能力があることかもしれない。

訳注
Casper, Glossier, Awayが全部含まれていたし、面白かったです↓
【インスタ平均フォロワー数70万人】NYで話題のD2C店舗に実際に行ってみた

Casperについて↓
“低コストで良質な睡眠体験を”──常識破りのマットレス・ベンチャー「Casper」
マットレスのCasper、良質な睡眠を誘うスマートライト「Glow」発売

なお、Glossier、Awayは創業者自身が、創業前から価値観を発信して製品をキュレーションするタイプ。
Glossierの創業者、エミリーワイズはシード期の調達時点でブログ"Into the Gloss"を立ち上げ済み。Awayのジェン・ルビオは創業より前から自分の旅をImstagramに投稿していました。
Awayは雑誌「HERE」を、Casperも「Woolly Magazine」を発刊するなどメディア化も進んでいます。

これらのうち最も成功した企業は、10億ドル以上の年間収益をあげた。彼らは自分たちのタイプの突き詰めたキュレーションこそが消費者が求めているものだと信じるという強い慣例を持っている。例えばTrader Joe'sは競合である郊外の日用品店よりも少ない製品を売っているが、依然として日用品店の消費者ランキングでトップを飾る。

1,000ドルのマットレスと300ドルのスーツケースは、特定の層の消費者が持つ選択の悩みを解決する。しかし小売り経済の中に意図したメッセージを入れようとしても、結局はシステムによって既に崩壊した消費社会の中で行っているに過ぎない。多くの物品が、もう少し公平に分配されれば、もう少し価値があったかもしれない。しかし物を作る側は、そのエネルギーを、既に多くを持っている人たちにフォーカスする。選択肢は、自由に使える所得を持つ者向けに拡張されているため、新鮮な食品や良質なおむつのような基本的なものを買う機会でさえ、アメリカの低所得層向けには縮小している。

使い勝手の良いシンプルさを約束するスタートアップも、構造的にみて、最終的には飽和した多様化の中に埋もれてしまうかもしれない。このような企業のほとんどは、ベンチャー・キャピタルによる数億ドルの資金によって成り立っており、投資家は、1つの素晴らしいマットレスやスニーカーを売るだけでは達成できない急速な成長率を期待する傾向にある。Casperは寝室家具とベッドリネンに事業を拡大した。Glossierは感度が高くなくても利用できる基礎化粧品類のマーケティングから始めていたが、最近フルラインの化粧品をローンチした。正しいものの株を買い込んだとしても、ものから抜け出すことはできないのだ。