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忘れられた子どもたち

この本は、日本の民俗学者である宮本常一がこれまでに書いた本の中から、「子と母親」に、特に「堕胎」や「もらい子」などに焦点を当てたものを集めたものである。

この本には、現代に生きる私たちには、馴染みのない、そして衝撃の強い言葉が多く記されている。
それでも、この本を読まなければと、なぜか私は強く思い読み始めた。

この本は、マイノリティの声や現状を集めた、本当に貴重な本である。
「生の声」は、その人たちが生きている間しか聞くことができない。


貧しい時代の日本

私は平成生まれで、バブルがはじけ、冷え込み続けている時代に生きている。
裕福だ、とは言えないが、貧乏ではなかった。
家があったし、着る服もあったし、三食のご飯、そしておやつもあった。
たくさんはさせてもらえなかったが、習い事もさせてもらった。
そして、何より、私は「この世に生きることができた」。

この本では、貧しいがゆえに子を育てられず、間引いたり、捨てたりする話が紹介されている。
当事者の話もところどころ記されており、一層現実味を帯びる。

子どもをすでに二人ほど産んでいるから、その次の子は産めない。
産んだはいいものの、育てることができない。
妊娠したが、産めない…。

そのような状況に陥ると、間引きや堕胎をすることになってしまう。

「普通」とは何か

この本で取り上げられている時代は、養子をとることや、子供を売ること、そして間引くことは、特段珍しくない時代だったようだ。

「養子」をとることも、今のように厳格な条件をクリアしたのちに…というわけではなく、「この子いる?もらってよ」「あ、今丁度働き手が欲しかったわ~」くらいのノリで行われていたようだ。

そう考えると、案外「かわいそう」「大変な時代」…と思っているのは、その時代に生きていない人達なのかもしれない。
それらが「普通」の時代や生活に生きていれば、「ま、こんなもんだよね」と意外と生きていけるのかもしれない。

いや、それも私が本を読んでの憶測であって、実際はやはりつらかったのでは…
などとぐるぐる考える。

珍しくなかったからと言って、大変じゃなかったわけではないだろう。

私なりに考える

間引きや堕胎は、正直、私は嫌悪感を持っていた。
この本を読む前にも、かつて日本ではそのような時代があったということを知っていたし、堕胎に関しては、今もある。
しかし、この本を読んで、嫌悪感はありつつも、そうか、その人その人の事情があるよな…と思うようになった。

誰も、間引きたくて間引くわけではない。
手を下した後に、激しい後悔をし、せめてあの世ではお世話をしてあげたいと語った女性もいると、本書にあった。
そうしなければならない時代背景が、そこにはあっただろうし、きっと私には理解することができない。
理解できないのは、今の私の生活が、法的にも整っていて、福祉も充実しているために、「なんとかなる」からだ。
「なんとかなる」のではなく、「なんとかしてもらってる」というのが正しいかもしれない。

保育園もなく、電化製品もなく、家事が労働の時代の中、農業などに携わりながら子育てするなんて、考えただけでも無理だ。
今、私はフルタイムで働いて、2歳児を育てている。
が、それができるのは、家事が労働じゃないからだ。
そして、保育園があるからだ。

現代の私たち

改めて自分の生活を見直してみると、悩みが贅沢だと思う。

あー今日はご飯作りたくないと思えば、冷凍食品を使えばいい。
洗濯は夜、スイッチを押すだけでいい。
お風呂もボタン一つ押せば沸くし、家の中もエアコンで暖かくなる。
そりゃ面倒だなと思うことはあるが、「しなければ死ぬ」ほどの家事は、今の私の生活にはない。

それなのに、私は文句を言う。

子どもの安否を心配しないで仕事ができるのに、「新しい保育園月曜日定休なんだって!仕事どうするのー!」などなどなど…。

妊娠した子供を無事に産むことができ、そして大きな病気もなくここまで育てることができた。
それだけで幸せであることを自覚しなければならない。

最後に

この本の中で取り上げられている時代にも、子守を専業とする女の子がいる。
いつの時代も、子育てって一人だけ、そして家族だけではできないんだと思う。

私の娘は、まだ2歳だが(2023年現在)、
たった2年だけでも多くの人に助けられてきた。
長くなるので羅列はしない。

それでも私は、時々かなり調子に乗った発言をする。
「私はさ、フルタイムで働いてるけど、夜はちゃんとご飯作ってるよね。偉くない?」
こちらは、私が実の母親に言った言葉である。

私には感謝の気持ちが足りない。
もっと、現状に感謝をし、より一層頑張ろうと思う。

宮本常一(2015)『忘れられた子どもたち』

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