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溶岩が流れるそばで

キラウエア火山の噴火は、
レイラニエステートという住宅地からはじまった。
あっという間に住宅地が大地に戻っていった。
8番目の亀裂から吹き出した溶岩は衰えることなく、
今では巨大な火の河になって、海へと流れ落ちる。
ほんの二ヶ月で、ハワイ島の形は変わった。
落ちた溶岩が大地になり、新しい島まで現れた。

今回の溶岩は2つの大きな住宅地を通り、
700以上のお家が溶岩の下に消えた。
住宅だけでなく、オーガニックファームも、
たくさんの海の生き物も消えてしまった。


息子のイオが卒業前にやってきたのは、
ちょうど噴火がはじまった頃だった。
溶岩の流れがまだどこへ向かうのか、はっきりしない状況だった。
いつも通る道が通行止めになり始めた。
わたし達がよく行く温泉も、今回は無理かと思っていたら、
お向かいのミッシェルが”ウォームポンドに行ったよ”と話してくれた。
アハラヌイパークという、海に面した温泉が湧き出る大きなプール。
車を停めるのも大変なほど、いつも人で賑わっている憩いの場だ。
パークが開いている!と、翌朝わたし達もポンドに向かった。

アハラヌイはシーンと静まり返っていた。
心なしか、お水がいつもより温かい。
おじさんが二人ほど、ゆっくりと泳いでいた。
「誰もいないねぇ」一人のおじさんが言った。
「こんなに誰もいない温泉は初めてですね」わたしも答えた。

しかしその日の午後、この温泉は閉鎖になった。
ハワイ島の誰もが、この場所でまた遊べる日を祈ったけれど、
数日前にアハラヌイパークは溶岩の下に消えた。


この噴火がはじまった頃、わたし達は不安な日々を送っていた。
地質学者達の分析も予想も、あまり役には立たなかった。
そんなとき、ヒロのクムフラであるケクヒカナカオレのお話を聞いた。

「この島は今日まで何千年も噴火をくりかえし、
わたし達は噴火と共に暮らしてきた。
今このとき、この場所に居られることを、幸運と思いなさい。
大地が作られる瞬間を、そばで目撃できるのだから。」
「朝起きたとき、舌にある硫黄の味を感じなさい。
この空気に、空に、すべての中に感じるものを記録しなさい。
わたし達は何千年もそうしてきたのですから。そしてその記録を
100年後の人々に伝えなさい。」

クムの言葉はすっとわたしの中に入り、わたしは外を見た。
溶岩流は夜空を茜色に染めあげている。
貿易風がやむとき、湿った空気の中に硫黄の匂いを嗅ぐ。
噴火煙が雲を作り、雲は大きな大きな雨つぶを降らす。
人々は声を掛け合い、今日を生きている。

大好きな場所が次々と消えていくけれど、
航空写真は新しいポンドをいくつも捉えていた。
そう、ペレはもっと美しいポンドを創っていた。
自然はわたし達の想像以上なのだ。
わたしも目撃者の一人として、
今も続く変容を心に記録する。

*クムフラ- フラの先生

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