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蘭の花

オレゴン州に住んでいたわたしがハワイへと移住したのは、
一人息子のイオが高校3年のときだった。
離婚はしても、父親の家とは近所だったので、彼は両家を行き来していた。
いつも普通に会っていたのが、ハワイとなるとそうはいかなくなった。

イオは州立大学へと進学し、友達と家を借りて住み始めた。
勉強と仕事とで忙しい日々を送っていた。
わたしの新しいライフも、そうそうオレゴンへ遊びに行けるような
余裕のあるものではなかった。
会えない日々が続いていた。

ある時、「友達二人を連れて、ハワイに遊びに行っていい?」
とイオが言った。
「もちろん!」久しぶりの再会は楽しみだった。
その後、旅の計画がなかなか進まない様子に、本当に来るのかなぁと
心配になったころ、イオから連絡があった。

「お金が少し足りなくて、今回はやめようかなと思っていたら、
サラが貸してあげるから行こうよ、と言ったので、行くことになったよ。」
「お金が足りないんなら、わざわざ借りてまで来なくていいんじゃない?」
「うん、そうも思ったけど、ハワイに行きたいからさ。
帰ったら仕事をして返すから大丈夫だよ。」
「そうか、ならお母さんは誰も体験したことのないハワイをあげるね。」
わたしができることは、忘れられないハワイの旅をさせてあげること。
楽しい思いをいっぱいさせてあげよう… そうして旅は始まった。

マウナケアで、オレゴンでも見たことのない満天の星空を見上げた。
ローカルしか行かない温泉で、魚とともに泳いだ。
コナの海でシュノーケリングや釣りをした。
ガレージセールをまわり、ククイナッツのレイをもらった。
カメハメハ大王の銅像の前で、同じポーズをした。
みんなで餃子を作った。
滝も、洞窟も、溶岩を見るために4時間ハイクもした。
やってみたかったキャンプだって実現した。

日曜日のマーケットでサラがわたしに蘭の花を買ってくれた。
「こんなに楽しい旅をしたのは初めてです。ありがとう!」
「こちらこそイオを連れてきてくれてありがとう。」
そうお礼を言うと、サラは言った。
「イオがお母さんにすごく会いたいのを知っていたから。
わたしはお母さんに会って欲しかったの。それに、ハワイにも
もちろん来たかったしね!」
イオがずっとお母さんに会えていないなら、わたし達が力になろう、
それが今回の旅のもう一つの目的だったことを知った。
いい友達を持ったなぁと心が暖かくなった。

サラからもらった蘭の花は、花を落としてから庭のオレンジの木が
すみかになった。
根をつけた頃、また小さな花を咲かせた。

彼らは今年、大学を卒業した。
イオはピースコープで中国へ、サラもアメリカ国内のボランティア団体へ、
タートルは教職へと、それぞれの道を進み始めた。
優しい心とチャレンジ精神、そしてオレゴンで培った自然の中で生きる力。
これからなにが起こっても彼らは大丈夫、と母は思う。

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